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人権・校閲

こちら人権情報局

ネット時代の新しい人権「忘れられる権利」

■EUで「忘れられる権利」を認める判決

 インターネット上にある不適切な個人情報の削除を求めることができる――。この「忘れられる権利」と呼ばれる権利を認める判決が5月、欧州連合(EU)司法裁判所で出されました。裁判となったのは次のような事例でした。

忘れられる権利のデザイン拡大

 訴えたのは、10年以上前に社会保険料を滞納し、所有している不動産が競売にかけられたスペイン人男性。男性はその後保険料を納めたものの、1998年に地元紙に掲載された競売の公告がいまだにインターネット上に残り、不利益を受け続けていたといいます。そのため男性は、大手検索サイト・グーグルの検索ページから記事へのリンクを表示させないよう訴えたのです。

 これに対し裁判所は「忘れられる権利」を個人の権利として認め、たとえ情報が事実であっても、「不適切、もはや必要性がない、過剰である」ときは、リンクの削除を求めることができるとしました。これを受け、グーグルは削除要請の受け付けを開始。開始1日目の申請は1万2千件にのぼりました。(2014年6月25日付朝日新聞

■削除措置のグーグルに「報道の自由への挑戦」の声も

 こうした動きに懸念も広がっています。「忘れられる権利」が人々の「知る権利」や「報道の自由」といった諸権利と衝突しかねないためです。判決に対し、欧米メディアでも多くの懸念が表明されました。

 しかし、グーグルは6月末から申請に基づくリンクの削除措置を開始しています。ウォールストリート・ジャーナルの報道によると、7月24日時点で削除件数は10万件以上に上り、申請に対する削除率は50パーセントを超えるといいます。その中にはBBCやガーディアンなど、報道機関の記事も含まれています。

 グーグルの削除措置とはどのようなものか。ガーディアンは自紙の記事を例にして報道しています。(7月2日付ガーディアン

 グーグルが削除措置を開始してから数日後の、7月2日。ガーディアンはグーグルから初の削除通知を受け取りました。通知された削除対象の記事は6件。うち3件は、2010年にあったサッカー・スコットランドリーグのセルティック―ダンディー・ユナイテッド戦での主審に関する記事でした。虚偽の理由でペナルティーキックを与えたことにより、やめざるを得なくなった人物です。

 ガーディアンは米国版のグーグルと英国版のグーグルで、主審の名前および「Guardian(ガーディアン)」と打ち込んで検索した画面を並べて紹介しています。米国版のグーグルには、削除通知がなされた3件の記事が上位に並びます。一方、英国版のグーグルでは、それらの記事は表示されません。

 ただしグーグルの現行の措置では、あくまで申請者の名前が検索時のキーワードに含まれているときにのみ、リンクが表示されないことになっています。削除申請者の名前以外の単語を組み合わせれば、検索画面に記事へのリンクが表示されます。

 ガーディアンはこの措置を「報道の自由」への挑戦であると強く批判し、グーグルに抗議しました。それにより、翌日には、グーグルはこの3本の記事へのリンクを復活させました。(7月4日付ハフィントンポスト

■二転三転する対応、課題は多く

 もともと「忘れられる権利」をめぐっては、削除を認めるかどうかの線引きが困難であることが指摘されてきました。二転三転するグーグルの対応からも、そうした難しさがうかがえます。

 グーグルは7月、削除の基準について話し合う諮問委員会を設置しました。グーグル幹部に加え、大学教授やメディア、政治家、人権活動家など10人で構成される委員会がどのような見解をまとめるのか、注目が集まっています。

 しかし、グーグルという一企業にこのような重大な判断を任せていいのか、という批判の声も上がっています。EUや国が判断を担うべきだという意見もありますが、これに対しても検閲につながりかねないとの批判があります。

 ガーディアンは、インターネット上から個人情報を削除すべき場合もあることを認めた上で、「忘れられる」べきかどうかの判断をする権限はあくまで新聞社に属するのであって、グーグルに属するのではないと主張しています。

 インターネット時代の到来によって誕生した「忘れられる権利」。あふれる情報のうち、私たちは何を、いつ、どのように「忘れるべき」なのか。新しい問いに直面しています。

(竹内美緒)