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文字@デジタル

丸数字考 ①

比留間 直和

 春が近づいています。

 「さっきだれか来てたね」
 「ああ、システム部門の人ですよ。通信社から届くプロ野球の記録の文字変換テーブルについて相談してたんです」

 この時期、プロ野球などのシーズン入りを前に、紙面で使う文字イメージや文字コードの環境整備が進められます。社内の話で恐縮ですが、今年はプロ野球公式戦の記録データを受ける経路が少し変わるため、文字コードがらみの調整や確認をしているところです。

 「プロ野球の、どういう字について?」
 「丸数字と黒丸数字です。ほら、本塁打数で白いのとか黒いのとか使うでしょ」
 「ああ、あれか」

 スポーツ面をご愛読のかたは、よくご存じでしょう。プロ野球の試合ごとの個人打撃成績のなかで、出場選手のシーズン本塁打数が丸数字で記され、さらにその試合で本塁打を打った選手の本数は黒丸数字で示されていることを。

 

 

 朝日新聞の縮刷版で調べたところ、スポーツ面に載るプロ野球各試合の個人成績でシーズン本塁打数を丸数字で示すようになったのは、1985年から。その前年、1984年の紙面を見ると、個人打撃成績に「本」「率」という列がない代わりに、「振」(三振)と「球」(四死球)を選手ごとに示すかたちになっています。

 下は、1985年4月18日付の朝刊スポーツ面(東京本社)から。阪神ファンにとっては「神話」といってもいい、バース、掛布、岡田のいわゆる「バックスクリーン3連発」(同17日、甲子園)を伝えた紙面ですが、ご覧のようにこの年は個人成績の本塁打数には黒丸数字は使われておらず、すべてふつうの丸数字でした。

 

拡大1985年4月18日付

 

 

■キヨハラと始まった

 

 その日に本塁打を打った選手に黒丸数字を使うようになったのは、翌1986年から。われわれ中年プロ野球ファンなら忘れもしない、あのKKコンビ=桑田(巨人)と清原(当時西武)がプロ入りした年です。

 下の紙面は1986年4月6日付。西武の新人清原が南海・藤本からプロ初本塁打を記録した試合(同5日、西武球場)を報じたものです。個人成績の清原のところに黒丸数字で「1」とあるのが見えるでしょうか。

 

拡大1986年4月6日付

 

 「野球にはさほど詳しくないけど、これは懐かしいね。本塁打の丸数字って、このころ始まったのか」
 「新聞のコンピューター編集が軌道に乗ってきて、紙面もいろいろ拡充していたんでしょうね」
 「ふつうの白い丸数字は他のところでもしょっちゅう使うけど、黒丸数字が決まって使われるのはこれくらいかな?」
 「定型のものとしては、プロ野球が代表的でしょうね」
 「そういえば、囲碁の棋譜は? あれって盤面図の上に、数字の入った黒丸と白丸が並ぶでしょ」
 「確かにそうですね。ただ、あれは専用のソフトウエアで作ったものを画像として取り込んでいるので、新聞製作システムのフォントとは別なんです」
 「じゃあ、うちのシステムでは丸数字とか黒丸数字って、いくつまで用意してあるの?」

 朝日新聞の新聞製作システムには、ふつうの丸数字も黒丸数字も、それぞれ0から100まで搭載されています。しかし数年前までは、黒丸数字のほうは69までしか常備していませんでした。

 「その69って、どういう線引きだったんだろう」
 「理由はよく分からないんですが、日本のプロ野球ではどんなに打っても60本台ってことでしょうか」
 「シーズン55本が過去最高だからねえ」
 「でも今は黒丸数字も100まで用意してますから、ひいきチームの選手には遠慮なく打ってほしいですね」

 

■100を超えたら

 

 「ところで丸数字のゼロって、一般にはあまり見かけないよね。紙面ではどんなときに使うんだっけ?」
 「そんなこと言ったらスポーツ面校閲の担当者に怒られますよ。典型的なのは『勝ち点』の表記です」
 「あっそうか」

 

 この季節でいえばアイスホッケーのアジアリーグが開催されており、試合結果には丸数字で各チームの勝ち点が示されています。勝ち点がゼロであれば、丸数字のゼロが使われます。

 
 ちなみに今季のアジアリーグは、既にレギュラーシーズン1位通過を決めた王子が2月17日時点で勝ち点87。残り5試合あるので、勝ち点が100を超す可能性があります。

 

 「勝ち点が100を超えたら、紙面で使う丸数字はどうするの?」
 「そういう場合はそのつど作字ですね。丸数字は勝ち点以外にも、大会の順位とか競馬の枠番・馬番などに使われますが、たとえば日本選手の順位だけピックアップするようなときは、100を超える丸数字が要ることがあります」

 下に掲げたのは、昨年5月の全日本選抜柔道体重別選手権の男子の記録ですが、各選手の世界ランキングが丸数字で表されています。73キロ級で世界ランク「159位」の選手が登場していますが、これも作字でした。

 

 

 「159位で準決勝進出ってすごいね。しかし3けたの数字を丸の中に入れると、やっぱりちょっと窮屈だ」
 「百の位が1のうちはまだしも、『丸283』みたいなのはきっと見づらいでしょう」
 「ところで、ふつうのパソコンとかでは丸数字はどうなってるんだっけ?」

 

 そのあたりは、次回に。

 

(比留間直和)