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「改定常用漢字表」解剖 1

比留間 直和

 2005年から5年がかりで審議されてきた「改定常用漢字表」の答申案が5月19日の文化審議会国語分科会で了承され、6月の文化審総会を経て文部科学相に答申される運びとなりました。年内にも内閣告示・訓令として正式に制定される見込みです。

 追加196字・削除5字などの内容は5月20日付の朝刊特集面などでお届けした通りですが、細かな情報をすべて新聞紙面に掲載することはできません。本当はもっといろいろ盛り込みたかったのですが、骨格部分のみにせざるを得ませんでした。
 そこで、新聞にはなかなか載せられない改定常用漢字表に関するさまざまなデータをこの場でご紹介していきたいと思います。

 改定常用漢字表では、追加漢字の字体として「表外漢字字体表」の印刷標準字体(「曽、痩、麺」は簡易慣用字体)と、「人名用漢字字体」が採用されました。従来の国語施策との一貫性を保つこと、JIS漢字への影響を避けることなどが理由ですが、結果的に、追加漢字には「2点しんにょう」など、従来の常用漢字と異なる字体が入ることになりました。
 ここでは、字体を考える際に必ず出てくる「表外漢字字体表」、そして「人名用漢字」が、追加196字とどのような関係にあるのかを見ていきます。

 これまでの回でも触れたように、表外漢字字体表は2000年に国語審議会(当時)が常用漢字以外の漢字(表外漢字)の「字体選択のよりどころ」として、端的にいえば「表外漢字は、常用漢字のようには略さない」と決めたものです。大手印刷会社が印刷する書籍類における使用実態を踏まえ、明治以来使われてきた伝統的な字体「いわゆる康熙字典体」を表外漢字の印刷標準字体と位置づけています。頻度が比較的高いものを中心に1022字種の具体的な印刷標準字体を表に示し、うち22字種については簡易慣用字体(必要に応じて印刷標準字体の代わりに用いて差し支えない字体)も併せて示しています。
 なお、このとき既に人名用漢字(常用漢字のほかに子の名に使える漢字)だった285字については新たな字体を示すことはせず、戸籍法施行規則(法務省令)で定められた字体を追認しました。そのため、上の1022字種は人名用漢字285字を含んでいません。
 それまで人名用漢字には、おおむね常用漢字に準じた新字体が採用されていましたので、この時点では(おおざっぱにいえば)「常用漢字+人名用漢字は新字体、それ以外はいわゆる康熙字典体」という構図でした。

 その後、人名用漢字は大量に追加されましたが、その際の字体はかつてのような新字体ではなく、基本的に表外漢字字体表の示したものが採用されました。人名用漢字を管轄する法務省が、「字体をいじるのは自分たちの仕事ではない」という姿勢を明確にしたわけです。結果として、人名用漢字の字体は「いつ人名用漢字になったか」で分かれることになりました。

 これを踏まえ、今回の追加漢字196字を分類してみると、次のようになります。

 

 簡易慣用字体が採用された「曽、痩、麺」のうち、「曽」は、人名用漢字には印刷標準字体の「曾」と簡易慣用字体の「曽」の両方が入っていますが、今回の追加では簡易慣用字体のほうが常用漢字に「昇格」することになりました。
 「痩」は、印刷標準字体(JIS第3水準)が人名用漢字に入っていますが、人名用漢字に入っていない簡易慣用字体が採用されました。
 「麺」は、印刷標準字体(JIS第3水準)も簡易慣用字体も人名用漢字には入っていません。

 上の分類の各グループが、表外漢字字体表、人名用漢字それぞれの全体との間でどこに位置するかを示したのが下の図です。

 追加漢字の字体をめぐっては、「2点しんにょうが入り、従来の常用漢字と不統一になる」といった話題が報じられたため、「追加漢字はすべて古い字体で入る」との印象を受けた人もいるかもしれません。しかし上の図からも分かるように、実際にはもう少し複雑です。

 「表外」以前からの人名用漢字は、前述のとおり基本的に新字体です。追加漢字に入った39字のうち、新旧字体差が存在する「艶、弥、鎌、藤、亀、那、湧、拳、媛、采」の10字は、いわゆる康熙字典体でなく新字体で追加されます(それ以外の29字には、明確な新旧字体差はありません)。これに簡易慣用字体が採用される「曽、痩、麺」を加えた13字が、「改定常用漢字表に、いわゆる康熙字典体ではなく新字体で追加される漢字」ということになります。

 つまり、改定常用漢字表の字体方針について言うとき、「以前から常用漢字だったものは新字体、今回追加されるものは康熙字典体」と単純に分けることはできないわけです。「以前から常用だったものは新字体」というのは(細かく見ればいろいろありますが)とりあえずよいとして、今回の追加分に関しては「『表外』以前から人名用漢字だったものは新字体」「『表外』で簡易慣用字体が示されたものは簡易慣用字体(新字体)」「簡易慣用字体が示されなかったものは印刷標準字体(いわゆる康熙字典体)」というふうに分けられます。
 表外漢字字体表1022字種にも人名用漢字にも含まれないものには、表外漢字字体表の基本ルールである「いわゆる康熙字典体」が適用されるわけですが、今回それに該当する「楷、憬、錮」の3字にはたまたま新旧の字体差が存在しないため、字体について検討の余地は無かったものと思われます。

 次回以降、追加漢字の字体や文字コードについて、さらに詳しく見ていきます。

(つづく)

(比留間直和)