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観字紀行

奈良県葛城市 ~「葛」後編~

永川 佳幸

 「葛」を巡る旅。今回は東京を離れて西へ。奈良県葛城市にやって来ました。県の中西部に位置する、田畑が広がるのどかな市です。

 

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 なぜ、わざわざ奈良県まで足を運んだかというと、まずは下の3枚の写真を見比べてみてください。ある共通点があります。

 

 どれも略字体の「」が使われていますね。

 注目すべき点は、これがすべて市役所の敷地内で撮影されたものだということ。思い出していただきたいのが、東京都葛飾区を取り上げた前回の内容です。前回は、公的なものは正字とされる「」が基本的に使われると書きました。

 言っていることが違うじゃないかと思われるかもしれませんが、「例外のないルールはない」です。そう、この葛城市は全国でも珍しく略字体を正式に採用しているんです。

 略字体だらけの葛城市。

 公園の掲示板。

 標識に張られたステッカー。

 市教育委員会の看板。

 日が傾くまで探し回りましたが、略字体以外見つからず……。

 なぜ自治体が略字体を採用しているのか。それには深~い訳があるんです。

 葛城市は2004年10月、当麻(たいま)町と新庄町が合併して誕生しました。新市名の「葛城」は「住民の利便性や今後のパソコン・ワープロなどの発展を考慮し、『』を使用することが適当」という理由で、略字体が選ばれました。

 当時、パソコンに搭載される漢字のよりどころである「JIS漢字」には、常用漢字の略し方に合わせた略字体が幅広く採用されていました。「」もその一つです。「住民の利便性を考慮し」という判断も分からないではありません。

 ただ、ここで問題になるのが、2000年に国語審議会が答申した「表外漢字字体表」。常用漢字以外の漢字については伝統的な字体を用いる、との方針を示したものです。今回で言えば、「」ではなく「」を使えということですね。

 合併協議が進んでいた時期には、この方針を踏まえたJIS漢字の改正案が既に公開されており、合併の半年以上前には正式に改正されたことを考えると、校閲記者としては、葛城市の対応は残念です。予想されたように、Windows Vistaや7では「」が「」に変わった新しいJIS漢字が採用され、「」は簡単には打ち出せないようになりました。

 ちなみに葛城市では、字体の違いを理由に各種手続きを受理しないことはないそうなので、ご安心を。