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文字@デジタル

XIIまでか、XIXまでか

比留間 直和

 今年の夏は「XXX」でした。さて、何のことでしょう。

 答えは、ロンドン五輪。今年の五輪のことを国際オリンピック委員会(IOC)では「Games of XXX Olympiad in 2012」と表記しています。XXXというのはローマ数字で30、つまり第30回(中止の回を含む)の夏季大会だったということです。

 

 「ああそうか。一瞬どきっとしたよ」
 「へんな想像したんでしょう。まあ、エックスを三つ重ねると“成人向け”を意味したりしますからね……」
 「それはいいとしてさ、ふだん見かけるローマ数字って、せいぜい10ぐらいまででしょ。20とか30なんて、ふつう使わないよね」
 「確かにそうですね。うちの新聞製作システムでも、ローマ数字はいくつまで用意しておくべきか、8年ほど前に再検討したことがあるんです」
 「ほう?」

 

■19までは置いてます

 

 横書きしかない欧米では、ローマ数字はふつうのアルファベットの「I」や「V」や「X」を並べれば済みますが、日本語のように縦書きをする場合、あらかじめ全角1文字分に組み合わせたローマ数字を用意しておかないと不便です。

 今のパソコンの文書作成ソフトには「縦中横」(たてちゅうよこ)とよばれる機能がついており、縦組みの文の途中に複数の文字を横に並べることができますが、ほかの文字と違和感なく並べるには、やはり組み合わせ済みのローマ数字が必要です。

 朝日新聞のシステムでは、ローマ数字の大文字は1~19、小文字は1~12を常備しています。下に示すのがその文字イメージです。

 

 

 かつて鉛の活字で新聞を作っていた時代も、ローマ数字はありました。

 戦後、昭和30年ごろから朝日新聞では本格的に当用漢字を中心とする活字の整備に取り組み、書体や大きさごとに活字の母型帳をつくりました。現在職場に残っているものをひっくり返してみたところ、「改刻一倍半明朝母型帳」(1962年2月)に、ローマ数字の大文字の1~12が載っているのを見つけました。

 

 

 母型帳のタイトルの「一倍半」というのは、新聞活字の大きさを表す言葉です。新聞業界では、当時の新聞の本文用扁平活字の高さ=1000分の88インチ=を「1倍」と呼び、1倍半は1000分の132インチ(約3.35ミリ)。この母型帳に載っているのは、タテ・ヨコともその大きさの見出し用活字です。

 昭和30年代に作られて残っているほかの活字母型帳にはローマ数字は見あたりませんでしたが、おそらく本文用の小さな活字にもこのローマ数字1~12が用意されていたものと思われます。

         ◇

 余談ですが、社内ではローマ数字のことを「時計数字」と呼ぶ風習があり、現在新聞製作に使っているソフトウエアでもこの呼称を使っています。確かにローマ数字は時計の文字盤に使われますが、どうしてローマ数字と呼ばないのだろう?と入社当時の筆者は不思議に思ったものでした。しかし、このように古い資料に「アラビヤ数字」などと堂々と書いてあるのを見ると、無理にカタカナ語を使うよりは日本語のほうが取り違えを防ぐことができてベターだったんだな……と納得がいきます。

         ◇

 その後、1980年にコンピューター組み版に移行。ローマ数字は範囲が広げられ、大文字は19までとなり、小文字も12まで搭載されました。

 

 「12までというのは、時計とか月とかに合わせたんだろうと分かるけど、どうして19までにしたのかな」
 「はっきりした理由は分かりませんが、ふつうの新聞記事だけでなく、広告の需要もあったんじゃないでしょうか」
 「確かに、書籍広告とかは社内で組んでいるものもあるからね。で、8年ほど前に再検討したっていうのは?」
 「ほら、今のシステムに更新する直前ですよ」

 

■あのゲームはいくつまで?

 

 朝日新聞では、21世紀に入り、新聞製作システムを全面的に更新しましたが、このとき文字の搭載方法も変わりました。かつては一般の文字コード規格とは全く異なる独自のコード体系だったのがUnicodeベースとなり、常備する文字も見直しました。

 ローマ数字も、どこまで搭載するかが検討対象となりました。Unicodeでコードポイントが定義されているのは、大文字・小文字とも1~12(ローマ数字の50=L、100=C…なども定義されていますが、これは日本の新聞には不要です)。13以上を搭載しようとすると、私用領域に外字として置くことになります。

 果たして13以上を常備する必要があるか? これといって決め手が無いなか、頭に浮かんだのは「ファイナルファンタジー」でした。

 

 「ファイナルファンタジーって、ゲームの?」
 「スクウェア・エニックスの人気ゲームソフトです。あれって、タイトルの末尾にローマ数字が付いているでしょう。当時、11まで来ていたんですけど、これがどこまで行くんだろう、と……」
 「聞いてみたの?」
 「まさか。そんな将来の予定は分からないでしょうし、もし内定していても教えてくれませんよ」
 「それもそうだ」
 「少なくとも、12で終わることはないだろう、ということは言えました。結局、旧システムと同じく19まで搭載することにしたんです」

 

 その後、ファイナルファンタジーは2006年に「12」、09年に「13」、そして10年に「14」がリリースされました。

 

 「まだ19まではしばらく余裕があるじゃない」
 「でも、実はファイナルファンタジーよりどんどん進むものがあったんですよ。すごく有名なシリーズもので」
 「それって何?」

 

■ドラマでもスポーツでも

 

 それは、米のテレビドラマシリーズ「ER 緊急救命室」でした。NHKのBSで放送されて日本でも人気となり、2010~11年の第15シーズンまで続きました。このタイトルにもローマ数字が付いていたのです。

 システム更新のために文字の選定をしていたころは、日本では第8シーズン「ER Ⅷ」が終わったところでした。ERのファンだったら「まだどんどん行く」と予想できたのでしょうが、当時はファイナルファンタジーよりも小さい数だったこともあり、思いが至りませんでした。

 厳密にいうと、紙面の最終ページのテレビ欄では全角のローマ数字の「11」以降は使われなかったようです。テレビ欄のデータは外部からの配信を受けているのですが、その配信元のシステムが11以上のローマ数字に対応していなかったらしく、二つのローマ数字を並べる形になっていました。たとえば「14」だと、下の画像のように、ローマ数字の「Ⅹ」と「Ⅳ」を並べた「ERⅩⅣ」という表記でした。

 

 「でも、ERは15までで終わったんでしょ。ほかにこんな大きなローマ数字を紙面で使うことはまず無いんじゃない?」
 「いやいや。ラグビーの日本代表メンバーが、正式な代表戦とは別に親善試合などをするときに名乗るチーム名『JAPAN XV』(ジャパン・フィフティーン)というのがあります。紙面では『日本XV』と表記していましたね。ローマ数字の15を使いました」
 「へえ」
 

  

 

 いま見てきたのは有名なものばかりですが、地域面に載るイベントの名前などを含めれば、13以上は決して珍しくありません。「18」や「19」もごくわずかながら使われています。

 システムに常備しているのは19までですが、20以上は紙面で使えないというわけではなく、本当に必要ならば緊急作字をしてしのぎます。ただ、現システムになってから7年ほど経ちますが、この間に「ローマ数字の20以上」の作字が発注されたことは無いようです。

 今のところ、「19まで常備」という判断は妥当だったかな(前例を踏襲しただけですが)……とひそかに思っているのですが、将来の担当者はどう評価するでしょうか。

 

 ローマ数字の話を続けます。

(比留間直和)