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文字@デジタル

シカルとシカル 1(初回限定無料)

比留間 直和

 昨年発売され、売れ行き好調が伝えられるパソコン用OS「Windows7」。先々代にあたる「XP」を長く使い続け、その次の「Vista」をスキップして「7」を買った人も多いようです。

 そんなベテランXPユーザーが7を使って戸惑うかもしれないのが、文字環境の違い。Vista以降に搭載されているMSフォント(MS明朝、MSゴシックなど)は、JIS漢字の2004年版、いわゆる「JIS2004」に対応しているため、XPでは見たことのない場面に遭遇することになります。

 下の図は、Windows7付属の仮名漢字変換システム(Microsoft IME)を使って「しかられた」と入力し変換候補を出したところです。

 候補のなかに、同じ「叱られた」が二つ並んでいるように見えますが、実は漢字の字体が微妙に異なっています。上の字体は「口へん+匕首の匕」=下図のA=で、つくりの1画目は右から左へ払う形。下は「口へん+漢数字の七」=下図のB=で、つくりの1画目は左から右への横棒です。(以下、「叱A」「叱B」と呼ぶことにします)

 一方、XPに付属するIMEだと、ふつう漢字候補は下に示すように「叱A」しか出てきません。(ソフトウエアのインストール状況によっても異なりますが、複雑になるのでここでは省略します)

 つまり、XPまでは「しかる」の漢字は1種類しか出なかったのですが、Vistaや7だと2種類出てきます。言い換えると、XPでは「漢字を使うかどうか」だけ考えれば済んでいたのに対し、Vistaや7だと「漢字を使う場合、どちらを使うか」も選ぶ必要があるわけです。

 これも「JIS2004対応」による変化の一つです。

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 パソコンの文字コードであるJIS漢字には、以下の三つの規格があります。

   JIS X0208 ……第1・第2水準。1978年制定、83・90・97年改正

   JIS X0212 ……補助漢字。1990年制定。Windows98以降のMSフォントに搭載

   JIS X0213 ……第1~第4水準。2000年制定、04年改正。Vista以降に搭載

 「JIS2004」は、2004年の改正を経た、最新のX0213を指します。この改正は、2000年に国語審議会(当時)が答申した「表外漢字字体表」をJIS漢字に反映させるために行われました。

 表外漢字字体表とはその名のとおり、常用漢字以外の漢字(表外漢字)の字体の標準を定めたものです。同字体表では、表外漢字について、明治以来用いられてきた伝統的な字体(いわゆる康熙字典体)を印刷における標準の字体と位置づけ、使用頻度が比較的高いものを中心に1022字種の字体を具体的に示しています。

 戦後の国語施策では、当用漢字表やその後身の常用漢字表に入っている字は標準の字体が定められてきましたが、表外漢字の字体基準は決められないままずっと放置されていました。そのため「表外も常用漢字と同じように略すべきだ」「表外は昔のままの字体がよい」と2通りの考え方がありました。(朝日新聞が当時「略字主義」をとっていたことはよく知られた事実ですが、これについては別の機会に)

 その後、ワープロなどの情報機器が誕生し、それに搭載する文字の規格であるJIS漢字(X0208。当時はC6226という名称でした)が1978年に制定されます。このとき規格票に示された表外漢字はおおむね伝統的な字体だったのですが、1983年の改正で、一部の表外漢字が大胆に略字化されました(森鴎外の「鴎」が有名ですね)。これに対して「教科書や辞書にある字体が打ち出せない」との批判が次第に高まったことから、遂に国語審が重い腰を上げて「表外漢字は略さない」と答申。JIS漢字の改正を促したのでした。

 この答申を受けた04年のJIS X0213改正では、規格票に掲げる字体(例示字体)が略字体だった「葛」など計168字を国語審が決めた字体に変更したほか、10字を新たに追加しました。先ほどの「叱B」は、追加した字のひとつです。