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人権・校閲

こちら人権情報局

歌でほぐれる心もあるから――吃音を知りたい(上)

青山 絵美

■気持ちよく声が出せる場所

 「どんなときも、どんなときも、僕が僕らしくあるために」

 軽やかな伴奏にのった歌声が、小学校の音楽室に響きます。歌っているのは、「吃音(きつおん)」のある人たち。合唱を中心とした交流などをおこなっている吃音サポートグループ「ジークフリーツ」のメンバーです。交流会は、月に1度、東京都狛江市の狛江第一小学校でおこなわれています。

 この日の参加者は10代から40代までの27人。槇原敬之さんの「どんなときも。」からはじまり、「贈る言葉」「明日があるさ」など、誰もが知っている8曲を、声を合わせて歌いました。

 「吃音」とは、話すときに、《1》「わ、わ、わたし」と繰り返したり(連発)《2》「わーたし」と引きのばしたり(伸発)《3》「…………わたし」と音が詰まって出てこなかったり(難発)することで、思い通りに話せないことをいいます。さまざまな研究やアプローチがされてきましたが、原因ははっきり分かっておらず、決定的な治療法もまだありません。3歳前後で症状が出ることが多く、7割程度は自然になくなっていくそうですが、大人になってからも症状に悩む人は多くいます。どの言語でも、100人に1人程度の吃音者がいるといいます。

 吃音に悩んだ英国王ジョージ6世とスピーチ・セラピストの交流を描いた映画「英国王のスピーチ」(2010年)で、ご存じの方もいるかもしれません。

 吃音のある人の多くは、歌う際には吃音が出ません。「英国王のスピーチ」でも、言葉に詰まるジョージ6世に、セラピストが「歌うといい」と話す場面があります。ジークフリーツは、吃音を心配しないで気持ちよく声が出せる場をつくることを目的に、歌を通した当事者同士の交流をおこなっています。

 吃音者の中には、話すことに自信をなくし、会話が必要な場面を避けて、コミュニケーションに消極的になってしまう人もいます。ジークフリーツ代表の音楽療法家・松田真奈美さんは「一人きりで悩んでいた人が同じ悩みを持つ人と交流する場になるように」とグループをたちあげました。

 松田さんは、自身に吃音はありませんが、音楽療法の仕事の一環で訪れた老人ホームで、吃音のあるお年寄りに接したことをきっかけに、吃音の問題に取り組み始めました。大人の吃音者の受け皿がないと感じた松田さんは2002年、団体を立ち上げ、以降、支援の活動を広げてきました。「最初は当事者の人たちから『触れてくれるな』という反応もあった」。続けてきたことで、受け入れられ始めたといいます。

 参加者の男性は「歌うことで、感覚的な心のほぐれを感じる」と話します。通ううち、吃音への悩みが軽くなったという人もいるそうです。

 グループの運営に携わる言語聴覚士の吉澤健太郎さん(北里大東病院)は、「歌にはリズムやメロディーがあるため、声が出やすい。話すこと自体を避けがちな吃音者は、声を使う機会そのものが減る場合もあるため、みんなで歌うことは声を出せる機会になる」。ともに歌うことで感動を分かち合い、コミュニケーションの大切さを再認識することを経て「『もう一度、話してみようと思える気持ち』が育まれるのではないか」と話します。

 現在は、歌の交流会の他に、言語聴覚士への個別無料相談、専門家を招いての学習会、女性限定の交流会などをおこなっています。

■「緊張しているからではないんです」

4コマ漫画拡大
 ジークフリーツに参加する男性は「吃音は常に出るものではなく、同じ状況でも話せたり話せなかったりする」。参加者の女性は「声を出そうとしてみないと、自分でも分からない」と話します。「吃音が出やすい場面」や「苦手な言葉」はありますが、たとえば、「緊張しているから言葉に詰まっている」わけではないのです。吃音者の多くは、緊張したりあわてたりしなくても、吃音が出るときには出ます。

 別の参加者が、吃音への理解を広げるためのポスターに描いた4コマ漫画があります。

 言葉に詰まる吃音者の女性。上司は優しく「落ち着いて話してごらん」と話しかけます。善意からの「ゆっくりとね」という言葉に「……はい」と小さく答えながら、女性は「そうじゃないんです」と心の中で叫びます。

 「緊張しなくていいよ」「ゆっくり話してごらん」。よかれと思ってかけられる言葉が、吃音者を苦しめることがあります。「『ゆっくり言えば言えるよね』と言われているようで、『ゆっくりでも言えないんだ!』とつらい気持ちになる」。吃音のある女性は話します。理解されていないと感じること、その説明ができないことが、吃音者を苦しめます。

 松田さんは話します。「漫画の係長さんも、悪い人ではないんですよ。でもだからこそ、吃音の問題をよくうつしていますよね」

                             ◇

 吃音について、知ってほしい。何に苦しんでいるのか、どういうことなのか――。見えにくい問題であるため、理解されにくく、当事者たちだけが苦しむことも多かった吃音。社会に理解されることが、悩みの緩和につながると、周囲に知ってもらおうと考える人も増えています。

 次回は、人それぞれ違う、吃音への考えや悩みについて、ご紹介します。

(青山絵美)