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人権・校閲

こちら人権情報局

聞いて、私たちの話を――吃音を知りたい(下)

青山 絵美

■「吃音の問題は、吃音を持たない人の問題」

 言葉が出にくかったり、同じ音を繰り返したりすることで、思い通りに話せない吃音(きつおん)。

吃音拡大ジークフリーツの交流会で歌う参加者たち。吃音が出にくい「歌」を通した交流を、 月に1度おこなっている=4月13日、東京都狛江市、青山絵美撮影
 吃音が出にくい「歌」を通した交流を中心に、吃音者のサポートをおこなっているグループ「ジークフリーツ」の松田真奈美代表は、「吃音の問題は、吃音を持たない人の問題」といいます。

 「それが彼らの話し方。ジークフリーツの集まりが終わって、当事者同士わいわい話している時、誰も困っているようには見えません。吃音が問題にされない場では、彼らも問題に思っていない。私たちが理解することで吃音の問題ってもっと軽くなっていくんじゃないかなと思う」。吃音が受けいれられない環境が、吃音者を苦しませてきたと考えています。

 ある女性は「聞いている人が気にしないくらいでも、自分は落ち込む。失敗を気にすると、どんどん症状が重くなるというスパイラルで、一音も出なくなったこともある」。周囲が気付かない程度に言葉に詰まったとしても「失敗した」と落ち込んでしまうそうです。周りの人が感じる吃音と本人の思う吃音の間のギャップは、「つらい思いをした歴史があるから」のものだといいます。

 「分かっているのに言葉が出なくて答えられない」「思っていることが伝えられない」「あいさつが言えなくて怒られる」「教科書の音読でうまく読めない」「話し方をまねされてからかわれる」――。もどかしい思いや、つらい気持ちを積み重ね、人と話さなければならない場面を避けるようになったり、コミュニケーションに消極的になったりする人もいます。

■「言いたい言葉を言えない」言い換えのつらさも

 ジークフリーツの運営に携わる言語聴覚士の吉澤健太郎さん(北里大東病院)は「吃音者は、自分の名前や決められたフレーズ、場に即したあいさつなど、他に言い換えがきかない語を話す場面で困ることが少なくない」と話します。苦手な言葉やつまりそうになった言葉を言いやすい言葉に言い換えて話すことで、吃音がでることを避けることも多いからです。

 とくに、進学や就職の際の面接や自己紹介などは、人生において重要な場面であると同時に、言い換えのきかない言葉の多い局面でもあります。現在の就職試験は、面接を重ねる形式が多いため、能力があるのに出し切れない人も多いそうです。

 一方で、言い換えができれば、問題が解決するわけではありません。

 言いにくい言葉を避けることで、表面的には吃音を出さず話すことができる人の中には、吃音者であることを隠している人も少なくありません。周囲に話すかどうかはその人の考え次第ですが、隠すことで、誰にも相談できずつらい思いを抱えてしまう人もいます。「(小さい頃からあった吃音が成長後も続いていたことを)親にも言えなかった。隠していたから、親もなおったと思って心配していなかったと思う」と吃音者の女性は話します。実際には症状は重く、ひとりで悩んでいたといいます。

 同じように親に隠していたという、ジークフリーツに参加する男性は、「親にごまかすのはつらかった」。松田さんは「どもっている人だけが吃音の人じゃないんです」と話します。

 また、言い換えをすることには、「本当に言いたい言葉を言えない」つらさもあるそうです。

 吃音のある小学6年生、ヒカルくんを取材した、2012年の1月の朝日新聞の連載がありました。「あ行」ではじまる言葉が苦手なヒカルくんは、苦手な言葉を別の言葉に言い換えて話します。

 本当は「ママ」じゃなくて「お母さん」って言いたい。「弁当」って言ってるけれど、「お弁当」ってちゃんと言いたいし、「腹減った」より「おなかすいた」がいい。でも、つっかえたら嫌だから、言い換えてしまう。

(2012年1/6~1/15朝日新聞「(いま子どもたちは)強敵キッツオー」)

■理解と、相手に寄り添う気持ちを

 吃音が出やすい状況や「苦手な言葉」は人それぞれで、吃音の症状も一様ではありません。

 吃音のためにしてきたつらい思いも人によって違い、吃音に対する考え方も異なります。「音読をとばしてほしかった」という人もいれば、「音読でとばされてつらかった」という人もいます。思うように話せない時、「待ってもらいたい」と話す人がほとんどでしたが、なかには「相手が話してくれる方が気が楽」という人もいました。

 前回、吃音に対して「ゆっくりとね」と声をかけることは、吃音者を苦しめることがあるといいましたが、それが、方程式のようにいつも正しい答えなわけではありません。

 吃音が職場で理解されないことなどに悩み、北海道の看護師の男性(当時34)が命を絶った、という記事が、1月、朝日新聞に掲載されました(1/28朝日新聞)。

 男性は、職場で理解を得ようと、自己紹介の紙に吃音の症状について書き、「対処方法」として、「はげます」「待つ。『ゆっくり話していいよ』」と書いていました。

 ジークフリーツの参加者の男性は「『分かっているよ、聞いているよ』という気持ちで言ってくれているのが分かれば、『ゆっくり話していいよ』が力になることもあると思う」と話します。大切なのは、聞き手が吃音を理解していること、話し手に寄り添う気持ちを持っていることです。

 彼らの「話し方」でなく、「話すこと」を聞く。必要とされているのは、人と人がコミュニケーションを取るうえで、当たり前の態度なのではないかと思います。

【吃音を知るために】
・「吃音のこと、わかってください」(北川敬一著、岩崎書店)
・「ボクは吃音ドクターです。」(菊池良和著、毎日新聞社)
・「吃音からの脱出」(広瀬努、石田宗男著、黎明書房)=品切れ
・「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」(押見修造著、太田出版)

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(青山絵美)