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日本のトイレ 2020年への課題は

青山 絵美

 2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、誰もが外出しやすい社会をつくろうと、文化や性、障害などにかかわらず、すべての人が使いやすいトイレ環境を目指すプロジェクトを、「日本トイレ研究所」が始めました。日本トイレ研究所は、トイレ環境の改善から地域をよくする活動に取り組むNPO法人です。

 衛生面や技術面では世界トップクラスの日本のトイレ。何が問題なのでしょうか。日本トイレ研究所の加藤篤代表理事は「楽にアクセスできる人にとってはよい環境になってきている一方、そうではない人の中には、トイレが理由で外出できなかったり外出に不安を持ったりしている人がたくさんいる。このギャップが問題」と指摘します。外でのトイレが不安で、外出時は水分を取らないようにしようとする人や、外出前に全部出してしまおうと下剤を使う人もいるそうです。

トイレフォーラム拡大昨年11月のフォーラムでは、トイレの改善点についてさまざまな立場から話し合われた
 日本トイレ研究所が、昨年11月に開いたフォーラムでは、車いすユーザー、性的マイノリティー支援NPO代表、盲導犬ユーザーなど、様々な立場から、よりよいトイレ環境について話し合われました(11/16付毎日新聞)。

 車いすユーザー、盲導犬ユーザーからは、「床がぬれていたり汚れていたりすると、車いすに水や汚れがついてしまう」「ぬれた床に、パートナーである盲導犬を伏せさせるのがいやだ」という意見が出されたそうです。「私たちは汚れるのが靴の裏だけだから気にしていないかもしれないが、たとえば手動式の車いすの人で導尿をする人にとっては衛生面でも問題。床のぬれない乾式清掃の方が望ましい」と加藤さん。

トイレさんぽ拡大昨年11月のフォーラムでフィールドワークをおこなう参加者。トイレ調査をしながら街を歩く「トイレさんぽ」が開催された=いずれも、日本トイレ研究所提供
 使用後に水を流す際、トイレにボタンがたくさんありすぎて、どれを押せばいいか、お年寄り、視覚障害者、外国人など、さまざまな人にとって分かりにくいという問題もあります。「毎回どきどきしながら押す」という人もいるそうです。

 さらに加藤さんは指摘します。「トランスジェンダー(心と体の性が一致しない人)にとっては、男性用・女性用に分かれているトイレは入りにくい。両方が入れるトイレがあった方がいい。これは、異性を介助する場合にも言える。お母さんを介護している息子さんがいても、女性用のトイレには入れないですよね」

 多くの声を集めることが重要だとして、日本トイレ研究所は現在、「トイレの困りごとを教えてください!」というアンケートを実施しています。乳幼児の親や、妊婦、外国人、お年寄りなど、さまざまな立場からの意見を集めて、問題点を洗い出すことを目的としています。

 すでに、目の不自由な人から「点字ブロックがトイレの前の点字板までしかないときに困る」という声が届いています。トイレに急いでいるときに、点字板でトイレの配置などを確認しなければならないのは大変です。加藤さんは「トイレの入り口から点字のついた手すりなどをつたってトイレの中へ入れたらあせることも少なくなる」と話します。

 「いきなり全部を壊して完璧なトイレをつくるということはできなくても、『これならうちの店でもできる』というところから取り組んでくれるところを増やしたい」

■パラリンピック開催を契機に

 日本トイレ研究所では、誰もが安心してトイレを使えるようになるために、必要なことが三つあると考えています。

 一つ目は、どこにどういうトイレがあるのか、その人に合ったトイレがどこにあるのかという情報を、使う人に届けること。現在も、地域のバリアフリーマップなどはありますが「自治体ごとにつくられていることが多く、境があることで不自由という面がある」。自治体や当事者など、それぞれが持つ情報をつないでいくことが必要だと考えているそうです。

 二つ目は、多機能トイレ以外のトイレを「ちょっと改善」すること。多機能トイレは、車いすユーザーなどのための広いスペースや手すりとともに、おむつ交換台や、人工肛門・人工膀胱(ぼうこう)保有者用の汚物流し台などがあるトイレです。現状は、普通のトイレを使用しにくい人は全て多機能トイレを使用しています。しかし、「ちょっと改良すれば、多機能トイレ以外も使えるという声も多い」と加藤さんは話します。「多機能トイレを使う人には、おむつを換える人、装具を洗ったり換えたりする人工肛門の人など、時間がかかる人もいる。さらに、トイレの数が少ないので、集中してしまうと大変。広さなどを改善すれば他も使えるという人がそちらを使えるようにしていかないといけない」

 そして三つ目は、多機能トイレを使っている人がトイレで何をしないといけないのか、何に困るのかについて、周りの人間が知ることです。「知らないと分からないけれど、知ると譲ろうかなと思えることもある」。何に時間がかかるのかや、見た目に分からない人もいることなどを知ることで、設備自体が変わらなくてもフォローできる部分があると話します。

 「これが実現していけば、外に出ることを楽しめる人も増えると思う。パラリンピックのある2020年を一つの契機として取り組みたい」。加藤さんはプロジェクトについてそう語ります。

■トイレが変われば街が変わる

 著書「未来をつくる権利」で、誰でも快適にトイレを使うことができる「快便権」を説く荻上チキさんは、「『だれでもトイレ』は誰でも入ることを『眼差し』が拒んでいたりする。たとえば、端から見ると健常者と変わらないような、『見えない障害』のある人たち。足に障害があって便座に座りにくい、けれどもズボンをはいているからわかりにくいとか。社会心理が利用を阻害する場面を結構見てきた」とします(7/28付SYNODOS)。

 「少しの改善でもトイレは使いやすくなる」という加藤さんは、「トイレが変わると街が変わる」と考えています。「改善」とは、設備だけでなく、人の意識も含むのかもしれません。それが変わることで、外出を楽しめる人が増える。確かにそこには、社会を変える力があるように思います。

(青山絵美)

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