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人権・校閲

こちら人権情報局

アイス・バケツ・チャレンジと難病助成

森本 類

 氷水をかぶって難病患者を支援――こんな一風変わった活動が世界的に広まったのは、すでにみなさんご存じの通りです。

 まずは、一連のニュースのおさらいをしましょう。

■著名人が参加、一気に広がる

難病支援拡大氷水をかぶって難病のALS患者支援を呼びかけた河村たかし市長=名古屋市東区、日高奈緒撮影
 「アイス・バケツ・チャレンジ」は今年の夏、米国の筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の呼びかけがきっかけで始まったとされています。氷水をかぶるか、100ドル(約1万円)をALSの研究支援に寄付するか選ぶ。あるいは、その両方をする。参加した人は、次の3人を指名する――というのが一連の流れです。

 ALSは運動をつかさどる神経が徐々に壊れ、命令が伝わらなくなって全身の筋肉が縮んでいく病気です。五感や知力は衰えることなく、徐々に身動きがとれなくなります。手が握れなくなったり、ろれつが回りにくくなったりすることから始まり、進行すると自力で息をすることもできなくなるといいます。治療法はまだ確立されていません。大リーグのルー・ゲーリッグ選手や物理学者のスティーブン・ホーキング博士らがかかったことでも知られます。米国ではルー・ゲーリッグ病とも呼ばれます。

 アイス・バケツ・チャレンジはマイクロソフトのビル・ゲイツ氏やサッカー・ブラジル代表のネイマール選手が参加したことで一気に知られるようになりました。日本でも京都大iPS細胞研究所の山中伸弥所長をはじめ多くの著名人が氷水をかぶっています。パレスチナでは空爆された建物の残骸を使って「がれき・バケツ・チャレンジ」をする人も現れました。

 米ALS協会には8月18日までの3週間で昨年同期比9倍の約1560万ドル(約16億円)が、日本ALS協会には8月31日までの2週間で通常の4.5年分に当たる2747万円が集まったといいます。

■あえて参加しない人たちも

 活動が広がる一方で、疑問視する声もあります。「ネズミ講に近い」「子どものいじめに使われた」といった苦情が日本ALS協会に寄せられたり、朝日新聞の声欄にも「ALS患者のサポートには賛成ですが、本来の意味を見失っている人も多いと感じます。……ふざけて笑っている顔を見ると残念な気持ちになります」という意見が載ったりしました。

 アイス・バケツ・チャレンジにあえて参加しない人もいます。鳥取県の平井伸治知事は他県の知事から指名を受けましたが、「趣旨は大賛成だが、本質は患者の実情を知ってもらうこと。氷水をかぶることではない。趣旨が誤って伝えられないか」と指摘。氷水をかぶる代わりに患者支援のメッセージを動画で発信することを発表しました。

 芸能界でも、タレントの武井壮さんが不参加を表明。「ALSに限らない難病支援に、水不足や衛生に関する支援に、飢饉に関する支援に、さらに東北で被災された方々への寄付などにその思いを回します!!」と理由を語りました。放送作家の鈴木おさむさんはチャレンジに参加した上で、次の指名を拒否。「このまま進むと、ネガティブな意見ももっと増えてきて、せっかくいいことしてるはずのこの企画自体が、マイナスなイメージももっとでかくな(っ)ちゃうんじゃないかなと思ったり」と胸の内を明かしました。

■「次の一歩」へどうつなげる

 治療法の確立されていない難病はほかにもたくさんあり、その数は5千とも言われます。

 日本では今年5月に難病医療法が成立し、来年1月に施行されます。制度の見直しは42年ぶり。助成対象の病気は56から約300に、患者は78万人(2011年度)から150万人(15年度)に広がる見込みです。高度な治療が長期間に及ぶ患者の自己負担が軽くなる一方、これまで助成を受けていた患者で負担が重くなる例もあるといいます。

 対象となる要件は①原因不明②治療法が未確立③長期の療養が必要、など。患者数は人口の0.15%(18万人)未満が目安とされます。長期の療養が必要という要件を満たさない急性疾患の劇症肝炎や重症急性膵炎(すいえん)、患者数が約200万人とされる繊維筋痛症や約30万人とされる慢性疲労症候群(筋痛性脳脊髄〈せきずい〉炎)は対象にならない見通しです。

 大人になったとたんに助成の網から漏れてしまう「トランジション」(大人への移行)という問題もあります。医療費を公費で支援する「小児慢性特定疾患治療研究事業」(対象=514疾患)は、難病に限らず小児がんなど幅広い病気で利用できます。大人になると「特定疾患治療研究事業」に移行することになりますが、難病医療法の施行で対象が拡大されても、助成を受け続けられない人が出てしまうことになります。

 アイス・バケツ・チャレンジは、こうした国の助成とは別の支援を広げた点で、大きな意味があると思います。ただ、難病はALSに限らず、さらには国が指定する「難病」以外にも治る見込みのない病気に苦しんでいる人がたくさんいます。もっといい支援の方法があるんじゃないか、もっと助けを必要としている人がいるんじゃないか。そうした「次の一歩」につながっていくことを心から願ってやみません。

(森本類)