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シカルとシカル 3

比留間 直和

 「叱」は、近く文化審議会から答申が出る「改定常用漢字表」に入ることが内定しています。が、その話題にいく前に、「叱」と同じようにJIS2004で追加された漢字にはどんなものがあるのか、そしてそれらの文字を使う場合の注意点は何かについて、述べておきたいと思います。

 2004年のJIS漢字(X0213)改正では主に、(1)「葛」など168字の例示字体を、2000年の国語審議会答申「表外漢字字体表」で示された印刷標準字体等に差し替え (2)「叱」を含む10字の印刷標準字体を、JIS漢字の既存のコードポイントから「分離・独立」させるかたちで追加――という変更が行われました。このシリーズで扱っているのは、(2)の追加文字です。
 「叱」のほかに印刷標準字体が追加されたのは、次の9字です(本文ではJIS第1・第2水準の範囲内の文字を使い、字体の区別は「A」「B」で行います)。

 

■シカルの仲間たち

 以下、画像で掲げる二つの字体の前者をA、後者をBと呼びます。AがもともとJIS漢字にあった字体、Bが2004年改正で分離・独立した字体です。

 「倶楽部=くらぶ」の「く」です。「ともに」という意味で、「不倶戴天(ふぐたいてん)の敵」などでも使われます。我が国の漢和辞典が字体規範の典拠としてきた中国・清代の「康熙字典」はBを掲げており、戦前の活字もBが一般的でした(「具」という字も当時の活字はB型でした)。
 JIS漢字では、例示字体は倶Aでしたが、倶Bも包摂する(区別せず同じコードポイントで表す)ことになっていました。2000年の表外漢字字体表では倶Bが印刷標準字体となり、ふつうならJISの例示字体を倶Aから倶Bに変えるべきところだったのですが、「叱」のケースと同様、Unicodeが倶Aと倶Bを区別していたので、2004年の改正ではJIS漢字とUnicodeの対応関係を保つために倶Bを分離・独立させて追加しました(以下、いずれの字も同じ事情です)。そのため、Vista以降のWindowsの標準の仮名漢字変換(Microsoft IME)では、「くらぶ」や「ふぐたいてん」などの変換候補が倶Aと倶Bの2種類出てきます。

 表外漢字字体表では倶Aも「デザイン差」とされ、ABどちらを使ってもかまわないことになっており、実は、朝日新聞の紙面では「デザイン差」の倶Aを使い続けています。また、諸橋大漢和は、他の多くの漢和辞典と異なり、倶Aを掲げています。

 

 「剥奪=はくだつ」の「はく」です。「はぐ」「はがす」などとも読みます。康熙字典はB、戦前の活字もBでした。JIS漢字では、1978年の最初の規格の例示字体は剥Bでしたが、83年改正以降は剥Aになっていました(ただしBも包摂)。2004年改正で剥Bが分離・追加されたことで、Vista以降のWindowsの仮名漢字変換では、「はくだつ」「はくせい」「はげる」「むく」などの変換候補が、剥Aと剥Bの2種類出てくるようになっています。
 朝日新聞の紙面では戦後、当用漢字「緑」「録」の略し方にあわせた剥Aを使っていましたが、2007年から、印刷標準字体の剥Bを使うことにしています。
 こんどの改定常用漢字表には、剥Bが入る予定です。

 

 「併呑=へいどん」の「どん」。日本酒の商品名でもおなじみですね。「のむ」とも読みます。康熙字典ではBですが、明治以来、活字ではAの形が多かったようです。表外漢字字体表ではBを印刷標準字体とし、Aをそのデザイン差としました。JIS漢字では呑A(Bも包摂)でしたが、2004年改正で呑Bが分離・追加されたことで、Vista以降のWindowsの仮名漢字変換では、「へいどん」「のむ」などの変換候補が、呑Aと呑Bの2種類出てくるようになっています。

 朝日新聞の紙面では戦後、Bの形(ただし上の横線が長かった)を使っていました。上の横棒が長かったのは、同じ部分字体をもつ当用漢字の「蚕」を意識したのかもしれません。現在は上の横棒が短めのB字体を使っています。

 

 「うそ」です。ただし「うそ」という用法は日本独自のもので、康熙字典では「ゆっくり息をはく」といった意味で載っています。実は康熙字典ではBではなく、新字体風のAが掲げられているのですが、戦前の活字ではBが一般的でした。JIS漢字では嘘A(Bも包摂)でしたが、2004年改正で嘘Bが分離・追加されたことで、Vista以降のWindowsの仮名漢字変換では、「うそ」などの変換候補が、嘘Aと嘘Bの2種類出てくるようになっています。
 朝日新聞の紙面では戦後、当用漢字「虚」の略し方にあわせた嘘Aを使っていましたが、2007年から、印刷標準字体の嘘Bを使うことにしています。

 

拡大
 「けんを競う」というときの「けん」で、女性の容姿が美しいことを意味します。しかし今の新聞紙面でその表現を使うことはめったになく、ふだんこの字を目にするのはもっぱら女子フィギュアスケート「キム・ヨナ」選手の漢字名でしょう。
 康熙字典ではBですが、明治以来両方の字体の活字が作られてきました。JIS漢字では妍A(Bも包摂)でしたが、2004年改正で妍Bが分離・追加されたことで、Vista以降のWindowsの仮名漢字変換では、「けん」の変換候補が、妍Aと妍Bの2種類出てくるようになっています。
 朝日新聞の紙面では戦後、当用漢字「研」の略し方にあわせた妍Aを使っていましたが、2007年から、印刷標準字体の妍Bを使うことにしています。

 

 「びょうぶ」の「びょう」です。康熙字典はB、戦前の活字でもBが一般的でした。JIS漢字では、1978年の最初の規格の例示字体は屏Bでしたが、83年改正以降は屏Aになっていました(ただしBも包摂)。2004年改正で屏Bが分離・追加されたことで、Vista以降のWindowsの仮名漢字変換では、「びょうぶ」などの変換候補が、屏Aと屏Bの2種類出てくるようになっています。
 表外漢字字体表では屏Bが印刷標準字体、屏Aが簡易慣用字体(必要に応じて印刷標準字体に代えて使って差し支えない略字体等)とされています。
 朝日新聞の紙面では戦後、当用漢字「併」の略し方にあわせた屏Aを使っていましたが、2007年から、印刷標準字体の屏Bを使うことにしています。

 

 あまりなじみのない字ですが、「へい」「ならびに」などと読み、「併」や「並」に通じる字です。康熙字典はB、戦前の活字もBが一般的でした。JIS漢字では并A(Bも包摂)でしたが、2004年改正で并Bが分離・追加されました。
 表外漢字字体表では并Bが印刷標準字体、并Aが簡易慣用字体とされています。
 朝日新聞の紙面では戦後、当用漢字「併」の略し方にあわせた并Aを使っていましたが、2007年から、印刷標準字体の并Bを使うことにしています(が、めったにお目にかかりません)。