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地味さに意味あり? ― JIS漢字改正へ

比留間 直和

 JIS X0208(第1・第2水準)の1978年版、83年版、90年版の字数や字体の変遷、90年制定の補助漢字、2000年制定のJIS X0213(第1~第4水準)、そして04年のX0213改正。ネットを介して広く情報を発信しようとするときには、好むと好まざるとにかかわらず、JIS漢字がたどった経緯を踏まえておかなければなりません。

 そのJIS漢字が、まもなく改正されます。

 今回の改正は2010年の常用漢字表改定を受けたもので、対象となっているのはX0208(第1・第2水準)とX0213(第1~第4水準)の二つの規格。X0208は1997年以来、X0213は2004年以来の改正となります。

 ただし、実質的な中身は何も変わりません。

 これまでJIS漢字の改正ではたいてい「文字の追加」や「字体の変更」が行われ、文字そのものはいじらなかった97年改正でも「包摂規準など規定の明確化」という重要な変更が行われてきました。しかし今回の改正では、こうしたものはひとつもないのです。

 では、何が変わるのでしょうか。

 

■JIS漢字「改正」の目的

 

 今回の改正の目的は、2010年度に「改定常用漢字表に関する規格検討委員会」の報告書で指摘された、JIS漢字の規格票と新しい常用漢字表との間の不整合を解消することです。同報告書が指摘した不整合は、主に以下の2点でした。

X0208、X0213とも、1981年の常用漢字表から、明朝体のデザイン差に関する解説部分をそのまま引用している。常用漢字表の改定でこの引用部分が不一致となる。
X0208で第1・第2水準の漢字を具体的に示している「附属書6 漢字の分類及び配列」では、常用漢字に対して[常]と表示し、その音訓は常用漢字表に掲げられたものを載せているが、常用漢字表の字種や音訓に追加や削除が行われたため、不一致が生じている。

 「そんなことより、字体の問題じゃないの?」という声も聞こえてきそうです。確かに、新しく常用漢字に加わった字の一部は、2004年のX0213改正後の字体が採用されており、それらはX0208の字体とは食い違っています。例えば「カツシカのカツ」は、常用漢字表とX0213はともに康熙体の「」であるのに対し、X0208は略字体の「」である、といった具合です。これは、X0213が2004年に、国語審議会答申「表外漢字字体表」(2000年)に合わせるための改正をしたのに対し、X0208は改正を見送ったためです。

 しかし文字コード規格が掲げる字体はあくまで例示であり、包摂規準を適用すれば(理屈の上では)すべての新常用漢字をX0208のいずれかのコードポイントで表すことができます(そうはっきり言えるのも、1997年改正でそれまであいまいだった包摂規準が明確化されたおかげです)。同報告書は、字体の違いに留意が必要と述べながら、X0208についても「規格それ自体は改定常用漢字表と整合的」と結論づけました。そんな事情もあって、今回も「X0208の例示字体の変更」は検討事項に上りませんでした。

 

■ふたつの主な変更点

 

 今回のJIS漢字改正については、1月20日まで日本工業標準調査会(http://www.jisc.go.jp)が「意見受付公告」を行っており、その間は改正案のPDFを閲覧できます。(※意見受付公告はすでに終了しました)

 上述の2点の不整合の詳細とその解消方法は、以下のようなものです。

 

(1)明朝体のデザイン差の引用部分

 常用漢字表から明朝体のデザイン差のくだりを引用しているのは、X0208とX0213とも、規格票の[6. 符号化文字集合の構成]-[6.6 漢字の区点位置の解釈]-[6.6.2 字体の実現としての字形]のところです。現行の規格では、

6.6.2 字体の実現としての字形 この規格は,字体の図形的実現としての字形については規定しない。
 一つの字体の図形的実現としては,デザインの差に基づく複数の字形が考えられるが,この規格はそれらを互いに区別しない。
 
   一つの字体の明朝体の字形デザインの差は,この規格では区別しない。次に,常用漢字表(昭和56.10.1,内閣告示第1号)の“(付)字体についての解説 第1 明朝体活字のデザインについて”から,字形デザインの差の例を引用する。

 という文言のあとに、1981年常用漢字表の「(付)字体についての解説」の前半部分をそのまま掲載しています。この「(付)字体についての解説」は2010年の常用漢字表にもあり、81年のものとおおむね同じ構成ですが、デザイン差の例示のなかに、新しく常用漢字になった字がいくつか加わるなどしています。

 今回の改正案では、常用漢字表について「昭和56.10.1,内閣告示第1号」とあるのを「平成22.11.30,内閣告示第2号」と修正するなどしたうえで、常用漢字表からの引用部分を新しいものにそっくり置き換えています。

 

 

  

(2)[常]マークと音訓

 第1・第2水準の漢字の詳細を示している、X0208の「附属書6 漢字の分類及び配列」では、常用漢字に対して[常]マークを付け、常用漢字表と同じ音訓を掲げています。

 常用漢字表改定によって[常]マークを付けるべき対象が変わったほか、「引き続き常用漢字だが、音訓が追加(または削除)された」「新たに常用漢字になったが、採用された音訓とJIS規格票に掲げられている音訓とが一致しない」といったものがあります。

 この不整合を解決するため、今回の改正案では以下のような方法がとられています。

X0208の附属書6から[常]マークをすべて外し、常用漢字表の音訓を掲げていることを示す文言を削除する。そのうえで、それぞれの字に掲げていた音訓はそのままにしておく。
X0208とX0213それぞれに、改定後の常用漢字2136字のコードポイントを示した対応表(附属書12)を新たに設ける。この対応表は常用漢字表の並び順とし、常用漢字表の音訓も掲げる。

 つまり、JIS漢字と常用漢字表との関係を示す情報は附属書6から切り離し、新しい附属書に任せてしまうということです。個々の常用漢字について「JIS漢字だとどのコードポイントなのか」を調べるうえでは、このほうが分かりやすいでしょう。

 X0208とX0213では、先に述べたように、一部の例示字体が異なります。また新しい常用漢字のうち「、塡、、頰」の4字は、《X0213だと第3水準のコードポイントで表されるが、X0208だと第1水準の「叱、填、剥、頬」のコードポイントに包摂される》というややこしい問題を抱えています(文字@デジタル「第1・第2水準で新常用漢字に対応できる?」参照)。

 そのため、X0208のほうの新しい附属書案には、一部の例示字体が常用漢字表の字体と違うことや、上記4字のコードポイントがX0213の場合とは異なっていることが注記されています。X0213の附属書案にもこの4字に関する注記があります。(すぐに理解してもらうのは容易ではないと思いますが……)

         ◇

 このふたつのJIS漢字規格の改正は、順調にいけば2月にも官報に公示され、それぞれの規格票(追補)が発行される見通しです。

 

■「形式的」で済むのは……

 

 このJIS漢字の改正案づくりに当たった「常用漢字表の改正に伴う漢字JIS開発委員会」(委員長=林史典・聖徳大学教授)には、筆者も隅っこの方に参加していました(親委員会のみ)。

 今回の改正はX0208、X0213ともに、変更点だけを示す「追補」という形式なので、元の規格票とあわせて読む必要があります。X0208は1997年版に対する「追補1」ですが、X0213は前回2004年の改正が2000年版に対する「追補1」だったため、それに続く「追補2」となります。つまり、2000年発行の最初の規格票、04年の追補1、そして今回の追補2と、計3冊を並べて読まないと、最新のX0213の姿が分からないことになります。

 上述のように文字コードとしての実質的な変更はなく、メーカーもユーザーも特段の対応を迫られるものではありませんが、規格票の使い勝手は甚だ悪くなります。経済産業省には、なるべく早い「まるごと作り直し」をお願いしたいものです。

 

 思えば、1978年の第1・第2水準制定以来、JIS漢字の「改正」は、その多くが国の漢字施策を追いかけるものでした。

 1983年の改正は、81年の常用漢字表制定と人名用漢字追加を反映させるための字体変更や文字の追加を含んでいました。1990年改正でも、人名用漢字追加を受けた字体変更と文字追加がありました。1997年改正では文字は変わりませんでしたが、2004年にはまた「表外漢字字体表」を反映させるために(X0213の)字体を変更しました。

 過去のJIS漢字の改正と比べると、今回は最も形式的で、たいへん「地味」な改正です。

 しかし別の見方をすれば、形式的な改正で済んでしまうこと自体に意味があるように思えます。

 そもそも2010年の常用漢字表改定は、「情報化時代に対応する漢字政策の在り方」に関する文部科学相の諮問に対して文化審議会が出した答申に基づきます。その論議では情報機器の普及やJIS漢字の存在が意識され、答申文でも、追加字種の字体については「JIS規格(JIS X0213)における改正の経緯を考慮する」として、表外漢字字体表に従って2004年に改正されたX0213の字体を再び変えさせるような選択はとるべきでない、との判断が記されています。また、X0208の字体との違いについても、「情報機器に搭載されている印刷文字の関係で、本表の通用字体とは異なる字体を使用することは差し支えない」との付記があり、容認していると読み取れます。

 情報機器の字体に混乱をもたらさない。文化審のこの方針が、今回のJIS漢字改正の規模の小ささにつながっていると言えるでしょう。

 国語施策の大黒柱である常用漢字表が情報機器や文字コード規格にこれほど配慮することについては、批判的な意見もありました。しかし、良くも悪くも、国語施策と文字コードを別々に論じることがもはや不可能であることは確かです。

 そうした「時代の節目」の象徴の一つが、今回のJIS漢字の「地味な改正」なのではないでしょうか。

 

【追記】JIS X0208 と X0213 の改正は、2012年2月20日付で官報に公示されました。

(比留間直和)