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文字

観字紀行

南紀、熊野、ときどき漢字(3)

石橋 昌也

拡大鳥居
 熊野三山のひとつ、熊野速玉大社です。境内には、国の天然記念物に指定されている樹齢1千年のナギの木もあります。社伝によると、もともとは同市にある神倉山にある巨岩をご神体としてその地に社殿を構えていたといいます。

拡大拝殿
拡大ナギ

拡大手水舎
 もちろん八咫烏がいます。たまたま駐車場に止まっていた観光バスにも3本足のカラスが描かれていました。ちなみにここにある手水(ちょうず)舎の竜がちょっと変わっていました。鼻先が非常に長いです。

拡大八咫烏
拡大観光バス

拡大変体仮名が刻まれた柱
 変わった字がないかと神社内を散策していたところ、奉納者の名前を記した柱でしょうか、写真のような字を見つけました。漢字のように見えますが、平仮名の一種で変体仮名というものです。平仮名は1900年の小学校令施行規則により学校教育の場で字体が統一され、現在に至っていますが、それ以前に使われたものが変体仮名です。年配の方にはなじみがあるかもしれませんが、そば屋の看板や箸袋で時折見かけられるでしょうか。写真の字は「と」。完全に崩れきってはいませんが、「登」が変化したものです。

拡大温泉街
 最後の目的地、熊野本宮大社に向かいますが、その前に、湯の峰温泉に立ち寄りました。ここの温泉も歴史は古く、熊野詣でが盛んだった時には潔斎の場としてにぎわいました。

 

 ここにある「つぼ湯」は、世界遺産にも登録されている温泉です。2~3人が入ればいっぱいになる小さな湯のため、1回30分の交代制。残念ながら時間の都合で入れませんでした。湯はとても熱いのが特徴で温泉たまごなどが作れますが、それを狙うカラスがいるようです。

 看板に描かれている、そんな悪さをするカラスはさすがに2本足でした。

拡大つぼ湯
拡大「カラスに注意!」

拡大鳥居
 熊野本宮大社です。境内にはあちこちに八咫烏があります。八咫ポストというものもありました。ここに投函(とうかん)すると八咫烏スタンプが押されるそうです。ポストの色はもちろん真っ黒な烏色です。大社はもともと近くの熊野川沿いにあったそうですが、明治時代に洪水に遭い、いまの高台に建てられました。

拡大拝殿と八咫烏
拡大八咫ポスト

 さて、これで熊野三山をすべて訪ねたことになるのですが、ただ来て、見ただけが目的ではありません。3カ所すべて回ったのは、これを集めるのが目的でした。

拡大熊野那智大社
拡大熊野速玉大社
拡大熊野本宮大社
 「熊野牛王(ごおう)符」と呼ばれるものです。熊野を詣でた人たちが熊野参詣の印として受け取り、家の神棚などに掲げるものです。古来、熊野牛王符は起請文(きしょうもん)として使われました。起請文とは、自分の行為や言葉を神仏に誓う約束の文書のことです。いろいろな約束事を牛王符の裏に書き、必ず守ることを神仏に誓ったのです。約束をたがえると、熊野の神の使いである烏が死に、破った本人も死んでしまうとされました。

 幕末の志士・高杉晋作が作ったとされる都々逸に、「三千世界の烏を殺し、ぬしと朝寝がしてみたい」というものがあります。いろいろな解釈があると思いますが、牛王符に即して解釈してみます。当時、遊女たちは客と誓紙を取り交わしました。「これまで交わしてきた約束を破ってまでも、あなたと一緒に朝まで過ごしたい、そのためにも起請に使った熊野牛王符の神の使いである烏が、世界中の烏が死んでしまってもいい」。こういうところでしょうか。しゃれています。

 さて、この熊野牛王符、よーく見てください。一見してよくわからないかもしれませんが、文字らしきものが書かれているようにみえないでしょうか。そしてそれぞれの文字を構成しているのは・・・烏です。烏でできた文字です。熊野の神の使いである烏を使い、那智大社は「那智瀧宝印」、速玉大社は「熊野山宝印」、本宮大社は「熊野寶璽」と記されているそうです(大社の人や資料によってまちまちで、「璽」なのか「印」なのか、「宝」なのか旧字の「寶」なのか実際にはよくわかりませんでした)。那智大社は72羽、速玉大社は48羽、本宮大社は88羽の烏で構成されているそうです。「那智」はなんとなく形が判別できました。「熊野」も烏の数が多い本宮の方が、すこしわかりやすいような気がします。

           ◇ ◇ ◇

拡大てちTシャツ
 南紀・熊野、総走行距離500キロの旅はいかがでしたか。当初想定していたよりも、各地でおもしろい、珍しい字に出会うことができました。中には本当に偶然に巡り合ったものもありました。巡り合いと言えば人との出会いも貴重なものです。初回に登場した田辺市龍神村の喫茶店「てち」の石神さんご夫婦からは、読者のみなさんに、Tシャツを提供していただきました。もともとはスタッフTシャツだったのですが、そのデザイン(もちろん、龍が4つ)を気に入ったお客さんからの要望で、店頭販売しているものです。

 今回提供していただいたのはネイビー色でMサイズ。お一人に抽選で差し上げます。ご希望の方は、住所、氏名、連絡先の電話番号を記入のうえ、はがきで〒530-8211 大阪市北区中之島3の2の4 朝日新聞大阪本社校閲センター「観字紀行」係まで。当コンテンツへの感想などもお書き添えいただければ幸いです。締め切りは2012年7月27日(必着)で、当選発表は発送をもって代えさせていただきます。(はがきに記入された個人情報は抽選目的のみに使い、抽選後は外部に漏れることのないように処分します)

(おわり)

(石橋昌也)