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文字@デジタル

字体、変えました(後編)

比留間 直和

 前回、常用漢字表改定にあわせて「痩」「麺」「惧」の字体を変えたことをお伝えしました。
 他にも「惧」と同様、新聞製作システムの文字イメージを入れ替えた追加漢字がいくつかあります。いずれも、これまで字体差として問題視されることがあまり無かった小さな違いですが、常用漢字表に掲げられた形に合わせました。既に紙面に使っていますが、気づいた方がいらっしゃるでしょうか。
 
 
■「茨」「恣」の“にすい”
 
 茨城県の「茨」、恣意(しい)的の「恣」の形を、下のように変えました。前回紹介した「惧」と同じく、内閣告示より前の昨年10月のことです。

   

 ご覧のとおり、変わったのは「にすい」の形。新しい常用漢字表に掲げられた字体に合わせたものです。

 実際の紙面の印象はどうでしょうか。「茨」の例で見てみましょう。

    

 出現頻度はそれなりに高く、見出しにもなる字ですが、「茨城」や「茨木」といった決まった言葉(地名)ばかりなので、どんな形か改めてまじまじと見ることはないでしょう。ふだんの紙面でこの字形の変化に気づいた人はあまりいないのではないでしょうか。

       ◇

 2字に共通する「次」の形には、主に三つのパターンがあります。

    

 「次」という字はもともと「二+欠」であり、「冷」「凍」などの「にすい(冫)=氷や凍ることを表す」とは異なります。古い活字の多くはAの形で、しかも左側のパーツをかなり大きめに設計しているものが目立ちます。

 下は、1940年1月13日付(12日発行)の夕刊1面。見出しの「次」は、「二」がかなり威張っていて、つくりの「欠」が肩身の狭い思いをしているように見えます。

  

 

 戦後、当用漢字の時代になると、表に入った「次、姿、資、諮」は「冷」などと同じ「冫」(Bの形)で活字が設計されるようになり、1981年の常用漢字表にもBで示されました。ただし、JIS漢字の規格票に使われている「平成明朝」などは、「次」が本来「にすい」でないことを踏まえ、Cの形を採用しています。

 今回「茨」「恣」が伝統的なAの形で常用漢字表に掲げられたのは、2000年の国語審答申「表外漢字字体表」の印刷標準字体を踏襲したものです。このうち「茨」については実際の印刷文字に各種のデザインが用いられていることから、「茨」に限りA~Cのいずれでもかまわないことが明示されました(「恣」には適用されません)。

 「次」を構成要素に含む漢字の字体が、今回の常用漢字表でどのように示され、どれがデザイン差として認められているかを、上のA~Cの分類を使ってまとめたのが下の図です。

   

 この図に沿っていうと、従来の朝日新聞は、常用漢字も表外漢字もBの形でそろえていました。表外漢字字体表に準拠して2007年に字体を大幅に変更した際も、「次」という部品については同表でBの形も許容されていると理解し、Aへの変更はせずにいました。

 今回も「茨」についてはB、Cがデザイン差と認められており、紙面の字をAに変更しなくても国語施策上は問題ないのですが、一方で「恣」はBやCが認められないのがはっきりしたことから、「茨」と「恣」とで扱いを分けず、ともにAに変更するのが適当と判断しました。

 この2字のほか、「瓷」「咨」など、「次」を構成要素に含む表外漢字も、あわせてBからAに変えました。「茨」「恣」がAの形になるのであれば、表外漢字をBにしておく理由がなくなり、またAにしたほうが表外漢字字体表の趣旨により沿うと考えられるためです。

 
 
■牙がキバっぽく
 
 「牙」の字も、下のように形を変えました。

    

 

 以前から常用漢字である「芽、雅、邪」や人名用漢字の「冴」は、「牙」の部分が5画の形になっているのに対し、今回常用漢字入りした「牙」は4画の形(2画目をLのように書く)で掲げられました。「茨」などと同様、表外漢字字体表の印刷標準字体を踏襲したものです。

 「芽」などと同じ「5画型」もデザイン差として認められており、変更が絶対に必要というわけではありませんでしたが、画数に影響が及ぶ違いであることなどを勘案し、常用漢字表の掲出字体に合わせることにしました。変更は、「惧」や「茨」などと同じく昨年10月のことです。
 

   

 以前の朝日新聞の「牙」(5画型)を見慣れているベテラン記者からは、「けっこう印象が変わるものだ」との声が聞こえてきます。中には「出っ歯みたいな形で、このほうがキバっぽく見える」という素朴(?)な感想も。確かに4画型のほうが荒々しい感じがするような気もします。

 「牙」の形を変えるのとあわせ、「牙」を構成要素にもつ「穿、訝、鴉」などの表外漢字も、5画型から4画型に変更しました。これらの表外漢字が紙面に出る機会は多くありませんが、見かけたら「牙」の部分にご注目ください。
 
 
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 今回「茨」「牙」の形を変更したのは本文や見出しに使う朝日新聞オリジナルのフォントに限った話で、記事に添えるグラフィック(地図など)や地域面の題字といった、オリジナルでないフォントを使う部分については「茨」「牙」の形を統一していません。常用漢字表でデザイン差として認められており、一般にも形の違いが問題視されないためです。

(比留間直和)