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3字が引っ越す理由 ― 人名用漢字も改正

比留間 直和

 改定常用漢字表の内閣告示が、いよいよあす(11月30日)に迫りました。
 これに伴い、人名用漢字も改正されます。今回はこの改正の内容を紹介したいと思います。

 まず人名用漢字とはどういうものか、簡単におさらいしておきましょう。

 名付けの漢字に制限があることはよく知られていますが、その根拠は戸籍法の第50条です。

【戸籍法】
 第五十条 子の名には、常用平易な文字を用いなければならない。
  ② 常用平易な文字は、法務省令でこれを定める。

 ここには単に「常用平易な文字」とだけあり、その具体的な中身は、法務省令の戸籍法施行規則で定めています。

【戸籍法施行規則】(2010年11月29日現在)
 第六十条 戸籍法第五十条第二項の常用平易な文字は、次に掲げるものとする。
  一 常用漢字表(昭和五十六年内閣告示第一号)に掲げる漢字(括弧書きが添えられているものについては、括弧の外のものに限る。)
  二 別表第二に掲げる漢字
  三 片仮名又は平仮名(変体仮名を除く。)

 三つあるうち、一つ目は常用漢字です。「括弧の外のもの」とあるのは、括弧付きで添えられている旧字体(「いわゆる康熙字典体」)ではなくて通用字体(標準の字体)の方ですよ、という意味です。

 二つ目の「別表第二」がいわゆる人名用漢字。常用漢字の通用字体のほかに名付けに使える漢字、ということです。

 「別表第二」は戸籍法施行規則のうしろの方に掲げられており、二つの表によって構成されています。「別表第二の一」(以下、「表1」)が常用漢字以外の漢字776字、「別表第二の二」(以下、「表2」)が常用漢字の異体(旧字体など)209字です。常用漢字1945字と合わせた2930字が、名付けに使える漢字というわけです(字数は2010年11月29日まで)。

 

 
 
 
■ 常用漢字表との「大トレード」
 
 
 法務省は今年の10月4日から11月2日まで、今回の常用漢字表改定に伴う戸籍法施行規則の改正案について、パブリックコメント(意見公募)を行いました。そこで公表された改正案は、かいつまんでいうと以下の3点です。

  (1)表1から、常用漢字表に入る129字を削除
  (2)常用漢字表から削除される「勺、匁、脹、銑、錘」の5字を、表1に追加
  (3)「彌」「曾」「瘦」の3字を、表1から表2に移す

 (1)と(2)は、割と分かりやすいものです。

 まず(1)ですが、今回新たに常用漢字になる196字のうち、129字は人名用漢字の表1にあった字です。常用漢字と人名用漢字の両方にあるのはヘンですから、これらは人名用漢字から外す必要があります。

 (2)は、今回常用漢字でなくなってしまう5字を“救済”するものです。常用漢字と人名用漢字のどちらにも属さないことになると、戸籍法施行規則の「常用平易な文字」から外れ、名付けに使えなくなってしまいます。そこで今度の改正で5字を人名用漢字に編入することで、引き続き名付けに使えるようにするわけです。膨脹の「脹」などは名前にはまず使われないのでは?という気もしますが、これまで使えていた字が急に使えなくなるのはよろしくない、という判断なのでしょう。

 (1)と(2)を合わせて、常用漢字表との「129対5」の大トレードとみることもできます。
 
 
 
■ 3字が引っ越す事情
 
 
 ちょっと分かりにくいのが(3)です。これは「彌」「曾」の2字と、「瘦」1字とに分けて説明します。

 まず「彌」「曾」ですが、表1には「弥-彌」「曽-曾」と、それぞれ新旧二つの字体が掲げられてきました。ここに至るまでの経緯は一様ではないので省きますが、表1には同一字種で二つの字体が掲げられているものがほかにも「亘-亙」「凜-凛」など18組あります。

 今回の改定で「弥」と「曽」が新たに常用漢字に入り、表1から削除されます。上記(1)の129字のなかの2字に当たります。

 人名用漢字には「彌」と「曾」が残りますが、「弥」と「曽」が常用漢字になるので、「彌」と「曾」は「常用漢字の異体」という位置づけになります。そのため、「常用漢字以外の字種」である表1から、「常用漢字の異体」を掲げる表2に引っ越す、というわけです。

 

 
 「瘦」も事情は似ています。

 これまでは、表外漢字字体表で印刷標準字体とされた「瘦」だけが表1にあったのですが、今回、簡易慣用字体(新字体)の「痩」が常用漢字に入ります。そのため、「瘦」は「常用漢字以外の字種」でなく「常用漢字の異体」に変わり、やはり表1から表2に移るのです。

 
 (1)~(3)の変更で、人名用漢字は表1が 776-129+5-3=649字、表2が 209+3=212字で、計861字になります。

 常用漢字から外れる字を編入する以外に人名用漢字に追加されるものはありませんから、今回から新たに名付けに使えるようになるのは「常用漢字表に追加される196字のうち、人名用漢字でなかったもの」で、その字数は 196-129=67字。名付けに使える漢字の総数は2997字になります。
 
 
 
■ 新字体への更正が可能に
 
 
 ところで表1とか表2とかといっても、どちらも人名用漢字なんだから実質的には何も変わらないんでしょ?と言われるかもしれません。その通り、子どもの名付けに使えるという点では同じです。

 違うのが、字体の変更の取り扱いです。

 戸籍の字体は、法務省の局長通達に基づき、一定の条件を満たせば家裁の許可などを経ずに、申し出により市区町村長限りで変更することができます。

 人名用漢字を掲げた「別表第二」が今のような構成になった2004年9月以降でいうと、「常用漢字の異体」である表2の字は、本人から「常用漢字の通用字体に変えたい」との申し出があれば、市区町村長限りで戸籍の字体を更正できます。例えば「國→国」「嶋→島」といった具合です(逆方向の「国→國」「島→嶋」はできません)。

 ※戸籍事務では、正字等を別の字体に変更することは「更正」、誤字や俗字を正字等に変更するのは「訂正」と呼びます。

 
 これに対し表1に入っている字体は、こうした別字体への更正ができません。対応する常用漢字が無いので当然といえば当然ですが、表1に複数の字体が掲げられているケースでも、もう一方の字体に更正することができないのです。

 つまり、表1の「弥-彌」「曽-曾」は、現行の枠組みでは「弥→彌」「彌→弥」「曽→曾」「曾→曽」という更正ができません。しかし11月30日付で「弥」「曽」が常用漢字になり、併せて「彌」「曾」が表2に移ることで、「表2→常用漢字」すなわち「彌→弥」「曾→曽」という方向の更正ができるようになります。

 「痩」については、常用漢字でも人名用漢字でもない「痩」から表1の「瘦」への更正は可能でその逆はできませんが、30日付で「痩」が常用漢字になり「瘦」が表2に移ることで関係が逆転し、「瘦→痩」の更正が可能になり逆はできなくなります(いずれも、更正のルールが変わらないことが前提です)。

(比留間直和)