メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

人権・校閲

こちら人権情報局

どんな最期を迎えたいですか?――安楽死と尊厳死

森本 類

■波紋広げた米国人女性の選択

 どんな最期を迎えたいか、考えたことはありますか。またそのことについて、家族と話し合ったことはありますか。

 今月1日、末期がんで余命半年と宣告されていた米国人女性のブリタニー・メイナードさん(29)が、自ら死を選びました。医師から処方された薬を飲み、自宅のベッドで家族に囲まれて亡くなったといいます。事前に動画サイトで「11月1日に死にます」と予告しており、是非をめぐって米国内外で議論が起こりました。

尊厳死紙面拡大2014年11月4日付の朝日新聞の紙面
 メイナードさんの選択に対して、ローマ法王庁の高官は「自殺は良くない。手助けするのは馬鹿げたことだ」「尊厳とは、自ら人生を終わらせることとは違う」と批判しました。「それほどひどい病気にみえないのに、自殺するのか」といった声もあったといいます。

 しかしメイナードさんは、モルヒネでも抑えられない激痛にさいなまれていました。CNNのサイトに掲載された自身のコラムによれば、痛みは人格を変えてしまうほどひどく、夫や家族、友人を認識できないまでに苦しむこともあったそうです。生前には「私だって死にたくない。魔法の治療があって助かるなら、子どもも欲しい」と話していました。

■「医師による自殺幇助」認める国も

 ここで、用語を整理しましょう。以下は日本における「安楽死」と「尊厳死」の使われ方です。

・安楽死……回復の見込みがなくなった人の死期を、医師が薬などで早めること

・尊厳死……患者の意思を尊重して延命治療をやめ、尊厳を保ちながら死を迎えること

  これらの概念は、国によって異なります。米国では、日本の尊厳死はリビングウィル(生前の意思表示)に基づく「自然死」と考えられており、ほとんどの州の法律で許容されています。メイナードさんは医師から処方された薬を自らの意思で服用したため、安楽死でもなく「医師による自殺幇助(ほうじょ)」とされます。米国ではこれが尊厳死(death with dignity)と呼ばれ、メイナードさんが移り住んだオレゴン州などわずかな州でしか認められていません。

 欧州では、「医師による自殺幇助」を認める国が徐々に出てきています。オランダが2001年に世界で初めて「安楽死法」として法制化すると、ベルギーとルクセンブルクがこれに続きました。スイスでは明確な規制がないため、「医師による自殺幇助」を目的とした渡航者が増えているといいます。一方、英国やフランスでは違法とされ、ドイツでも倫理的な理由から事実上禁止されているそうです。(新潮社フォーサイト/「合法化」へと向かう米欧「安楽死」の現場〈9月1日付〉米29歳女性をめぐる「安楽死」大論争:「尊厳をもって生きる」こと〈10月24日付〉

■死生観問われる難問、日本の現状は

 日本の現状はどうでしょうか。今回議論の起こっている「医師による自殺幇助」だけでなく、安楽死や尊厳死についても、日本には法律がありません。

 安楽死では、東海大学病院の医師が家族の要望を受けて患者に薬物を注射するなどして死亡させ、殺人罪に問われた事件があります。横浜地裁は1995年の判決で、(1)死期が迫っている(2)耐え難い苦痛がある(3)代わりの手段がない(4)患者本人の明確な意思表示がある――という要件がそろわなければ無罪にできない、との考えを示しましたが、共通の基準にはなっていません。

 また尊厳死については、超党派の議員連盟による法制化の動きがあるものの、法案提出には至っていません。「死を急がされるのではないか」といった不安の声が根強くあるためです。2005年に議員連盟ができてから9年がたつことが、死生観がからむこの問題の難しさを物語っています。

 延命治療を続けるか否か、判断を求められるのは家族です。本人の意思を知っているかどうかで、家族の負担は大きく変わってきます。60歳以上の約千人に聞いた厚生労働省の調査(2013年)によれば、人生の最終段階の医療について家族と詳しく話していた人は約4%でした(11月4日付朝日新聞)。

 最期をどこで迎えるか、どんな治療やケアを受けたいか。希望をはっきりさせておいたほうがいいと思いつつ、すぐには考えがまとまらない……という人も少なくないのではないでしょうか。まずは家族と自然に話すことから始めてみよう――。メイナードさんのニュースに触れて、そんなことを思いました。 

(森本類)