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文字

観字紀行

東京都葛飾区 ~「葛」前編~

永川 佳幸

 いきなりですが、「間違い探し」クイズです。下の2枚の写真を見比べてください。左右で字の違いがあります。

 

 簡単すぎましたか。よ~く見る……ほどではありませんが、「葛」という文字が微妙に違います。

 葛という字が左は「 」(下半分の一部が「人」)、右は「 」(下半分の一部が「ヒ」)になっています。同じ「かさい」という地名なのになぜ違うのでしょうか? 気になります。
(永川佳幸)



 東京都江戸川区にある住宅街で、荒川と旧江戸川に挟まれるようにして広がる葛西。

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 生まれてからずっと大阪で暮らしていた私が就職のため上京し、最初の拠点として選んだのがこの葛西でした。それはもちろん、校閲記者としてこの字体の違いの謎に迫るため……というのは残念ながら違います。

 しかし、期せずして選んだ土地に漢字にまつわる謎が潜んでいたというのは、運命的な「出会い」を感じずにはいられません。同じように葛の字を持つ他の土地はどうなっているのでしょうか。旅立ちましょう。

 葛と聞いて、まず思い浮かぶのは東京都葛飾区。すぐ近くということもあり、さっそく足を運んでみました。

 電柱の住所表示です。「 」が使われていますね。

 こちらは店舗の看板。「 」ですね。

 やはり葛西と同様、葛飾でも字体に違いが見られます。

 「 」と「 」。なぜ表記に違いがあるのでしょうか。

 結論から言うと、どちらも同じ字です。別の字とか誤字とかということではありません。同じ意味を表し、同じように「くず、カツ」と読む漢字に2種類の字体が存在するのです。

 伝統的な字形で正字とされる「 」に対し、「 」は主に手書きで使われてきた形ですが、どちらの字体も歴史上かなり古くから使われてきました(有名な書家・王羲之の書いた字にも「 」の例が見られます)。

 近代以降の活字印刷では、清代の字書「康熙字典」にならって「 」が使われてきました。一方、ワープロやパソコンに搭載される文字のよりどころである「JIS漢字」の「 」が1983年以降「 」のかたちになったため、パソコンなどの文字には「 」が広く使われるようになりました。

 ……と、そんな事情で街には二つの字体があふれています。

 

 高校や教会。どちらも「 」です。

 一方、下は店舗の表示。こちらは「 」が使われていますね。

 

 2種類の字体が存在するわけですから、当然ながら下の写真のような現象も起こってしまいます。

 

 葛飾のとある医院の看板と掲示板ですが、左は「 」で右は「 」。同じ固有名詞なのにズレが生じてしまっています。

 校閲記者としては、かなり気持ち悪いズレです。同じ字と分かっていても、こうして近くに並ばれると気になって仕方がありません。普段の仕事であれば「どちらかにそろえませんか?」と指摘してしまうところです。