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人権・校閲

こちら人権情報局

「サッカー無観客試合」の教訓

森本 類

■Jリーグでもっとも重い処分

 3月23日。埼玉スタジアムで、Jリーグ史上初めて無観客試合が行われました。リーグ22年目でもっとも重い処分でした。

 発端は8日。「JAPANESE ONLY(ジャパニーズ オンリー)」と書かれた横断幕がスタンドに入ってくる人に向けて掲げられたことでした。かつて米国で、公衆の場から黒人を締め出すために「White(白人) only」と掲げたのを思わせる表現です。事態を重くみたJリーグは13日、J1浦和に対し無観客試合1試合の処分を科しました。

無観客試合拡大試合前、観客のいない埼玉スタジアムで差別撲滅宣言をする浦和の選手たち=3月23日午後1時7分、さいたま市緑区、上田潤撮影

 横断幕を掲出したサポーターグループは無期限入場禁止処分となりました。掲げた男性3人は「差別の意図はなく、反省している」が、「(海外からの)観光客が来て応援の統制が取れなくなるのは嫌」「ゴール裏は『聖地』。他の人に入ってきてほしくない」。Jリーグの村井満チェアマンは「掲げた側の考えではなく、受け手がどう感じるかに目を向けるべきだ」と述べました。

 「こちら人権情報局」では昨年も、サッカーにおける人種差別を取り上げました(サッカーを汚すもの)。その時は海外の話が中心でしたが、今回はJリーグでもっとも観客動員数が多い浦和の本拠で、残念な事件が起きてしまいました。

■ガ大阪・遠藤選手「最初で最後に」

 新聞各紙は、行為を非難し、差別に反対する社説を載せました。

 「窓ガラス1枚が割られたことを放置してはいけない。黙っていると窓は次々と割られて社会が荒廃するからだ。私たちは人種、肌の色、性別、宗教などを理由にしたあらゆる差別が広がる前に毅然(きぜん)とした態度で立ち向かわなければならない」
3/12毎日「差別的横断幕 『割れた窓』を放置するな」

 「熱狂的ファンである自分たちには、入場者を選別する権利があるとでも思っているのだろうか。よそ者を排除しようという狭量な意図を感じ、不快感を覚えたファンは多かっただろう」
3/15読売「浦和レッズ処分 愚行を放置した責任は重い」

 「人種を理由にした排斥を許す余地は、政治、経済、暮らし、どの領域にもない。差別はその被害者だけでなく、社会全体を息苦しくし、自由をむしばむ」
3/17朝日「横断幕問題 差別許さぬ社会意識を」

 無観客試合といえば、2005年6月に日本がドイツ・ワールドカップ(W杯)出場を決めたアジア最終予選の北朝鮮戦を思い出す方も多いでしょう。3月に平壌でのイラン戦で観客が騒ぎを起こしたため、国際サッカー連盟(FIFA)が北朝鮮に「中立国で無観客」という処分を科し、バンコクで行われたのでした。

 このときの試合に途中出場した遠藤保仁選手(J1ガ大阪)は、今回の無観客試合について「これが最初で最後になってほしい。無観客で楽しいと思う選手はいない。誰でもたくさんのお客さんの中でプレーしたいもの」とコメントしています。

■教訓を生かせるか、世界がみている

 ごく一部のサポーターの行為、と片付けることはできません。ジャーナリストのマイケル・プラストウさんはいいます。

 事件の記事を新聞で読んだ人は世界的に多勢いると思います。これまでの20年間、ほとんどの試合で何の問題もなかったことについての記事は一人も読んでいないでしょう。そして、この事件を読んだ人には、これしか頭に残らないし、これは日本に常にあることだと思い込んだ恐れがあります。
3/22フットボールチャンネル

 コラムニストの小田嶋隆さんは「今年はワールドカップがあり、世界の関心が集まる。一部の観客の行動が、ヘイトスピーチや政治の右傾化などと関連づけられかねない」といいます。

 一方で、こうした行為にはっきりと反対を表明する動きもありました。J1横浜マのサポーターが「Show Racism the Red Card」(人種差別にレッドカードを)と書かれた横断幕を、J2岐阜のサポーターが「Say No to Racism」(人種差別にノーと言おう)という横断幕を掲げました。

 ブラジルW杯まで2カ月あまり。6年後には東京五輪があります。教訓を生かせるか、私たち一人ひとりが問われています。

(森本類)