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「籠もる」にこもる意図 ― 常用漢字改定と送り仮名4

比留間 直和

 新しい常用漢字表で加わった字種・音訓のなかには、そのまま新聞紙面で使うには読みが難しいと思われるものがあります。そのため報道各社では、そうした難しい字種・音訓はほかの常用漢字と同様には扱わず、読み仮名を付けたり仮名書きにしたりしています(どの字種・音訓を対象とするかは、社によって多少異なります)。朝日新聞でも、国の常用漢字表(2136字)のうち、66字種と41音訓を独自に「表外」扱いし、読み仮名付きや仮名書きにしています。

 朝日新聞で「表外」扱いしているものの一つに、「籠(こ)もる」があります。「籠」は新たに加わった字で、常用漢字表には「ロウ、かご、こもる」の三つの音訓が掲げられています。朝日新聞ではこのうち「ロウ」(籠城、灯籠など)は読み仮名付き、「こもる」は仮名書きを原則とし、「かご」と読むときだけ読み仮名なしで漢字を使ってよいことにしています。

 今回は、この「籠もる」の送り仮名をめぐる話題です。
 
 
 
■籠もったり籠ったり
 
 
 新しい常用漢字表の「籠」の字の語例の欄には、「籠もる」という表記が示されています。この送り方は、1次試案のときから変わっていません。(ちなみに「かご」という読みは1次試案には無く2次試案で追加されたものです)

 

 

 前回の「たぐい(類い)」と同じように、手元の国語辞典のうち常用漢字表改定よりも前に出たものを見てみると、

 広辞苑 第6版 =【籠もる・隠る】
 大辞林 第3版 =【籠る・隠る】
 明鏡国語辞典 初版 =【籠もる】
 新明解国語辞典 第6版 =【籠(も)る】
 岩波国語辞典 第7版 =【籠(も)る】
 三省堂国語辞典 第6版 =【籠もる】
 現代国語例解辞典 第4版 =【籠る・隠る】
 学研現代新国語辞典 改訂第4版 =【籠もる・隠る】
 旺文社国語辞典 第10版 =【籠〔も〕る】

 と、「籠もる/籠る」の送り仮名は様々です。広辞苑は第5版まで【籠る・隠る】だったのですが、第6版で変わりました。(「隠る」は常用漢字表にない音訓なのでここではおきます)

 手元の「Microsoft Office IME 2010」でも、

   

 と、「-もる」を送る表記と「-る」だけ送る表記の両方が出てきます。また、ここでは常用漢字表に採用された康熙字典体「籠」のほかに、略字体の「篭」も出しているため、同一字種による漢字表記が2×2=4通りも出てきます。一般ユーザーは、どれを選んだらいいのか戸惑ってしまいそうです。
 
 
 
■「活用語尾だけ」なら「籠る」
 
 
 昨年11月、常用漢字表改定に合わせて行われた「送り仮名の付け方」(1973年内閣告示)の一部改正では、「籠もる」に関わる文言の挿入などはありませんでした(文字@デジタル「内閣告示をちょこっと改正」参照)。ということは、もともと「送り仮名の付け方」に書かれている通則のいずれかを見れば、「籠もる」という送り方が導き出される……はずです。

 「こもる」という動詞は「こもらない、こもります……」とラ行五段活用なので、「こもる」のうち「-る」が活用語尾です。今度の常用漢字表で掲げられた「籠もる」という表記は、活用語尾よりも前の部分から送っているわけです。

 「送り仮名の付け方」で動詞など活用のある語について示しているのは通則1と通則2。たびたびの長い引用で恐縮ですが、それぞれ全文を掲げます。(赤い字は、今回の一部改正で挿入された字句)

 通則1
  本則 活用のある語(通則2を適用する語を除く。)は,活用語尾を送る。
 〔例〕憤 承 書 実 催
    生きる 陥れる 考える 助ける
    荒 潔 賢 濃
    主
  例外 (1) 語幹が「し」で終わる形容詞は,「し」から送る。
 〔例〕著い 惜い 悔い 恋い 珍
  (2) 活用語尾の前に「か」,「やか」,「らか」を含む形容動詞は,その音節から送る。
 〔例〕暖だ 細だ 静
    穏やかだ 健やかだ 和やか
    明らかだ 平らかだ 滑らかだ 柔らか
  (3) 次の語は,次に示すように送る。
 明む 味う 哀む 慈む 教る 脅す(おどかす) 脅す(おびやかす)  食う 異る 逆う 捕る 群る 和ぐ 揺
 明い 危い 危い 大い 少い 小い 冷い 平い 新だ 同だ 盛だ 平だ 懇だ 惨
 哀だ 幸だ 幸だ 巧
  許容 次の語は,( )の中に示すように,活用語尾の前の音節から送ることができる。
 表す(表す) 著す(著す) 現れる(現れる) 行う(行う) 断る(断る) 賜る(賜る)
 (注意) 語幹と活用語尾との区別がつかない動詞は,例えば,「着」,「寝」,「来」などのように送る。
 通則2
  本則 活用語尾以外の部分に他の語を含むものは,含まれている語の送り仮名の付け方によって送る。(含まれている語を〔  〕の中に示す。)
〔例〕
(1)動詞の活用形又はそれに準ずるものを含むもの。
 動かす〔動く〕 照らす〔照る〕
 語らう〔語る〕 計らう〔計る〕 向かう〔向く〕
 浮かぶ〔浮く〕
 生まれる〔生む〕 押さえる〔押す〕 捕らえる〔捕る〕
 勇ましい〔勇む〕 輝かしい〔輝く〕 喜ばしい〔喜ぶ〕
 晴れやかだ〔晴れる〕
 及ぼす〔及ぶ〕 積もる〔積む〕 聞こえる〔聞く〕
 頼もしい〔頼む〕
 起こる〔起きる〕 落とす〔落ちる〕
 暮らす〔暮れる〕 冷やす〔冷える〕
 当たる〔当てる〕 終わる〔終える〕 変わる〔変える〕  集まる〔集める〕 定まる〔定める〕 連なる〔連ねる〕 交わる〔交える〕
 混ざる・混じる〔混ぜる〕
 恐ろしい〔恐れる〕
(2)形容詞・形容動詞の語幹を含むもの。
 んずる〔重い〕 やぐ〔若い〕
 怪しむ〔怪しい〕 悲しむ〔悲しい〕 苦しがる〔苦しい〕
 確かめる〔確かだ〕
 たい〔重い〕 らしい〔憎い〕 めかしい〔古い〕
 細かい〔細かだ〕 柔らかい〔柔らかだ〕
 らかだ〔清い〕 らかだ〔高い〕 寂しげだ〔寂しい〕
 許容 読み間違えるおそれのない場合は,活用語尾以外の部分について,次の( )に示すように,送り仮名を省くことができる。
〔例〕 浮ぶ(浮ぶ) 生れる(生れる) 押える(押える) 捕える(捕える)
 晴やかだ(晴やかだ)
 積る(積る) 聞える(聞える)
 起る(起る) 落す(落す)  暮す(暮す)  当る(当る) 終る(終る) 変る(変る)
(注意)  次の語は,それぞれ〔 〕の中に示す語を含むものとは考えず,通則1によるものとする。
  明るい〔明ける〕 荒い〔荒れる〕 悔しい〔悔いる〕 恋しい〔恋う〕

 

 本来は「通則→個々の表記」という方向で運用するものですが、逆に考えてみると、

  活用語尾を送るもの → 通則1の本則に基づく
  活用語尾より前から送るもの → 通則1の例外か、通則2の本則に基づく

 ……ということになります。(「許容」は標準表記の根拠にはならないので、ここでは無視します) 

 そして、「籠もる」は活用語尾より前の部分から送っているので、「通則1の例外か、通則2の本則に基づく」はずです。昨年11月の一部改正で通則1の例外に「籠もる」が追加されなかったことを考えると、「籠もる」という送り方の根拠は通則2の本則であるはずだ、と推論できます。

 通則2の対象は「活用語尾以外の部分に他の語を含む語」。では、「籠もる」に含まれている別の語とは、何でしょうか。
 
 
 
■「籠める」は表にないが
 
 
 「『籠もる』に含まれている別の語」は、常用漢字表を探しても見つかりません。実は、「籠(こ)める」がそれに当たります。「こめる」を常用漢字表の音訓の範囲で書こうとしたら「込める」しか無いのですが、辞書にはたいてい「込める」と「籠める」の両方の表記が載っています。

 「こめる」は「こめない、こめます……」と下一段活用。「送り仮名の付け方」にあてはめれば、「籠」を使う場合も、通則1により活用語尾の「める」を送って「籠める」になります。その上で、「こもる(籠)」に「籠める」が含まれていると考えれば、通則2により、「籠める」にあわせて「籠もる」と送ることになります。

 しかし、「送り仮名の付け方」の通則2の本則の例で〔 〕内に示されている語は、いずれも常用漢字表に掲げられている音訓ばかり。表外の音訓を〔 〕内に想定してよいのかどうか、筆者には確信が持てませんでした。そこで文化庁国語課に尋ねたところ、やはり「表外だが『籠める』という表記が辞書等に広く見られるので、通則2に基づき『籠もる』と送ることになる」との説明でした。
 
 「こもる」について、「籠る」でなく「籠もる」という送り方を採用したことに異議をとなえるつもりはありませんが、「籠める」の方は国語施策上オーソライズされていない表記なのですから、《「籠める」があるから「籠もる」と送るのだ》という理屈は必ずしも自明ではありません。ここはやはり「送り仮名の付け方」の通則2の例に「籠もる〔籠める〕」を挿入するなどしてきちんと示すべきだったのではないでしょうか。その場合、〔籠める〕に*印などを付けて「常用漢字表に無い音訓」と注記する必要があるでしょう。

 あるいは、「籠める」の存在は無視して、通則1の例外(3)に「籠もる」を挿入する手もあったかもしれません。この場合は「他の語を含んでいるかどうかは別として、とにかく『籠もる』と送るのだ」という扱いになります。

 最初に述べたように朝日新聞では「籠もる」は表外扱いし、原則として漢字表記しないので、「籠もる」という送り方を支える理屈を社内のハンドブックに記述する必要はないのですが、それはそれとして、主要な国語施策どうしがうまく連関していてほしい、そして分かりやすく書かれていてほしい、というのが新聞の用語担当者の切なる願いなのです。

(つづく)

(比留間直和)