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文字

文字@デジタル

八日目のナカグロ

比留間 直和

 前回まで4回にわたり、「鄧小平→トウ小平」のように、JIS第1・第2水準以外の字(いわゆるJIS外字)をカナに置き換えた交ぜ書きについて、変換辞書での扱いなどをあれこれ述べてきました。

 JIS外字をカナに置き換えるというのは、「情報機器によってはJIS第1・第2水準にしか対応しておらず、それ以外の字をきちんと表示できない場合がある」からです。

 しかしこの文字@デジタルでは、「鄧」などのJIS外字を示すとき、画像を使ったりせずにそのままフォントで表示させることがあります。「ことばマガジン」の他のコーナーでも、時々JIS外字をそのまま使っています。

 一方で、フォントではなく画像で文字を示すケースももちろんあります。画像にしたりしなかったりするのは、どういうことなのか。今回はそのへんの事情を述べておきたいと思います。

 

■XPと補助漢字の「カベ」

 

 まずはおさらいから。JIS(日本工業規格)として定められた、日本語用の漢字コードには以下の3種類があります。

 JIS X0208 …第1・第2水準。1978年制定、83・90・97年改正
 JIS X0212 …補助漢字。1990年制定。Windows98以降のMSフォントに搭載
 JIS X0213 …第1~第4水準。2000年制定、04年改正(JIS2004)。Vista以降のMSフォントに搭載

 X0208とX0213については、昨年の常用漢字表改定を反映させるための改正(実質的な変更点は無し)が近く予定されていますが、現時点では上記の通り、X0208は1997年版、X0213は2004年版が最新の規格です。補助漢字は90年の制定後、改正されたことがありません。

 第1・第2水準に入っている字であれば、改正による字体の変遷などを別にすれば、基本的に「どのマシンでも表示OK」といえます。そのためニュースサイトの多くは、「第1・第2水準の範囲だけ使う」という運用になっています。ニュース素材はウェブサイトだけでなく、多種多様な電子媒体に同時に流れる、という事情もあります。

 しかし一般的なパソコンについていえば、現在使われているもののほとんどは、第1・第2水準以外の字も表示できるようになっています。そこで、ニュース素材に比べ閲覧環境が限られている「ことばマガジン」では、パソコンでまず問題ないものについては、JIS外字をそのままフォントで表示させています。「問題ない」かどうかは、主に「その字がどの文字コード規格に含まれているか」を見て判断しています。

 下の表は、これまで文字@デジタルや他のコーナーに登場したJIS外字からいくつかピックアップし、それぞれの字がどの文字コード(文字集合)に含まれているかまとめてみたものです。

 

 

 左から順に、鄧小平の「鄧」、李承燁(イ・スンヨプ)の「燁」、深圳の「圳」、豆豉(トウチ)の「豉」。そして飛の「」、奪の「」、叱の「口へんに漢数字の七」の字体です。(はX0208の規定では第1・第2水準に包摂されますが、X0213に基づき「×」としています)

 いちばん右の2字、「」と「」は見慣れない字ですが、西濃地方の祭りで「山車」の意味で使われる字(観字紀行「『車山』が1文字に」)と、戦前の紙面で東京・渋谷の地名表記に使われていた字(昔の新聞点検隊「パパ、ママとは何事ぢゃあ!」)です。

 過去の記事で上の9字を使ったときは、「鄧」から「豉」までの4字は画像を使わずフォントで表示させ、「」から右の5字には画像を使いました。このページでも同様です。

 画像を使った右の5字に共通するのは、表で分かる通り、「JIS補助漢字に入っていない」ということです。

 Windowsに標準搭載されているMSフォントは、1998年の「Windows98」以降、JIS補助漢字をサポートしました。現在使われているWindowsは、そのほとんどがXP(2001年発売)以降のバージョンでしょうから、「補助漢字ならばどのWindowsパソコンでも表示できる」と考えてまず問題ないでしょう。

 一方、第3・第4水準の文字がMSフォントに加わったのは、2007年発売のWindows Vistaから。XPであっても、マイクロソフトのウェブサイトから「JIS2004」対応のMSフォントをダウンロードすることで第3・第4水準が使えるようになりますが、多くのユーザーはわざわざそんなことはしないでしょう。

 Vistaの次の「7」も出て、さすがのXPもだいぶ置き換えられてはいますが、まだ筆者の周り(自宅や職場)にはXPマシンがいくつも現役で残っています。つまり、「補助漢字ならOKだが、第3・第4水準はまだ」というカベがあるのです。

 

■しかも「IE6」のままだと…

 

 ただ、ふつうならば、MSフォントに文字イメージが無い場合はそのマシンに搭載されている別のフォント(中国語用など)の文字イメージをもってきて代わりに表示する機能が働くため、通常の記事に出てくるような字が「字形が全く表示されない」ということはあまり無いはずです。

 ところが、古いXPマシンだとそうはいかないことがあります。

 企業で業務用に使っているマシンの場合、OSのアップデート機能(Windows Updateなど)が管理者によって制限され、結果としてだいぶ古い状態のままになっていることがあります。Windows標準のブラウザー「Internet Explorer」(IE)は、XP向けの最新版は「8」(Vistaや7向けは「9」)ですが、企業ユースのXPマシンだと、業務用ソフトウエアの動作保証などの事情から、バージョンアップされずに「6」のままだったりします。筆者の目の前のXPマシンもその一つです。(個人所有でIE6のまま使い続けている人もいるでしょう)

 そして、この「XP+IE6」の環境だと、ウェブページの文字の見え方がこんなふうになります。

 上がIE6(SP3)、下はグーグルのブラウザー「Google Chrome」です。同じHTMLファイルを読み込ませたところ、Google ChromeだとXPのMSフォントに無い「」が別のフォントによって代替表示され、きちんと読めるようになっていますが、IE6だと中黒(・)になってしまい、何という文字かわからなくなっています。

 

       ◇

 

 実は最近、この「飛市 → 飛・市」のような事例が、ウェブ上のニュース記事で見受けられました。

 先月末、話題の映画「八日目の」の報知映画賞受賞が決まった際、これを報じたニュースサイトのほとんどが略字の「蝉」で代用していたのに対し、少なくとも一つの映画情報サイトでは康熙字典体の「」をそのまま(画像ではなく)使っていたのです。

 【cinemacafe.net】http://www.cinemacafe.net/news/cgi/release/2011/11/11712/ (リンク切れ)

 「XP+IE6」でこのニュースを見ると、上の「飛・市」と同じように、映画のタイトルの最後がセミでなく中黒に見えてしまいます。

 「」はちょうど「」と同じく、JIS第1・第2水準にも補助漢字にも入っておらず、XPのMSフォントには文字イメージが含まれていません。第1水準にある略字の「蝉」であればどのマシンでも表示できるのですが、康熙字典体の「」は補助漢字でも不十分で、第3・第4水準に対応した環境が必要です。

 こうした字がIE6でも日本語以外のフォントで代替表示されるよう、HTMLに言語タグを記述するといったワザもあるのですが、標準の日本語フォント以外のものを当てにするのは、やはり不安が残ります。

 そんなわけで、当分の間は「XPのMSフォントに文字イメージがある」つまり「補助漢字に入っている」ということを、JIS外字を画像でなくフォントで表示する場合の“最低条件”とするほかないだろう、と思っています。

(比留間直和)