メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

文字

文字@デジタル

ローマ数字、ゴシック体では…

比留間 直和

 引き続き、ローマ数字の話です。ローマ数字は、ゴシック体だとどんな形でしょうか。

 

 「どんな形でしょうかって、ゴシックなんだから太いんでしょ」
 「上と下にある横線はどうでしょう」
 「横線……ローマ数字なら、ついてるんでしょう。太いのが」
 「やっぱりそう思いますか」
 「やっぱり?」

 

 朝日新聞の記事本文や見出し(グラフィック等を除く)のフォントはオリジナルのものですが、そのうちゴシック体フォントのローマ数字は、こんな形になっています。

 「ほら、やっぱり横線あるじゃない」
 「でも、これについては議論があったんです」

 

 欧文の線の端にある小さな横線を「セリフ(serif)」といい、これがついている書体も「セリフ」と呼ばれます。セリフのついていない書体は、「サンセリフ(sans serif)」と呼ばれます。sans はフランス語で、without の意味です。

 

 

 一般に、明朝体フォントに含まれる欧文はセリフ、ゴシック体はサンセリフです。つまり、ゴシック体の和文フォントに含まれるアルファベットのIやVやXにセリフはふつうついていません(Iに限っては、Lの小文字との区別のためセリフがついていることがあります)。

 朝日新聞のゴシック体も同様に、アルファベットのIやVやXにはセリフがありません。しかしローマ数字には上の画像のように横線がしっかりついています。

 

 「ローマ数字はアルファベットのI、V、X、L、C、D、Mを並べて表すものですから、アルファベットとデザインを変える必要は本来ありませんよね」
 「なるほど」
 「同じフォントのなかで、アルファベットのI、V、Xとローマ数字のデザインが全く異なるのは、本当は奇妙なんです」
 「でも、ローマ数字っていうと、上下に横線がついているものを見慣れてる気がするなあ。横線がないと、それっぽくないし」

 

 そう、ゴシック体のローマ数字を整備するにあたっては、そこが問題でした。アルファベットにセリフが無い以上、ローマ数字もセリフをつけない形にするのが自然です。しかし実際に紙面で使うにあたり、「横線が無いとローマ数字っぽく見えない(見てもらえない)」という意見もあり、そうした素朴な感覚も無視できませんでした。

 

 

■一般人の感覚か、デザインの統一性か

 

 パソコンに搭載されているフォントを見ると、ゴシック体のローマ数字のデザインは割れています。

 

 

 Windowsに標準搭載されているMSゴシックは、アルファベットはIだけセリフつき、他はセリフ無しですが、ローマ数字はそろってセリフあり。一般の日本人の感覚に合わせたということでしょうか。だとすれば、朝日新聞のゴシックと同じ判断をしたということになります。

 MacやiOSが搭載しているヒラギノは、ゴシック体はアルファベットもローマ数字もセリフなし。デザインの統一が優先されています。平成ゴシック体なども同様にセリフなしです。

 

 「こういうゴシックみたいなフォントでセリフがついているのは、欧米には無いの? 見たことあるような気がするけど」
 「そういうのもあります。スラブセリフ(slab serif)と呼ばれる書体で、太いセリフがついているものです。今の朝日のゴシック体は『アルファベットはサンセリフで、ローマ数字はスラブセリフ』といった具合なんです」

 「それぞれを見ればおかしくないけど、同じフォントでアルファベットと統一がとれていないのは本来のありかたではない、というわけだね」
 「そういうことです」

 

■かつては「明朝体と共通」

 

 実は、朝日新聞でゴシック体フォントに含まれるローマ数字を今の形に整備したのは、ほんの2年半前のことです。活字の時代から、ローマ数字に関しては明朝・ゴシックで区別をせず、どちらもセリフ(細め)がついた形を使っていました。明朝体用のものをゴシック体にも使っていたということのようです。そのため、明朝体のなかではマッチするのですが、ゴシック体のなかではやや浮いて見えていました。

 

 

 その後、新聞製作システムを現在のものに更新してしばらく経ってから、このローマ数字をゴシック体として自然な形にしようということになり、検討の末、アルファベットに合わせたセリフ無しの形ではなく、太めのセリフのついたデザインが選ばれました。

 文字の設計では通常、同一フォント内のデザインの統一が重視されるのですが、場合によっては「統一性」よりも「日本で広く受け入れられる形」を優先することもある ―― 新聞用フォントのそんな一面が表れた事例でした。

(比留間直和)