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丸数字考 ②

比留間 直和

 コンピューターにおける丸数字といえば、昔から「機種依存文字」として知られています。

 

 「だから電子メールで使っちゃダメってうるさく言われたよね。機種によっては化けるからって聞いたけど、もし使うとどうなるんだっけ?」
 「WindowsとMacの違いによるものですが、こんなふうになります」

 

 例えばの話。所用で里帰りした妻が、実家のWindowsマシンから夫にメールを出したとします。ふだんものぐさな夫に、自分の留守中に忘れずにしてほしいことを伝えようと考え、こんな文面にしました。

 留守中おねがいします。
 ①花の水やり
 ②ごみ出し
 ③お風呂そうじ

 「……こんなの妻が出かけようが出かけまいが、うちじゃ僕の仕事だよ。この夫はけしからんな。君のことか?」
 「いやいや、まあ例え話ですからとりあえず聞いててくださいよ」

 

■それ、日曜だけ?

 

 夫は長年Windowsユーザーでしたが、最近、気分を変えてMacに買い替えたところでした。その画面には、妻からのメールがこんなふうに表示されていました。

 

 ふむふむ、日曜に花に水をやって月曜にごみを出せばいいのか……夫がその指示を忠実に実行したところ、数日後に帰ってきた妻が開口一番、「なにやってんのよ、お花がしおれてるじゃない!」。

 

 「そりゃあこの夫が悪いよ。だいたい風呂そうじだって火曜だけでいいはずがない」
 「そこですか。とにかく例え話ですから」
 「要するに、こんなふうに丸数字がかっこ付きの曜日に化けちゃうってわけだね」
 「ええ。WindowsのシフトJISで丸数字になっているところに、Macだと(日)、(月)、(火)……という記号が割り当てられているためです」

 

 Unicodeが使われるようになるまでは、パソコンの文字コードといえばシフトJISでした。いわゆる半角英数字と半角カナ、JIS第1・第2水準に加え、メーカー独自の文字(機種依存文字)が盛り込まれており、丸数字もその中にあります。

 機種依存文字として入っている丸数字のコードが、どのメーカーも同じ割り当て方になっていたら、それがそのまま「事実上の標準」となって、文字化けの心配もなかったかもしれません。

 しかしそうはなりませんでした。WindowsのシフトJISで「丸1~丸20」が割り当てられている「8740~8753」というコードには、Macではかっこ付きの漢字が割り当てられており、(日)~(土)の曜日のあとは (祭)、(祝)、(自)、(至)、(代)、(呼)、(株)、(資)、(名)、(有)、(学)、(財)、(社)と続きます。一方、MacのシフトJISにも丸1~丸20は入っていますが、Windowsでは文字が割り当てられていない領域です。

 現在ではOSの内部処理にはUnicodeが使われており、パソコン間のやりとりもUnicodeで行えばこの種の文字化けは起こりません。Unicodeで「2460」といえば、どの国でもどのマシンでも「丸数字の1」です。しかしシフトJISなどの旧来の文字コードは今なお多くの場面で使われており、「シフトJIS ←→ Unicode」などの対応表がOSによって異なるため、①が(日)に化けるような不幸な事態が生じるのです。

 

 「全く別の意味の記号になるってのは困るなあ」
 「夫婦げんか程度ならともかく、仕事の大事な連絡で誤解があるとまずいですよね」
 「機種依存文字って、ほかにもいろいろあるんだよね」
 「シフトJISに含まれる記号類でいうと、以前とりあげたローマ数字のほか、『㍍』などの合成字もそうです」
 「そのへんも注意が必要というわけだ」
 「Mac上でもメールソフトによって振る舞いが違ったりしますが、ともかくWindowsユーザーもMacユーザーも、こうしたことが起こりうるということを覚えておいたほうがいいですね」

 

■「丸50」まで入りました

 

 そもそも丸数字が機種依存文字なのは、これがJIS第1・第2水準(JIS X0208)に含まれていないということが出発点です。X0208は1978年に制定され、その後83年と90年の改正では文字の追加もありましたが、丸数字は最新の2012年版に至るまで、一貫して収録されていません。

 丸数字を含む丸囲み文字については、1983年のJIS改正の際に「合成用丸」という文字が追加されました。83年版のJIS規格票の「解説」には、

   合成可能な特殊文字については、原則として合成により行うこととし、本JISには追加しない。
   なお、丸付き合成文字用として合成用丸(◯)を追加する。

 と記されています。90年版でも記述に変更はありませんでした。

 しかし、この規格が意図したような丸囲み文字の合成は実際には行われず、機種依存文字として搭載された合成済みの丸数字などが広く使われるようになりました。結局、1997年の改正で「合成用丸」という名称は「大きな丸」に変更され、合成には用いないことが明記されました。

 

 「そのつど合成するってのがタテマエだったわけか。この『合成用丸』、じゃなくて今は『大きな丸』? それってどのパソコンにも載ってるの?」
 「もちろんです。名前や位置づけを変えたといっても、JISから削るわけにはいきませんから。ふつうの白丸(◯)や漢数字ゼロ(〇)とまぎらわしいですが」
 「で、JISはタテマエをやめてどうなった?」
 「97年版の規格票の解説には、『実務に必要である丸付き数字などに対応するためには、この規格を将来拡張することが必要になるであろう』という“予告”が記されました」
 「でもこの規格には今も丸数字はないんだよね」
 「X0208という規格はそのままですが、別の規格で実現されました」

 

 2000年制定のJIS X0213(第1~第4水準)がそれです。X0208を拡張した規格であるX0213の非漢字領域には、丸数字の1~50、黒丸数字の1~20、さらに二重丸数字の1~10が収録されました。そのうち丸1~丸20は、市場で優勢な製品であるWindowsの機種依存文字に配慮し、それと同じコードが割り当てられました。

 

 「丸数字が50までになったのは?」
 「50まででなければならない絶対的な理由はもちろん無いんですが、当時の総務庁から公文書に必要な範囲としてそういう要望があったんです」
 「あと二重丸数字って、それほど見かけない気がするけど。新聞でもふつう使わないよね」
 「確かにうちの新聞製作システムにも常備されていませんね。これは歯科用記号として1~8が必要という要望があったもので、歯科以外の用途も考えて10まで収録されました」

 

 こうして丸数字は50までJIS X0213に入り、今ではパソコンの仮名漢字変換ソフトでも比較的容易に50までの丸数字が出せるようになっています(上の図はWindows8のMicrosoft IME 2012による変換例)。

 しかし丸数字には、今回取り上げた「WindowsとMacの違い」とはまた別のややこしさがつきまとっています。次回はその話を。

(比留間直和)