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人権・校閲

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ハンセン病特別法廷 ― 負の歴史検証 次代へ継承

石橋 昌也

■1月最終日曜は「世界ハンセン病の日」

 あまり知られていませんが、毎年1月の最終日曜日は「世界ハンセン病の日」です。今年は1月25日がその日に当たり、国内でも関連の催しが開かれたり、特設サイトが開設されて啓発活動が行われたりしました(「過酷な労働や谺さんの思い出… ハンセン病シンポ」 「白鵬もくまモンもメッセージ 『ハンセン病を知ろう』」)。27日には13カ国のハンセン病回復者らによる差別解消を訴える式典が開かれ、安倍晋三首相も「回復者の方々が安心して穏やかに暮らせるよう努め、ハンセン病への差別、偏見の解消に取り組む」とあいさつ。患者や回復者、家族らに対する差別や偏見をなくすよう求める共同宣言が発せられました(「首相『ハンセン病の差別解消に取り組む』 式典に参加」)。

ハンセン病式典拡大ハンセン病への差別解消を訴える宣言「グローバル・アピール2015」を読み上げる森和男・全国ハンセン病療養所入所者協議会会長(右端)、笹川陽平・日本財団会長(右から3人目)、安倍首相の妻昭恵さん(左端)=1月27日、東京都港区のANAインターコンチネンタルホテル、北野隆一撮影
 ハンセン病は医学的には治療可能になって久しいのですが、いまだに回復者やその家族らに対する差別・偏見といった社会的な問題が横たわっています。1996年に隔離政策の根拠となった「らい予防法」が廃止され、2001年に国の強制隔離政策に対して熊本地裁が違憲判決を下した後も、病気に対する無理解や偏見が根強く残っています。03年に起きた、熊本県のホテルによる宿泊拒否事件はいまだ記憶に新しいことでしょう。

 09年に回復者の名誉回復や医療・介護保障などを掲げた「ハンセン病問題基本法」が施行されましたが、回復者の高齢化によって差別の歴史の風化が懸念されています。そんな中で、回復者らによる要請を受けた最高裁が、ハンセン病に関する、ある負の歴史の検証を始めたことが、昨年、明らかになりました。

■事実上の非公開裁判だった

 最高裁が調査委員会を設けて検証を始めたのは、ハンセン病患者が出廷する裁判を、裁判所ではなく、隔離施設などで開いた「特別法廷」で行ったことについてです。

 憲法において、裁判は「公開法廷でこれを行う」とされており、通常は、裁判所で公開されて行われます。一方、裁判所法は第69条2項で「最高裁判所は、必要と認めるときは(中略)他の場所で法廷を開き、又はその指定する他の場所で下級裁判所に法廷を開かせることができる」としています。

 裁判所外で開かれる裁判は、火災や地震といった自然災害によって裁判所が使えない場合などを想定しているとされているのですが、ハンセン病患者が出廷する裁判は、「伝染の恐れ」を理由に裁判所ではなく、隔離施設などで行われました。そのため傍聴者も限られ、事実上の非公開裁判だったと言われています。最高裁によると、「特別法廷」の指定は、計113件あり、そのうちハンセン病を理由としたのが48~72年に95件あったといいます。熊本地裁が「(隔離政策の)違憲性が明らか」とした60年以降に限っても、27件ありました(「ハンセン病患者の裁判『隔離法廷』を検証 最高裁」)。最高裁によると、特別法廷がどのように行われたかを伝える資料は少ないといい、検証は、裁判記録や当時の裁判を見聞きした回復者らの証言をもとに進めていくそうです。

 裁判はどんな様子だったのでしょうか。今回、最高裁の調査委員会が聞き取りに訪れた国立療養所のうち、熊本県の菊池恵楓園では、園や園に隣接した患者専用の菊池医療刑務支所で35件の特別法廷が開かれたといいます。ここではハンセン病患者とされた男性が殺人罪で裁かれた「菊池事件」の裁判(男性は無罪を主張するも後に死刑判決)などが行われました。特別法廷を見聞きした回復者らによると、裁判官や検察官は白衣に手袋や長靴を身に着けたり、裁判の証拠品を火ばさみでつまみ上げたりしたといいます。また、入廷前には消毒液を張った木箱に足を入れた、といった証言もありました。

 「裁判に関係した誰もが差別と偏見を持って裁判にあたっていた」。これは、菊池事件の裁判で書記官を務めていた男性が、死刑が執行された後に涙を流しながら話したとされる言葉です。菊池事件は、捜査や裁判の過程には当時のハンセン病への差別や偏見が影響したとして、弁護団が再審を目指しています。

■遅すぎた検証 メディアにも責任

 ハンセン病患者を対象とした特別法廷は、憲法で定めた裁判の公開に反しているといえます。また、裁判の進行も、患者に対する差別や偏見に満ちていたことが証言などから明らかになっています。今回の最高裁の検証について、毎日新聞は社説で「重い腰をやっと上げたかたちだが、政府や国会の謝罪から10年以上たっての検証はあまりに遅すぎる」と指摘していますが、まさにその通りだと思いますし、この問題をあまり大きく扱ってこなかったメディアの責任もあると思います。冒頭でも触れましたが、回復者たちの高齢化が進み、貴重な証言を得られる機会は少なくなってきています。ハンセン病に関する差別や偏見といった社会的な問題を風化というかたちでなくすのではなく、きちんと目を向けて総括し、次代に継承していくことが大事だと思います。そのためにも、今回の最高裁の検証を注視していきたいと思います。

 

(石橋昌也)

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「熊本)最高裁、傍聴牧師の聞き取り ハンセン病隔離裁判」(1/15)
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毎日新聞「社説:ハンセン病法廷 遅すぎた最高裁の検証」(1/18)



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◎は朝日新聞本紙、【県名】は朝日新聞地域面、○は他紙などの記事。

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