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観字紀行

化け猫から被災猫まで~猫を求めて福島へ(1)

加藤 順子

拡大み、見つめられると緊張します…。
 友人が猫を飼い始めました。猫じゃらしに夢中になったり、窓ガラスに映る自分の姿に戦いを挑んだり、かわいくてしかたがありません。昔からネズミをとる動物として、人間とのかかわりが深い猫。そのためか、各地に「猫」とついた地名があるようです。どんな「猫」がいるのか、今回は福島県を訪ねました。


拡大今回訪ねた場所
 1月半ば、新調したスノーブーツで東北新幹線の郡山駅に降り立ちました。頰に当たる風は冷たいですが、駅前のロータリーには雪もなく、覚悟していたのにちょっと拍子抜け。リゾート会社が運行するバスに乗り込み、目指すは40キロほど北西にそびえる「猫魔ケ岳」(1404メートル)という山です。字だけ見ると、ちょっとまがまがしい感じもしますが、どんな猫がいるのでしょうか?


拡大目が覚めると周りが雪国に!

 バスに揺られること約2時間。ちょっとうとうとしていて目をさますと、辺り一面銀世界が広がっています。


拡大軒先に赤い猫が住んでいます
 着いたのは「星野リゾート裏磐梯猫魔スキー場」(北塩原村)です。足元の雪はまるで片栗粉を踏みしめているかのように、一歩踏み出すごとに「きゅっきゅっ」と音を立てます。レストハウスの屋根の下には「NEKOMA」の文字と猫のマークがあります。さっそく猫発見です。


拡大中央上側が猫魔ケ岳(星野リゾート提供)
 ここ猫魔ケ岳は磐梯山(1816メートル)の西側にある山で、昔、化け猫が人々を襲ったという伝説と、食料をネズミに食い荒らされた僧侶が、猫王をまつってネズミを追い払ったという伝説が残っています。峠越えで無理をしないように、昔の人が山道の険しさを教えるための教訓に残したのかもしれません。


 猫魔スキー場は磐梯山の裏磐梯と呼ばれる地域にあります。2008年に当時の運営会社の経営が厳しくなり、各地で観光施設の再生を手がける星野リゾート(長野県軽井沢町)が引き継ぎました。現在は、東側にあたる表磐梯にある「アルツ磐梯スキー場」や、周辺のホテルとともに一体運営されています。

 「裏」磐梯なんて、日本海側を裏日本と表現するみたいで、地元の人に失礼ではないかと、ちょっと抵抗があったのですが、猫魔スキー場の広報を担当している藤森博教さんによると、スキー場をはじめ磐梯山の噴火でできた「五色沼」や「桧原湖」など雄大な自然を楽しむことができる地域なので、地元の人は名前に誇りを持っているとか。

拡大ゲレンデから猫魔ケ岳を望む(星野リゾート提供)
 藤森さんは軽井沢の出身ですが、同じ雪国とは言っても雪質のちがいがあり、「なんといっても猫魔の魅力はパウダースノー」と教えてくれました。裏磐梯の雪は、湿った雪が表磐梯などに降ったあとの雲から降るのか、さらさらした雪です。さらに気温が高くならないので、雪がとけにくく、本州としては珍しく毎年5月のゴールデンウイーク(今年は5月6日)まで営業できるそうです。


 藤森さんにスキー場を案内してもらっていると、人の滑っていないゲレンデがあることに気付きました。「どうして誰もいないのですか?」と聞くと「あえて閉鎖しています」との答えが返ってきました。ふつう、スキー場では、毎日営業が終わったあとに雪が足りなければ人工降雪機を使い、さらに圧雪機で雪面を整えるのが一般的です。しかし近年、利用者に「さらさらの雪を思う存分楽しみたい」という声があり、平日の2日間、一部のコースを閉めて、パウダースノーを「貯金」。週末に軟らかい雪面を楽しんでもらおうという趣向です。スキー場のコースを外れることなく、自然に近い軟らかな雪面で滑れるとあって、県内外から多くの利用者が訪れます。

拡大猫だけじゃなく人もまっしぐらなクラシック猫まんま
 さて、体を動かしたスキーヤーやスノーボーダーにとって、重要なのは食事です。藤森さんによると「高くてまずい」というスキー場の食事のイメージを払拭するためさまざまな工夫をこらしているとのこと。「クラシック猫まんま」と「裏磐梯カレー」をいただきました。2匹目の猫を発見です。猫まんまはその名の通り、かつおぶしやシラスなど、ごはんが進む食材がたくさんのったどんぶりご飯。豪快にかきこんで食べると、「猫魔」に来たと実感できる一品です。


拡大裏磐梯カレー。白い磐梯山のふもとにカレーの湖が広がる
 さらに、じっくり煮込んだカレーは、白飯を磐梯山の形の型に入れて、カレーを湖に見立てています。カレーを口に入れると、最初は甘いのに、じわじわとスパイスがきいてきて、体がぽかぽかしてきました。雪山で冷えた体をあたためるのに、ぴったりでした。表磐梯のアルツ磐梯スキー場では、白飯の山の形が反対になり、「表磐梯カレー」になっているそうで、ぜひ両方に行って確認してみたいものです。ほかにもソースではなく塩ダレで食べる特製の「塩カツ丼」などもあります。

 スキー人口の減少に悩む業界に、最近明るい兆しが見えてきました。1987年公開の映画「私をスキーに連れてって」の時代にスキーを楽しんでいた「『わたスキ』世代」がファミリーになって、ゲレンデに戻りつつあります。星野リゾートでは、家族連れを呼び込もうとソリで遊べるコースを拡充させるなどして努力しています。

拡大真ん丸お目々のnekomaniaTシャツ
 さて、ほかにも「猫」はいないか探し回っていると、土産店で「nekomania」Tシャツを見つけました。アルファベットの「o」と「a」が猫の目になっていて、なかなかかわいいデザインです。でも、これだけではちょっと寂しいので、スキー場の長谷川誠支配人に「ほかに猫はいませんか?」とたずねたところ、「幻の猫」を呼んできてくれました。 


拡大ミクロ(左)とファイン(中)は大人気
 猫魔スキー場は雪がとても細かく、「ミクロファインパウダー」と表現していることから、命名された2匹の猫「ミクロ」と「ファイン」です。実は「大人の事情」で今はなかなか現れないので、化け猫伝説の正体はこの2匹だったのかもしれません。突然の登場にスキーヤーも大喜びで、記念写真を求める人でにぎわいました。


 猫魔ケ岳のふもとには「猫石」というトレッキングの名所もありますが、取材に行ったのは1月でとても歩いていけるような時期ではありません。今度は夏の時期に白ではなく、緑の山を楽しみたいなと思いながら、スキー場を後にしました。

拡大磐椅神社の拝殿
 次は猫魔ケ岳を下り、猪苗代町の磐椅(いわはし)神社に向かいます。磐梯山の古名「磐椅山」を名前に持つこの神社は、会津地方の土着信仰に基づいて磐梯山をご神体とし、1200年以上の歴史があります。花が白からピンク、そして鹿のようなベージュ色に変化していく「大鹿桜」や樹齢800年とも言われるスギの木の幹から生えているヤマザクラの「縁結び桜」などが人気で、近年は縁結びの神様として有名になっています。


 世界中の猫にまつわるさまざま話をあつめた動物文学者・平岩米吉氏の「猫の歴史と奇話」(築地書館)によると、江戸時代、磐椅神社では猫が描かれた魔よけの札を参拝者に授けていた記録があります。明治の前には廃れたとされていますが、化け猫がまつられた跡がないかと探してみました。

拡大土津神社の白い鳥居が、雪に囲まれ一層白く見えます
 しかし、いまは境内にも猫に由来のありそうな物はありません。磐梯山というご神体が大きすぎて、猫は残らなかったのかなあ……とちょっぴりさみしくなりました。でも、周辺には、会津藩祖・保科正之をまつった土津(はにつ)神社の珍しい白い鳥居などもあり、雪の中の散策を楽しみました。


拡大ウサギのつるし雛を作る佐藤光枝さん
 JR猪苗代駅で電車を待つ間に駅前の土産店をのぞいてみると、民芸品作りの講師をしている佐藤光枝さんがつるし雛(ひな)作りの真っ最中でした。猫はいませんでしたが、小さなウサギがたくさん並んでいる様子に寒さを忘れて見入ってしまいました。




 次回は福島県石川町へ。和泉式部ゆかりの地で、猫と歌をめぐります。

(加藤順子)

(次回は3月28日に掲載予定です)