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文字@デジタル

続 人名用漢字、使いやすいのは…

比留間 直和

 「人名用漢字とJIS漢字の関係」の話を続けます。今回は戸籍法施行規則の別表第二の二(以下、「表2」と表記)の字についてです。

 前回述べた表1が「常用漢字以外の字種」であるのに対し、表2には「常用漢字の異体」が掲げられています。その多くは旧字体(いわゆる康熙字典体)ですが、一部に旧字以外の異体も含まれます。

 現在、表2に含まれている212字を、JIS漢字(JIS X0213)の水準別に分けると以下のようになります。このうち第3水準は違いが分かりにくい字が多いので、大きな字で示しました。各水準とも、カッコ内が、対応する常用漢字の字体です。


 前回ご覧いただいた表1と同様、JIS第1・第2水準以外(ここではみな第3水準)の字は、青い字で示しました。

 なお、表1には多数含まれていた「JIS漢字の2004年改正で字体が変わったもの」は、表2にはありません。

 上の青い字を見ると、「常用漢字の字体とどこが違うの?」というようなものがいくつもあります。

 

 などはまだ分かりますが、小さい字で表示・印刷されたら判別しづらくなりそうです。

  

 このへんになると目がチラチラして、引っかけ問題を出されているような気がしてきます。

 極め付きは、

 

 あたりでしょうか。いずれも「ハコの中の縦棒が、左下への画と一体であるかどうか」という違いです。画数の異なる字体差ですが、見た目にはそっくり。見分けたり使い分けたりするのは難しいでしょう。

 これらの青い字は、ワープロやパソコンが普及する前から名付けに使えることになっていたのですが、2000年に JIS X0213 が制定されるまで、JIS漢字には独立したコードポイントが与えられていませんでした。第1・第2水準だけの規格である JIS X0208 では、今も、常用漢字の字体のコードポイントに「包摂」されることになっています。規格論的には、「表現」はできるが「区別」はできないわけです。

 しかし法令で名付けに使えることになっている以上、独立したコードポイントを与えるのが適当だということになり、X0213ではこれらの字について、通用字体のコードポイントに包摂するのをやめ、第3水準に別途追加したのでした。(このとき、常用漢字表に「いわゆる康熙字典体」としてカッコ書きされている旧字体は、名付けに認められていないものも含め、全て独立のコードポイントが与えられました)

 とはいえこれらの字は、従来型の携帯電話など、第1・第2水準しか扱えない機器では入力・表示ができません。最新のパソコンは第3・第4水準をサポートしているので打ち出すことができますが、電子メールをはじめとする情報交換のことを考えると、やはり情報機器ではまだ使いづらいと言わざるを得ません。

 子どもの名付けに使いたいという親の思いに口出しするつもりはもちろんありませんが、事実として知っておいていただきたいと思います。
 
 
        ◇
 
 
 少し前の辞書類を見ると、古い人名用漢字一覧が載っていたりしますが、今とはだいぶ様子が違います。2004年9月の人名用漢字大量追加の前は、人名用漢字を定めた「別表第二」は、表1と表2に分かれていませんでした。当時の戸籍法施行規則には「別表第二」のほかに「付則別表」があり、

別表第二「人名用漢字別表」
(施行規則第60条で規定された、常用漢字以外で子の名に使える漢字)
付則別表「人名用漢字許容字体表」
(付則で「当分の間用いることができる」とされた、常用漢字と人名用漢字の旧字体)

 という構成でした。

  ※法令では「附則」と書きますが、ここでは新聞表記に従い「付則」としています。

 当時は、戸籍法施行規則の本体で規定される別表第二だけが「人名用漢字」と呼ばれ、付則でオマケ的に認められていた許容字体は、格下の扱いでした。字数は、2004年9月改正の直前では別表第二が290字、付則別表が205字(うち常用漢字の旧字195字、人名用漢字の旧字10字)でした。

 この二つの表が、2004年9月に「別表第二」に一本化され、その中で表1と表2に分かれるかたちに再編されたのです。「当分の間」のはずだった許容字体が「当分の間」ではなくなり、制度上ずっと使えるようになりました。それ以降「許容字体」という呼び方はなくなり、全てが「人名用漢字」と呼ばれています。

 このときの改正の概要を示したのが下の図です。

 

 

 上の図で、旧「別表第二」から1字だけ表2に移行した「瀧」は、裁判所が子どもの名付けに使うことを認める判断を下したのを受け、法務省が2004年7月(つまりこの再編の直前)に急きょ追加した字です。本来「滝」の旧字体なので、9月の再編では表1でなく表2に編入されました。

 法制審答申の488字のうち13字は、常用漢字の旧字・異体字だったため、これも表2に入りました。うち、常用漢字表に「いわゆる康熙字典体」として掲げられているのは「榮 圓 實 萬 禮」の5字で、「薗 駈 嶋 盃 冨 峯 埜 凉」の8字は「いわゆる康熙字典体」ではない異体字です。

 その後、2009年4月に「祷 穹」の2字が表1に入り、2010年11月の常用漢字表改定の際には文字@デジタル「3字が引っ越す理由」(2010年11月29日)で述べた改正が行われました。現在の人名用漢字は表1が649字、表2が212字の計861字となっています。
 
 
        ◇
 
 
 それにしても、なぜこんな微細な違いしかない旧字体が、名前に使えるようになっているのでしょうか。さかのぼると、終戦直後の「当用漢字表」(1946年)に行き着きます。

 名付けの漢字制限が始まったのは、1948年1月の戸籍法施行から。この時点では「人名用漢字」はまだ無く、名付けの漢字は、既に出されていた当用漢字表の1850字に制限されたのでした。

 当用漢字表はもともと字種(どの字が当用漢字か)を示すもので、その「字体」は1949年の当用漢字字体表で正式に決まったのですが、戸籍法施行はそのはざまの出来事でした。

 そのため、当時名付けに使えるとされたのは「当用漢字表に示された字体(カッコ付きで添えられた字体を除く)」でした。当用漢字表に使われていたのは主に旧字体でしたが、その後、当用漢字字体表が出されてからも、いったん認めたそれらの字体は引き続き名付けに使えることとされました。

 その後、1981年に「常用漢字表」が制定されたのにあわせ、それまで「当用漢字表にあったから」と認められていた旧字体のうち、常用漢字表にカッコ付きの「いわゆる康熙字典体」として出ていない字体が整理され、それ以降名付けに使えなくなりました。主な例としては「羽」や「靑」などが知られています。一方、それまで認められていた旧字体で、常用漢字表に同じ形が「いわゆる康熙字典体」として掲出されたものは、名付けの世界に生き残りました。

 こうして生き残った旧字体が、戸籍法施行規則の付則別表に「常用漢字の許容字体」として示されたわけです。ほかに、1981年常用漢字表の段階で字体が変わった「燈(灯)」「龍(竜)」も許容字体に入りました。現在も表2に受け継がれています。
 
 
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 このようにちょっとややこしい過去を持つ人名用漢字の表2は、一般によく使われている“メジャー”な旧字・異体字もあれば、ごくごく小さな違いしかない旧字体もあり、いろんなレベルの字体がごった煮になっている状態です。これらの字体がそのままずっと「新たに生まれた子の名に使える漢字」でありつづけるのが本当に適切かどうか、長期的な視点で考えてみてもよいのではないでしょうか。

(比留間直和)