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人権・校閲

こちら人権情報局

絵本の力、アジアの子へ届け――文字を知るきっかけに

青山 絵美

■翻訳シールを貼り付け、母語で読めるように

 「はらぺこあおむし」「まちのねずみといなかのねずみ」「おおきなかぶ」――。おなじみの絵本が並びます。見慣れないのは、そこにある文字。クメール語(カンボジア)、パシュトゥン語(アフガニスタン)など、アジアの国の文字が、絵本に貼り付けてありました。

カンボジアからかえってきた絵本拡大カンボジアからかえってきた絵本。繰り返し読まれてぼろぼろになっている=シャンティ国際ボランティア会提供
 東京都新宿区の「シャンティ国際ボランティア会」の事務所では、アジアの子どもたちに贈られる絵本が、箱に詰められて山積みになっています。日本で出版された絵本に、それぞれの国の言語の翻訳シールを貼り付け、現地の子どもたちが母語で読めるようにしたものです。

 翻訳シールを貼ったのは、全国各地のボランティアの人たち。①リストから絵本を選ぶと、絵本とシャンティ作成の翻訳シールが送られてくる②切り抜いたシールを絵本の日本語の上に貼り、翻訳絵本をつくる③現地の文字で本の最後に署名をする④シャンティに送り返す、というシステムです。贈る本を選べるため、「自分の好きな本が向こうの子どもたちに届くのがうれしい」という声もあるそうです。

 参加費は絵本代や送料など込みで、1冊2200円。自宅でもできる身近なボランティアとして、親子や会社単位など、さまざまな参加者がいます。

 事務所には、ぼろぼろになった「11ぴきのねことへんなねこ」がありました。繰り返しめくられた跡がしっかりつき、翻訳シールがはがれた上から文字を手で書き直しているところもあります。カンボジアで、たくさんの子どもたちに読まれた絵本だそうです。

 広報課長の鎌倉幸子さんはわらいます。「決して向こうで雑に扱っているわけではないんですよ。でも、3年もたつとぼろぼろになっちゃうんです」。熱心に読まれる様子が目に浮かぶようでした。

 文化や風習が日本とは違っていても、絵本が持つ力は変わりません。鎌倉さんは「たとえば、『おつかいにいく』という経験は万国共通。『はじめてのおつかい』を読めば、同じようにどきどきします。道々に車は走っていなくても、牛や豚にぶつかられそうになったことはある。自分の経験と重ね合わせて楽しめるんです」。

 1999年から始まったこの活動によって、20万冊を超える絵本がアジアの子どもたちに届けられてきました。2014年は、1万5千冊の本がカンボジア、ラオス、ミャンマーなど5カ国に贈られる予定です。

■読み書きのできない15歳以上、世界に7億7500万人

 世界には字の読み書きができない15歳以上の人が7億7500万人います。教育が受けられない原因は、貧困、戦争、風習などさまざまで、その3分の2が女性であると言われます(6/12朝日新聞)。

 識字の問題は命にかかわる問題です。ラベルが読めないために、薬とまちがって農薬を飲んでしまったり、看板が読めず、地雷原に誤って立ち入ってしまったりといった事故も起きています。

 職に就く際にも、大きな不利になります。カンボジアで識字教育活動に携わった鎌倉さんは「読み書きができない人が今まで就いていることの多かった肉体労働などの現場でも、工程を書いて説明されるようになっている。字が読めない人が就ける仕事の幅はどんどん狭まっていて、仕事を求めて都会に出てきたものの就職できず、スラムで暮らさざるを得なくなっている例も多い」と話します。「字や本はぜいたく品と思われがちですが、文字を知らないと負の連鎖からは抜け出せない。生きていくのに必要なものなんです」

タイ国内にあるミャンマー難民キャンプで、絵本を読む子どもたち拡大タイ国内にあるミャンマー難民キャンプで、絵本を読む子どもたち=シャンティ国際ボランティア会提供
 シャンティでは、単なる勉強としてだけでなく、絵本を通して楽しく文字を学ぶということを大切にしています。

 「本を読む楽しさが芽生えれば、もし将来事情があってドロップアウトしてしまうことがあったとしても、本は手に取ろうかなと思ってくれるかもしれない」。鎌倉さんは、簡単でない現地の事情があるからこそ、絵本という楽しいもので文字に触れあうという体験が重要だと語ります。「戦場や難民キャンプなど、厳しい環境しか知らない子どもたちに、友達と手をつないでこられる場所を知ってほしい。図書館という空間自体も重要だと考えています」

 文字を学べるだけではありません。

 鎌倉さんには、印象に残っている場面があります。ミャンマーから逃げてきたタイの難民キャンプの子どもが、「ぐりとぐら」を読んでいました。最後の、カステラをみんなで食べるシーンを見て、一人が口にしました。やっぱりみんなが一緒がいいな。こういう社会を大人になったらつくりたい――。「言葉で直接書いていなくても、伝わっているものがある。それが絵本の力だなと思います」

■日本にいてもできるボランティア

 シャンティでは、絵本を届ける運動の他に、「本で寄付するプロジェクト」もおこなっています。家にある不要な本を所定の古書店に送ると、買い取り価格が寄付される仕組みです。

 9月からは、古い携帯電話や切手など、家にある不要なものを寄付する運動もはじまりました。寄付は、古物商の協力で、アフガニスタンに校舎を建てる資金になります。

 9月8日は国際識字デーでした。ユネスコの定めた、識字の重要性について理解を深める日です。識字の問題というと、遠い世界でのできごとと思いがちかもしれません。しかし、日本にいてもできることはたくさんあります。まずは身近なところから参加し、考える機会にしたいと思います。

 ボランティアの参加や寄付の詳細については、いずれもシャンティ国際ボランティア会(03・5360・1233)へ。 

(青山絵美)