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「04以前」もお忘れなく

比留間 直和

 Windows8に搭載されたMicrosoft IME 2012の話をつづけます。

 前回は、2010年に新たに常用漢字となった「曽」「痩」「麺」の3字が、いまだに2000年の表外漢字字体表のまま「簡易慣用字体」に分類され、旧字体である「曾」「瘦」「麵」が「印刷標準字体」と表示されることを紹介しました。

 筆者は日常的にはMS-IMEを使っていないのですが、たまに使ってみて、印刷標準字体をめぐって「不思議だなあ」と思っていたことがあります。

 「印刷標準字体なのに、仮名漢字変換で出しにくいもの」があることです。

 岐阜県飛驒市。「平成の大合併」で、2004年2月に同県古川町、神岡町、河合村、宮川村の4町村が対等合併して誕生した市です。「驒」の字はJIS第1・第2水準にはありませんが、2000年に制定された第3・第4水準に入り、2007年発売のWindows VistaからMSフォントに搭載されています。

 ところが、Vista以降のMS-IMEで「ひだ」と打って変換しても「飛驒」は出てきません。出てくるのは、第1・第2水準にある略字の「飛騨」だけです。今回のMS-IME2012でも同じでした。

 

     

 

 「だ」だけで変換すれば、標準辞書(一般的な単語はこれに登録されています)のほかに備わっている「単漢字辞書」によって辛うじて「驒」も出てきますが、たくさんの候補から見つけ出さなければなりません。ほとんど「飛驒」専用といってよい字ですから、「ひだ」で出てくれないと甚だ不便です。

 

 印刷標準字体が第1・第2水準外……といえば、代表格は何といっても「鷗」。「おうがい」で変換してみると、略字の「鴎外」だけでなくちゃんと「鷗外」も出てきて、「印刷標準字体」というコメントが現れます。

 

     

 

 このように「第1・第2水準には略字など別の字体しかなく、印刷標準字体は第3・第4水準」という字は、のちに常用漢字に昇格したものを含め、計40字あります(「鄧」も第3・第4水準だが、第1・第2水準に別字体が無いので対象外)。

 これらの字が、MS-IME2012の標準辞書で変換候補に出てくるのか、またその際に「印刷標準字体」というコメントが付いてくるかどうかを試してみました。

 以下は、初期設定のままでの変換結果です。単漢字と区別するため、なるべく2字以上からなる単語で調べました。

 

A)ちゃんと出るもの=21字

 「おうがい→鷗外」のほか、「あぜん→啞然」「こうじまち→麴町」「せっけん→石鹼」「かむ→嚙む」「ししゅう→刺繡」「しょうかいせき→蔣介石」「しょうゆ→醬油」「そうよう→搔痒」「きとう→祈禱」「めんるい→麵類」「ろうそく→蠟燭」「つながる→繫がる」「やせる→瘦せる」「おおうそ→大噓」「くらぶ→俱楽部」「けん→姸」「しかる→𠮟る【口へんに漢数字の七】」「へいどん→併吞」「はくだつ→剝奪」「びょうぶ→屛風」は、第1・第2水準にある字体とともに、印刷標準字体による表記が変換候補として出てきました。

 候補語には「印刷標準字体」というコメントも表示されます。別の字体による候補語にも、表外漢字字体表における位置づけに沿って「簡易慣用字体」「デザイン差」「非標準字体」とのコメントが付けられています。

 上記のうち「麵」と「瘦」は、前回述べたように、2010年に簡易慣用字体の「麺」「痩」が新常用漢字に入ったため、印刷標準字体は「常用漢字の旧字体」になりました。しかし今なお「麵」と「瘦」に「印刷標準字体」、「麺」と「痩」に「簡易慣用字体」のコメントが表示されます。

 また、「𠮟【口へんに漢数字の七】」と「剝」は、この印刷標準字体がそのまま新常用漢字となりました。国語施策上「標準の字体」であることに変わりはありませんが、表外漢字字体表の呼称である「印刷標準字体」のコメントが表示されるのは、やはり“古い”と言えます。

 

B)単語によっては出るもの=3字

 「摑」「顚」「瀆」は、代表的な単語であれば「つかむ→摑む、つかまる→摑まる」「てんまつ→顚末」「ぼうとく→冒瀆」と、印刷標準字体がきちんと変換候補に出てきます。ところが、少しひねって試してみると、「おおづかみ→大掴み」「てんまつしょ→顛末書」「ぼうとくてき→冒涜的」という具合に、第1・第2水準にある略字の表記しか候補に出てきません。

 この3字はいずれも、変換候補に「印刷標準字体」というコメントが出てきません。略字の候補にも、「非標準字体」といったコメントは付きません。

 

C)別の字体しか出てこないもの=14字

 特に問題なのはここです。

 最初に述べた「ひだ→飛騨(標準の字体は飛驒)」のほか、「かえん→火焔(火焰)」「きょうかく→侠客(俠客)」「ほおべに→頬紅(頰紅)」「くたい→躯体(軀体)」「ほてん→補填(補塡)」「どのう→土嚢(土囊)」「はつらつ→溌剌(潑剌)」「はっこう→醗酵(醱酵)」「ほうらい→蓬莱(蓬萊)」「しばしば→屡(屢)」「あぶらぜみ→油蝉(油蟬)」「たんす→箪笥(簞笥)」「じょうろう→上臈(上﨟)」は、MS-IME2012の標準辞書では、ここに示したような第1・第2水準にある字体の候補しか出てきませんでした(単漢字辞書を使えば出てきます)。「非標準字体」などのコメントも付いていません。

 上記のうち「塡」と「頰」は、この印刷標準字体が新常用漢字となりました。つまり、MS-IME2012の標準辞書では、常用漢字なのにその字体ではなく別の字体しか出てこないものがある、ということになります。

 

D)その他=2字

 「攢」と「幷」は、略字の「攅」「并」を含め、標準辞書で変換できる単語が見つかりませんでした(単漢字辞書を使えば出てきます)。

 

          ◇

 

 それにしても、なぜこうした違いが出てくるのでしょう。

 上記の結果を見る限り、「印刷標準字体の変換候補がきちんと出るかどうか」は、「変換候補に字体に関するコメントが表示されるかどうか」と一致しています。字体に関するコメントが付かないものは、印刷標準字体の変換候補が十分には備わっていない、ということです。

 ではどのような字に対してこうしたコメントが付与されているのでしょうか。それを見極めるため、

 ・JISのどの規格に入っている字か
 ・WindowsのMSフォントにいつから搭載されているか
 ・表外漢字字体表で、「簡易慣用字体」などが示されているか

 といった観点で、対象となる40字の状況を表にまとめてみました。



 

 これを見ると、JISのどの規格に含まれるかにかかわらず、「印刷標準字体のほかに簡易慣用字体が定められているものは、変換候補に字体に関するコメントが表示される」ということがわかります(変換候補そのものが見あたらない「幷/并」を除く)。

 この表とは別に、JIS第1・第2水準のなかに複数の字体が入っているものを試してみましたが、簡易慣用字体が定められていない字に対しては、字体に関するコメントは与えられていません。例えばMS-IMEで「ひのき」と打って変換すると、印刷標準字体の「檜」と略字の「桧」が候補に出てきますが、いずれにも字体に関するコメントは付きません。「鰺/鯵」「壺/壷」「竈/竃」「鶯/鴬」なども印刷標準字体(前者)とその略字(後者)が第1・第2水準にありますが、同様にコメント無しです。それぞれ後者の字体は簡易慣用字体とされていません。

 また、「靱/靭」のように「印刷標準字体とそのデザイン差」とされているケースでも、コメントは表示されません。

 これに対し、上の表以外で、別字体が簡易慣用字体とされている「穎/頴」「攪/撹」「曾/曽」「枡/桝」「濾/沪」「蘆/芦」「彎/弯」は、いずれも「印刷標準字体」「簡易慣用字体」のコメントが付きます。つまり簡易慣用字体の有無がコメントの有無を左右しているわけです。

 

 「でも上の表を見ると、鄧や俱のように簡易慣用字体が無いものも、字体のコメントが出ると書かれているではないか」。その通りです。そこが不思議なところです。

 表の左側の色づけされた列をごらんください。赤が「JIS補助漢字」、青が「第3・第4水準の2000年版」、緑が「第3・第4水準の2004年追加分」を示しています。

 表のなかで、「簡易慣用字体が無いのに、字体に関するコメントが付くもの」は、いずれも緑色=「第3・第4水準の2004年追加分」です。これらは、印刷標準字体でない候補にも「デザイン差」「非標準字体」といったコメントが付けられています。どうやら2004年追加分に関連する字には、例外的に細かくコメントが与えられたようです。「VistaからMSフォントに搭載したもの」という線引きでないところが面白い(?)ところです。

 2004年追加分の字は、ふたつの「シカル」のように、JIS漢字に前からあった字体との差が微細であるものが多く、特に気を使ったのかもしれません。それはそれでよいのですが、表に示したほかの字についても同様の対応が望まれるところです。コメントの有無自体はともかく、印刷標準字体の変換候補が出てこないというのは困りますし、それに「塡」や「頰」などは今や常用漢字なのですから。

 どうか「04以前」も、お忘れなく。

(比留間直和)