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「改定常用漢字表」解剖 8

比留間 直和

 引き続き「改定常用漢字表の並び順」の話題です。

 前回は、漢字表の中に、「同じ読みどうしのときは画数順」という原則と明らかに違っているところや、画数の解釈で波紋を広げそうなところがあることを紹介しました。

 今回のテーマは、「もともと常用漢字表に入っていた字で、並び順が変わったもの」です。

 従来の常用漢字のうち「畝」「浦」の2字は、一部の音訓が削除されたのに伴い漢字表内の位置が大きく変わりましたが、ここで取り上げるのは、音訓の変化によるものでない並び順変更です。
 
 
■第3の配列ルール
 
 
 常用漢字表の並び順の原則として内閣告示や答申に明記されているのが(1)読みの順 (2)読みが同じ場合は画数順 ―― の二つだけであることは、前回書いたとおりです。

 しかし、読みも画数も同じ漢字というのはたくさんあります。それらがどういう規則で並んでいるのか、現行の常用漢字表を見てもいま一つはっきりしません。ただ、これまでの並び順をあえて崩す必要も無いので、今回の改定でも基本的に従来の配列を引き継いでいます。

 しかし新たな漢字を追加する際には、読みと画数の両方とも同じ漢字がある場合にどうするか決めておかないと、挿入位置が定まりません。国語分科会の関係者によると、追加漢字を挿入する部分に限り「第3のルール」を立て、それに従って挿入位置を決めたそうです。

 その第3のルールとは「部首順」、つまりその漢字が属する部首を見て順番を決める方式です。

 読みと画数の次なら当然それでしょう……と言われそうですが、部首というのはそう単純な代物ではありません。常用漢字では、一部の字が「新字体」つまり簡略化された字体になっていますが、新字体では「どの部首に属するか」が簡単には定まらないのです。

 例えば「来」という字。旧字体の「來」は康熙字典では「人部」に属しますが、新字体の「来」には「人」というかたちが含まれません。そのため、新字体の「来」をどの部首に置くかは、漢和辞典によって「木」だったり「二」だったり、はたまた「一」だったりと、実に様々です。

 そもそも「どんな部首を立てるか」ということも、漢和辞典によって異なります。漢和辞典の多くは康熙字典の214部首――1画の「一」から17画の「龠」まで――をそのまま踏襲するか多少アレンジしている程度ですが、一部の漢和辞典は一般の利用者が引きやすいよう、康熙字典に無い「」「」などの部首を立てたりしています。

 つまり、新字体や現在の辞書を前提にすると、「部首順」を決めにくいことがあるのです。

 改定常用漢字の並び順「第3のルール」は、「旧字体の、康熙字典における部首」とされました。これならば、新字体のように悩むことは避けられます。
 
 
■追加漢字の前後は並べ直しも
 
 
 改定常用漢字表のなかで、「追加漢字と、読みも画数も同じ既存の常用漢字がある」という場面が最初に現れるのは「イ」のところです。追加漢字「畏」は音読みが「イ」で画数は9画。従来の常用漢字表にも「イの9画」が3字あり、「威」「胃」「為」の順で並んでいました。さて、「畏」をどこに挿入するのが適切でしょうか。

 追加漢字「畏」の康熙字典における部首は「田」で、これは214部首のうち102番目。
 他方、もとから入っている3字は、

 「威」の康熙部首は「女」で、214部首中38番目。
 「胃」の康熙部首は「肉」で、同130番目。
 「為」の旧字体「爲」の康熙部首は「爪」で、同87番目。

 ……という具合です。つまり既存の3字は、「旧字体による康熙部首順」に並んでいませんでした。それ自体は不思議ではないのですが、このままでは「畏」をどこに挿入すべきか迷ってしまいます。

 そこで今回の答申では、「畏」を加えた計4字を、康熙部首順に従い「威」「為」「畏」「胃」と並べ直しています。

 筆者が改定常用漢字表の答申を調べたところ、上の「イの9画」と同様に現行常用漢字の並び順を変えた個所が、ほかに少なくとも3カ所ありました(下の図)。いずれも左側が現行常用漢字表、右側が改定常用漢字表。赤丸は追加漢字です。

 これらの並べ直しは、答申前の2度のパブリックコメントにかけられた1次試案や2次試案ではまだ行われておらず、最終段階で調整が加えられたものです(このほか、既存の常用漢字の順は変えずに追加漢字の挿入位置だけ修正したところもあります)。そのため、改定論議に注目していた人でも、気づいていない場合があるかもしれません。

 用字用語のマニュアルや辞書づくりに携わっている方が改定常用漢字の一覧をどこかに掲載しようとする際に、現行常用漢字表や試案段階のデータを材料に使うと、順番の変更を反映しそこねる恐れがありますので、十分ご注意ください。

 もちろん、ここで示した並べ替えもあくまで答申段階のものであり、正式な内閣告示を見るまでは油断はできません。

(つづく)

(比留間直和)