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漢字んな話

【咲】 花がニコッと笑ったよ(初回のみ無料)

熊  ご隠居、ご隠居いるかい。
ご隠居  騒がしいね、どうも。どうかしたのかい。
熊  どうもこうもねえよ。いい心持ちで花見から帰ってきたら、娘の咲(さき)が沈んでるじゃねえか。どうしたんだ、って聞いたら、学校で「花に関係した漢字は草冠が付くものが多い」って習ったそうだ。
ご隠居  ほう、それで?
熊  そしたら幼なじみの笑太に「『咲』は花に関係するのに口偏だ。咲は、やっぱり口から先に生まれてきたんだ」ってからかわれたらしい。名付け親のご隠居なら何か分かるんじゃねえか、って飛んできたってわけよ。
ご隠居  そりゃ、お咲ちゃんも可哀想に。でも、漢和辞典を見りゃ簡単に分かるよ。
熊  何だいそりゃ。うわー、漢字ばっかりじゃねえか。
ご隠居  漢和辞典には、漢字のあれこれが載っててな。「咲」は読み方が分かっているから、音訓索引で調べりゃいいんだ。あいうえお順だから、おまえさんにも出来るだろ。ちょっと見てごらん。
熊  どれどれ……「わらう。えむ」。なんだい、こりゃ。
ご隠居  「咲」は元々「わらう」という意味の漢字だったんだな。だから口偏なんだよ。古事記にも「八百万神(やおよろずのかみ)共に咲(わら)ひき」とある。
熊  じゃ、なんで「花が咲く」の意味になったんだい。
ご隠居  つぼみが開くことを、しゃれて「花わらう」と表現したところから「咲く」の意味に変化したとも言われている。花が咲くように明るく笑っていられるように、って名前を付けたんだよ。
熊  ご隠居、そりゃいい話を聞いた。早速帰って、咲(さき)を咲(わら)わしてやろう。

    ◇

 漢字を巡って、ご隠居と熊さん一家の一騒動。よろしくお付き合いのほどお願い申し上げます。

(文=前田安正、イラスト=わけ みずえ)

 2007年4月7日の記事を基に再構成しました。

熊(くま)
(くま)
咲(さき)
(さき)。熊の娘
ご隠居
ご隠居。咲の名付け親

「漢字んな話」は朝日新聞夕刊(一部地域)で2007年4月~2011年3月に連載していたコーナーです。2年分の連載をまとめた「漢字んな話」(四六判224ページ、税込み1575円)が三省堂から発売中!