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「改定常用漢字表」解剖 2

比留間 直和

 「情報化時代への対応」をうたう改定常用漢字表。しかし、新たに追加される漢字を情報機器で使うときには、注意が必要です。

 これまでの回でも触れてきましたが、情報機器に搭載される文字コードの規格「JIS漢字」は、2000年の国語審議会答申「表外漢字字体表」を受けて2004年に改正されました。具体的には、2000年に制定されたJIS X0213(JIS第1~第4水準の規格)の漢字のうち168字の例示字体が変更され、10字が追加されました。「JIS2004」と呼ばれるバージョンで、WindowsだとVista以降がこれに対応しています。

 一方、Windows XPのMSフォントは、初期状態ではJIS2004に(そもそも改正前の2000年版JIS X0213にも)対応していません。また一般的な携帯電話は、第1・第2水準のみで字体も以前のままの規格「JIS X0208」(最後の改正は1997年)に準拠しています。

 そのため、データやメールをやりとりしたときに、機器によって表示される字体が違ったり、文字そのものが見えなかったりといったことがあります。ただ、これまでは、そうした字は常用漢字以外の漢字(表外漢字)ばかりだったので、一般にはさほど大きな問題になりませんでした。

 しかし今回の改定常用漢字表に追加される字の中には、JIS2004で字体変更されたり追加されたりしたものが含まれています。つまり、改定常用漢字表の字をその通りに使うためには、JIS2004に対応している必要があるわけです。

 では追加196字のうち、どの漢字が問題になる(なりうる)のかを見てみましょう。

 

■これが「問題の字」

 追加196字を、JIS漢字の水準ごとに分けたのが下の表です。このうち、

 〔1〕2004年改正で例示字体が変更され、かつ変更前の字体が今回の答申で「明朝体のデザイン差」と認められていない
 〔2〕JIS第1・第2水準以外の領域にある

――に当てはまるものを、それぞれ、赤い字青い字で示しました。16字と4字。青のうち「叱」は後述の通りやや特殊ですが、ざっくり言えばこれが「JIS2004未対応だと改定常用漢字表の通用字体(標準の字体)が打ち出せないもの」です。

【注】JIS2004で字体変更があったという点では「茨牙釜隙鍵梗蔑」の7字も当てはまりますが、これらは改定常用漢字表で明朝体デザイン差と認められている範囲での字体変更だったので、ここでは赤い字に入れていません。一方、「しんにょう」「しょくへん」にかかわるものは改正前の字体=現行常用漢字型の字体=も「許容字体」とされていますが、通用字体(標準の字体)ではないので赤い字で示しました。

 

 上の表で示した赤い字がJIS2004未対応の機器ではどう見えるのかをまとめたのが下の表です。


 また、JIS第1・第2水準以外の領域にある青い字は、JIS2004未対応の機器では基本的に第1・第2水準の範囲にある別の字体(別のコードポイント)で代用することになります(この4字の場合、使う文字はいずれも第1水準)。

  

 上の4字のうち「叱」は、改定常用漢字表に掲げられている通用字体は第3水準の「口へんに漢数字の七」ですが、第1水準の「口へんに匕首の匕」も「明朝体デザイン差」と認められています。そのため「叱」は「JIS2004未対応でも問題ない」とも言えるのですが、掲出字体が明らかに第3水準である以上、入力や情報交換で注意が必要であることに変わりはありません。第3水準の字と第1水準の字は画面で判別が困難なほど「そっくり」であり、その意味で、他のどの字よりも注意を要すると言えるでしょう。

 

■自分がJIS2004対応でも「相手への配慮」が必要

 今回の答申では、「表の見方」のくだりに、

 情報機器に搭載されている印刷文字字体の関係で、本表の掲出字体とは異なる字体(掲出字体の「」に対する「」など)を使用することは差し支えない。

 と付記されています。これは、上に述べたような事情を踏まえ、従来の情報機器に載っている字体で間に合わせることを認めているわけです。

 忘れてはならないのは、JIS2004に対応した機器を使っているユーザーも、JIS2004未対応の機器への配慮が必要だということです。

 例えばメールを出すとき、自分のパソコンの画面で「葛」がもし康熙体で見えていても、相手の手元でもその字体で見えるとは限りません。相手がXPや携帯電話ならば、たいていは下の部分が「ヒ」の形の字体で見えているはずです。自分の手元で見えている形を前提にして「下がヒになってる形じゃなくて、葛のほうだよ」などとメールの文中に書くと、異なる環境のもとではトンチンカンな文章になってしまいます。

 また、追加漢字のうちJIS第3水準に属する4字は、相手の環境によっては文字そのものが見えません(前シリーズ「シカルとシカル」でも、携帯にメールを送ったときにどうなるか紹介しました)。メールや文書ファイルを相手に確実に読んでもらうためには、JIS2004対応機器のユーザーも、JIS第1・第2水準の範囲で書くのが安全です。どうしても同じ字体で表現したければ、フォントを埋め込んだPDFを作るなどする必要があります。

 こうしたことは、改定常用漢字表に入ったかどうかにかかわらず、パソコンの文字全般について言えることです。ただ、これが「常用漢字」についても生じることになったというのが、重要なポイントです。

 表外漢字についてはこれまで情報機器の字体がいろいろと問題にされてきましたが、常用漢字に関しては一般ユーザーはほとんど何の心配もせずに情報をやりとりしていました。1978年に作られた最初のJIS漢字(いわゆる78JIS)は、現行常用漢字表(1981年)よりも前にできたため、当用漢字に無く常用漢字に入った95字のうち「喝」「嫌」などが、常用漢字表に示された新字体ではなく康熙体(旧字体)になっていましたが、1983年のJIS改正で例示字体が変更され、食い違いが解消されました。情報機器の本格的な普及は83年改正よりも後だったということもあり、このことはあまり問題になりませんでした。

 しかし今回は状況が違います。多くの人にとって、情報機器を抜きにした文字生活というのはほとんど考えられません。そのような状況で、国が国民に対し「一般社会の漢字使用の目安」として示す常用漢字が、実際には漢字表に示された字体で表示されなかったり、手元では表示できてもそれが相手に届かなかったりするわけです。「情報化時代への対応」を強調する改定常用漢字表ですが、その情報機器で課題を抱えたスタートになります。

 携帯電話を含むすべての情報機器がJIS2004対応で統一されればこの問題は解消するのですが、そう簡単にはいかないでしょうし、仮にそうなるとしてもしばらく時間がかかりそうです。

     ◇

 「改定常用漢字表」はきょう(6月7日)の文化審議会総会で内容が了承され、川端達夫文部科学相に正式に答申されました。【2010/06/07 19:00 追記】

(つづく)

(比留間直和)