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観字紀行

ぶらり麹町~前編~

奈良岡 勉

拡大ここは東京のど真ん中。住所表示をよく見ると……。

 前回の「タンス・たんす・箪笥」に続き、東京歴史散歩の第2弾。今回は「麴(こうじ)町」をぶらり歩きました。

 東京都千代田区 麴 町。この街を選んだ理由は「観字紀行」のタイトルが示すとおり、そう、「 麴 」です。画数だと19画。難しい漢字ですね。

 なぜ「 麴 」なのかって? 答えは現場にあります。

 ではさっそく行ってみましょう。

 最寄り駅は地下鉄半蔵門線半蔵門駅と地下鉄有楽町線 麴 町駅、そして地下鉄丸ノ内・南北線とJR中央・総武線の四ツ谷駅。交通の便もよく、さすが東京のど真ん中、皇居の西隣だけのことはあります。

 まず目についたのは住所表示。お気づきでしょうか。「麹」ですね。左側の部首「ばくにょう」が7画の「麦」です。

拡大通りの案内も……
拡大やっぱり「麦」

拡大小学校の校章も「麦」
拡大おや?プレートの方は……
拡大区役所出張所も難しい「むぎ」

 おっとここにも。

 千代田区立 麴 町小学校の校章です。

 一方でこんな表示も。プレートです。

 これは「ばくにょう」が11画の「麥」の字を使っています。

 併設の千代田区役所 麴 町出張所の表示を見てみましょう。

 やはり「麥」の方を使っているのがおわかりでしょうか。

 「麦」と「麥」。なぜ2種類の表記が混在しているのか。そしてその違いとは――。実を言うと、答えは簡単なので(「観字紀行」の読者ならばもうおわかりですね)、謎解きは後回しにして街歩きを楽しんでみましょう。

  麴 町は現在、1丁目から6丁目まであります。皇居西側の半蔵門交差点から順に1丁目、2丁目と進み、6丁目が四ツ谷駅の駅前交差点あたりまで。距離にしてわずか1.5キロ弱。国道20号(新宿通り)、地元で「 麴 町大通り」と呼ぶ幹線道路沿いに細長く形成された街です。

 ではなぜここを「 麴 町」と呼ぶようになったのか。

 地下鉄半蔵門線の半蔵門駅3a出口から地上に出てすぐの所に「 麴 町一丁目の由来」と題した金属板のガイドがあります。筆者は荒俣宏さん。テレビでもおなじみの、あの博覧強記にして小説「帝都物語」など数多くの著作物のある作家、翻訳家、博物学者です。直筆のサイン付き。

「おおっ」。いきなり驚かされます。

拡大荒俣宏さんのガイド付き由来板

 「千代田区町名由来板ガイド」。所在地は 麴 町1の6。千代田区が2004年9月に設置しました。

 それによると――。

 「 麴 町は、江戸城の西に位置した半蔵門から外堀四谷御門(よつやごもん)にいたる道筋、現在の 麴 町大通り(新宿通り)沿いに誕生した町である」

 格調高く、わかりやすい案内ですね。この町名由来板ガイドはぜひ実物をご覧になることをお勧めします。

 というのは、説明文も読み応えがありますが、その下に現在の地図と江戸時代の安政3(1856)年の地図が並んで示されているからです。

 両方の地図を見比べて、現在位置を確認しながら歩くと、いっそう街歩きの楽しさが増すと思います。

 さて、町名の由来でした。

 由来板ガイドには「江戸の町屋ではもっとも古い地区の一つで、幕府の 麴 御用を勤めた 麴 屋三四郎が一丁目の堀端に住んだことから『 麴 町』の名が起こったといわれている」と説明されています。

 なるほど。町名はやはり 麴 に関係していたのか――。

 説明はさらに続きます。

 「しかし、 麴 町の由来はさらに古く、上古にあっては豊島宿(のち江戸宿)から府中(ふちゅう)の国府(こくふ)を往来する国府街道の、江戸における出入口であった。すなわち国府路(こうじ)の町であった。よって、元来は『国府路町(こうじまち)』であったとする説も有力で、徳川時代に入り大名旗本の小路となったことから『小路町(こうじまち)』となり、元禄(げんろく)年間(1688~1704)に 麴 屋をはじめ、呉服商の岩城枡屋などの有力な商屋の繁栄を見るようになってから、『 麴 』が当てられたと考えられる」

 大まかに要約すると(1) 麴 を扱う人がいた(2)国府路の町だった(3)小路の数多い町だった、の三つの説があるというのです。いったい、どれが正解、あるいは有力なんでしょう。

 この由来板ガイド製作の際に協力した区立日比谷図書文化館文化財事務室の学芸員、高木知己さん(48)は困った顔をしてこう話します。

 「どれが本当か、有力か、実を言うとはっきりとわからないんです。いずれの説も甲乙つけ難し、なんです」

 そして「いまは 麴 を扱う店はありません」ということでした。

 由来板ガイドは丁ごとにあります。後編はこのガイドを一つずつ訪ねながら、付近を巡ってみます。「 麴 」「麹」が混在するわけも次回に。

(奈良岡勉)

(次回は6月1日に掲載予定です)

※今回から「漢字紀行」→「字紀行」とコーナー名を変更しました。「漢字」だけでなく、さまざまな「字」を幅広く訪ねる予定です。今後もご期待下さい。