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新常用漢字表「前書き」を読む

比留間 直和

 去る11月30日、ついに改定常用漢字表が内閣告示されました。内閣告示では「改定」はつかず、単に「常用漢字表」という名称ですが、紛らわしいので適宜「新常用漢字表」などと呼ぶことにします。

 内閣告示をそのもとである文化審議会の答申と比べると、漢字表そのものは基本的に同じですが、答申では漢字表の前に漢字に対する考え方や選定方法など(答申にとってはそれこそがメーンであるとも言えます)が書かれているのに対し、内閣告示では、漢字表の前には常用漢字表の位置づけや使い方など必要最低限の説明があるだけです。

 今回はこの前書きや表の説明が、前回(1981年)の内閣告示と比べてどう変わったかを見ていきたいと思います。
 
 
 
■ 基本的性格は変わらず、ただし…
 
 
 1981年の旧常用漢字表は、それまでの当用漢字の制限色を薄めるかたちで「漢字使用の目安」と位置づけられました。今回の新常用漢字表も「前書き」でほぼ同様のことがうたわれていますが、一部記述が追加されています。

 新常用漢字表の「前書き」は次の通りです。以下、旧常用漢字表と比べ追加・変更のあった箇所を赤いワクで示します(微細な変更点は割愛します)。

 

 前書きの1から5までの各項目は旧常用漢字表と同じ構成で、1、4、5は文言もそのまま。変わっているのは2と3に記述が追加されたことです。

 まず2は、旧常用漢字表では「各種専門分野や個々人の表記は対象外」という趣旨のくだりしかありませんでしたが、今回はその後に「ただし、専門分野の語であっても……」と加えました。

 実際、専門用語であっても国の漢字表を全く無視しているわけではありません。

 戦後、科学・技術各分野の「学術用語集」が文部省(現文部科学省)主導で作られましたが、漢字の使用範囲は当用漢字表によることとしていました。当用漢字表の「使用上の注意事項」には「専門用語については、この表を基準として、整理することが望ましい」とあり、これを実行に移していたわけです。

 その後当用漢字表から常用漢字表にかわり「制限」から「目安」となったのを受け、学術用語集でも必要に応じて表外漢字を使うようになりましたが、基本的には常用漢字表を漢字使用の基準としてきました。

 今回の新常用漢字表に「専門分野の語であっても…」というくだりが加わったのは、学術用語集を始めとする、これまでの専門用語の平易化の努力を踏まえたものと言えるでしょう。逆に言うと、旧常用漢字表の書き方があまりにそっけなかった感じがします。当時、急にはしごを外されたように感じた関係者もいたのではないでしょうか。程度の問題はありますが、平易化の努力そのものはやはり評価されてしかるべきでしょう。

 また、専門家しか使っていなかった語がのちに一般化するケースもよくあります。専門用語とそれ以外との区別を固定的に考えるのでなく、両者が連続性をもつことを前提とした今回の記述は、専門用語をかみくだいて説明することが求められる新聞の立場から見ても、妥当なものだと思います。

 3は、固有名詞が常用漢字表の対象外であることを述べた項目ですが、都道府県名などは例外的に対象とすることが新たに付け加えられました。新常用漢字表には、都道府県名のうち表に入っていなかった「茨、媛、岡、鹿、熊、埼、栃、阪、阜、奈、梨」の11字や、都道府県名に準ずるものとして「韓、畿」が加えられました。こうした措置との整合性をとるために、「例外の例外」が記されたわけです。
 
 
 
■ 長くなった「表の見方」
 
 
 「前書き」のあとには「表の見方及び使い方」が書かれています。文化審答申に「表の見方」として示されたものとほぼ同じですが、1981年の旧常用漢字表と比べ、だいぶ長くなりました。

 ここでは、三つに分けて示します。まず1~6です。

 2で漢字表の字数が増えたのは、既に知られている通りです。

 4では、かつて「明朝体活字」だったのが「明朝体」という言い方になっています。これは、本来の意味での「活字」がほとんど使われなくなり、デジタルフォントの時代に移ったことを反映しています。2000年の国語審答申「表外漢字字体表」でも、現代のものについては「活字」でなく「印刷文字」と呼んでいます。

 5は、旧常用漢字表になく今回新たに設けられた「許容字体」を説明したものです。
 
 
 次に、7~11です。

 7の説明追加は、都道府県名専用音訓に関するもの。茨の「いばら」、岡の「おか」、埼の「さい」、栃の「とち」、阜の「フ」が該当します。このうち「岡」などは「岡っ引き」といった用途が考えられますが、新常用漢字表ではそうした語例は挙げられていません。新聞では「岡っ引き」「岡持ち」などにこの字を使うことにしています。

 9の説明追加は、「案 アン」→案じる のように、音読み1字に活用語尾をつけた動詞は、特に掲げていなくても表内の読みと扱ってよいことを示したものです。漢字表の例欄には「課する」「介する」など、音読み1字を語幹とする動詞が一部掲げられていますが、網羅的ではありません。

 11の「全て」は、旧常用漢字表では表外訓だったので「すべて」と仮名書きでしたが、今回「全」の読みに「すべ-て」が追加されたので、漢字表記に変わりました。
 
 
 最後に、12以降です。

 12は、旧常用漢字表では(1)~(3)の下位分類はなく、(1)の内容だけが記されていました。

 (1)にあるように、備考欄で異字同訓を示すのに使っている記号が、「」から「⇔」に変わりました。変わった理由は――あくまで推測ですが――「JIS第1・第2水準(JIS X0208)にあって出しやすいから」でしょう。「」は第1・第2水準には無く、第3・第4水準(JIS X0213)で追加された字なので、「⇔」に比べるとやや使いにくいのです。

 「⇔」はもともと論理学で「同値」、つまり二つの命題が互いに必要十分条件であることを示す記号ですが、一般には単なる「両向き矢印」として使われることが多いと思います。

 情報機器の普及を受けて改定された常用漢字表ですが、使っている記号の形もまさに情報機器の影響を受けて変わったわけですね。(繰り返しますがあくまで推測です)

 (2)は都道府県名の扱い、(3)は手書き字形と印刷文字との間に大きな差があるものに印を付けたことの説明です。(3)の中のしんにょうに関するくだりで、《「」も筆写では「」と同様に「」と書くことから》とあるのが、意図してかどうか分かりませんが、「手書きでは『』と書くべきである」と強調している印象を受けます。

 最後の「付」は、2004年改正を経ていない古いJIS漢字(JIS X0208)に準拠した情報機器で一部の追加漢字の通用字体(標準の字体)が打ち出せないことへの配慮として記されたものです。2004年版JIS漢字ならば、新常用漢字表の全ての通用字体が打ち出せます。(新常用漢字とJIS漢字については、「『改定常用漢字表』解剖 2」〈2010年6月7日付〉で述べましたのでご覧ください)
 
 
 
■漢字の「並び順」結末は…
 
 
 ところで、以前「『改定常用漢字表』解剖 7」(2010年8月23日付)で指摘していた漢字表の並び順についてのご報告です。

 文化審答申における並び順に改善すべき箇所があることをこのコーナーで述べたのですが、内閣告示では筆者が“提案”していた通りに修正されました。すなわち、「宴」と「怨」、「孤 弧」と「股 虎」の順番が、それぞれ入れ替わりました。

 漢字表の並び順は、まず漢字の読みの順、同じ読みなら総画数順、というふうになっていますが、追加漢字の「怨」は総画数が9画なのに、答申では10画の「宴」の後に挿入されていたのでした。内閣告示ではこれが逆になり、正しい順序になりました。

 「孤 弧」は、辞書によってつくりの「瓜」を5画と見なすか6画と見なすか揺れがありますが、どちらかといえば6画のほうが一般的です。これだと総画数はともに9画になるのですが、答申ではこの2字の後に8画の「股 虎」の2字が挿入されていました。しかし内閣告示では、ご覧のように「股 虎」が「孤 弧」の前に移りました。文化庁によれば、ここでは「瓜=6画」と見なし、「孤 弧」を総画数9画として扱うことにしたそうです。もっとも「孤 弧」が8画か9画かが数字で示されているわけではなく、しかも8画の字の直後に位置しているので、8画にも9画にも見える(つまり「瓜」の画数をそれぞれ都合よく解釈できる)「絶妙」の配置となりました。

(比留間直和)

(次回は2011年1月10日掲載予定です)