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人名用漢字、使いやすいのは…

比留間 直和

 前回、新しい常用漢字とJIS第1・第2水準との関係について、少々マニアックに述べてみました。第1・第2水準だけの規格「JIS X0208」に適合しながら新常用漢字に対応した製品をつくることは可能だが、外部との情報交換で問題が生じる恐れがあるのでお勧めはできない――という内容でした。新常用漢字を扱うには、やはりJIS X0213、もしくはそれを内部に含むUnicodeを用いるのが適切です。

 さて、常用漢字と同じくらい「情報機器で打ち出せるかどうか」が気になるのが、人名用漢字です。常用漢字の通用字体のほかに、新たに生まれた子の名に使える字として、戸籍法施行規則(法務省令)の「別表第二」として示されています。

 昨年の常用漢字表改定に伴って、人名用漢字も改正されました。文字@デジタル「3字が引っ越す理由」(2010年11月29日)でお伝えしたように、今回常用漢字入りしたものを人名用漢字から削除するなど「法令上のつじつま合わせ」のための改正でしたが、常用漢字が落ち着いたところで、最新の人名用漢字とJIS漢字との関係を見ておきましょう。
 
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 人名用漢字をめぐる状況は、20世紀と21世紀とでがらりと変わりました。最大の理由が、何度も登場している2000年の国語審答申「表外漢字字体表」です。

 「表外漢字字体表」では、人名用漢字(2000年時点で285字)は「常用漢字に準じて扱う」として、戸籍法施行規則に示された字体がそのまま追認されました。出版物で人名用漢字が事実上の字体基準とみなされている実態を踏まえたものです。

 このときまでは、人名用漢字はおおむね当用漢字・常用漢字に準じた新字体――例えば「迪」のように1点しんにょう――でした。しかし表外漢字字体表より後に(つまり21世紀に入ってから)人名用漢字に追加されたものは、原則として表外漢字字体表が示した字体が採用されました。表外漢字字体表は、基本的に伝統的な字体(いわゆる康熙字典体)を標準としているため、同字体表以降に入った人名用漢字はそれまでと異なる字体――例えば「逞」のように2点しんにょう――になっています。結果として、20世紀のうちに人名用漢字になったものと21世紀に入ってから人名用漢字になったものとの間で、字体基準が食い違っているわけです。

 “21世紀人名用漢字”のほとんどは2004年9月の大量追加で入ったものですが、このとき追加された漢字には、JIS第1・第2水準以外のもの(X0213に基づく分類)や、第1・第2水準内でも「2004年のJIS漢字(X0213)改正で例示字体が変更され、改正前の例示字体(=X0208の例示字体)だと人名用漢字として示された字体とは明らかに異なってしまうもの」もありました。

 最新の人名用漢字とJIS漢字との関係を、前回新常用漢字について示したのと同様、赤字青字で示してみましょう。とりあえず今回は、話をなるべく分かりやすくするため、人名用漢字のうち、常用漢字以外の字種(「別表第二の一」。以下、「表1」と表記)に絞ります。

 赤くするかどうかの線引きはけっこう難しいので、ここでは「JIS改正前との字体差が、表外漢字字体表で“デザイン差”と認められた範囲を明らかに超えているもの」を赤字の対象としました。青字は単純に「第1・第2水準以外」です。



 戸籍法施行規則では部首画数順に示されていますが、ここではJIS漢字の面区点順に並べました。

 字の上に「・」が付いているのは、人名用漢字の表1に複数の字体が掲げられている字種のうち、もう一方の字体が国語施策上「標準字体」とされているものです。例えば共に第2水準の「凛」と「凜」は、表外漢字字体表の答申の時点で既に人名用漢字だった「凜」が現在も標準字体と扱われているので、そうでない「凛」に「・」が付けてあります。

 表外漢字字体表と常用漢字表とでは「デザイン差」として認める範囲が異なっており、表外漢字字体表のほうが緩めにできています。もし常用漢字表のデザイン差を適用すると、上で黒字にしている「芦、恢、汲、笈、喰、灼、揃、註、兎、挽、豹、廟、篇、娩」も赤字になると思われます。これらの字のJIS改正前の字体が表外漢字字体表で「表外漢字だけに適用されるデザイン差」(=常用漢字表では認めていないデザイン差)の対象とされているためですが、その後常用漢字表そのものが改定されているので、とりあえず断定は控えておきます。
 
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 上で赤くした55字が、2004年JIS改正後の例示字体(=現行のX0213)と同改正前の例示字体(=X0208)とでどう異なるかを示したのが、下の一覧です。
 

 
 こうした字体差を全く問題にしないケースもあるでしょうし、逆に、表外漢字字体表でデザイン差と認められている小さな違いでも問題になることもあると思いますが、ともかく人名用漢字のうちこのあたりの字が「古めの情報機器では違う字体で出てくる可能性が高い代表例」ということになります。
 
 
 青い字で示した21字は、2004年に新たに人名用漢字入りした16字(「・」無し)と、もともと人名用漢字の許容字体だった5字(「・」付き)に分類できますが、いずれにせよ、X0213に対応した機器でないときちんと入力・表示ができません。第3水準の字を使って誰かにメールを送った場合、相手が第1・第2水準だけの環境(従来型の携帯電話など)だったら、中黒で見えたり欠落したりして、意味が伝わりません。赤い字は、字体が変わってしまっても同じ字種のままなので最低限の情報交換は成立しますが、青い字ではそうはいかないわけです。

 21字はそれぞれ別の字体(倶、侠、呑、掴、渚、焔、猪、琢、祐、禎、祷、箪、繍、莱、蒋、蝉、蝋、醤、顛、鴎、繋)が第1・第2水準内にあり、それで代用するのも手ですが、それでは済まないことも多いでしょう。
 
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 字体差にいちいちこだわるのは漢字本来の在り方に反する、という指摘が何人もの漢字の専門家からなされていますが、残念ながら世の中の風潮は、氏名の字体の違いに不寛容になりつつあります。自分がこだわらなくても、他人が過剰に反応して「ああ、この人の名前の字はこっちなのか」「こうでなければならないのだろう」と勝手に解釈することもあります。実際、新聞記者が取材先からもらった資料を見て、たまたまそこで使われているに過ぎない字形に必要以上に合わせようとするケースもあるのです(本当に必要ならちゃんと合わせますが)。

 前回取り上げた新常用漢字の一部もそうですが、「機器によって形が違ったり使えなかったりする字」を名前に使った場合、自分が字体の違いにこだわるか否かにかかわらず、そのことを承知して賢く対応する必要があります。一定の寛容さも必要でしょう。なにしろ名前というのは社会で生きていくためにあるものですから。

 ちなみに(私事にわたり恐縮ですが)4年前、筆者に娘が生まれて名前を考えるときに最優先の条件にしたのは、「字体に揺れのない漢字にしよう」ということでした。

(つづく)

(比留間直和)