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観字紀行

化け猫から被災猫まで~猫を求めて福島へ(3)

加藤 順子

拡大モフモフ~
 前回、猫啼(ねこなき)温泉で本物の猫に会えなかったので、猫を求める旅はまだまだ続きます。


拡大M78星雲への直行便が出来れば、帰省が楽になるのになぁ……
 リムジンバスに乗るために福島空港に立ち寄ると、入り口には仁王立ちのウルトラマンがいるではありませんか。空港のある須賀川市は円谷プロの初代社長で「特撮の神様」と呼ばれた故円谷英二氏の出身地。その縁で、空港はウルトラマンにまつわるキャラクターでいっぱい。


拡大危ないピグモン!レッドキングのしっぽが!!
 バスの待ち時間に空港内をまわってみると、出発ロビーの手すりの下のガラス窓にピグモンのイラストを見つけました。どことなく猫に見えるのは、私の頭の中が猫でいっぱいだからかもしれません。


拡大今回訪ねた場所

 バスを乗り継いで、白虎隊で有名な会津若松市へも行ってみました。ネコ科の虎つながりで猫もいるのではないかと思ったのです。


拡大会津若松駅前の赤べこ。あいにくウシ科です
 JR会津若松駅前では、巨大な赤ベコが出迎えてくれました。会津地方の郷土玩具で、ゆらゆら首を振る真っ赤な牛です。残念ながらネコではありません。


拡大神獣白虎の絵。たぶんネコ科ですが、生き物ではありません
 地下通路の入り口には「白虎図」が飾ってありました。中国では古くから、白虎は西方を守る神獣で、戊辰戦争で命を落とした白虎隊はここから名付けられました。


拡大白虎隊士酒井峰治と愛犬クマの再会像。ヒト科とイヌ科です
 彼らが自刃した飯盛山(372メートル)の中腹にある墓地まで登ってみました。その途中に隊士と愛犬が感動的な再会をしている場面を再現した像はあるものの、愛猫家の隊士は見つけられませんでした。


拡大ん?お客さんかね?
 散々さがしまわった結果、やっと「本物の猫」がいるところを見つけました。郡山市の東隣、三春町です。国指定の天然記念物で、花の咲いた姿が流れ落ちる滝のように見える「滝桜」で有名な町です。郡山駅から路線バスで30分ほどのところに、一般社団法人動物救護隊「にゃんだーガード」のペットシェルターがありました。東日本大震災と東京電力福島第一原発の事故で、平穏な暮らしを奪われたペットを保護している施設です。


拡大あっ、知らない人が来た!警戒警戒!!
 ビジネスホテルだった建物をシェルターに改装し、約100匹の猫が暮らしています。原発事故で、住民と一緒に避難できなかった猫と、その子猫たちです。被災地に入った飼い主やボランティアに保護され、シェルターにやってきました。食料もすみかもない環境から、暖かく安全な場所へ。清潔な寝床とエサと水があり、猫はみな、穏やかな表情をしていました。ここではボランティアが、保護した猫を世話しています。


拡大代表理事の本多明さん
 にゃんだーガードの代表理事・本多明さんは、もともと名古屋で猫の保護活動をしていました。2011年3月末、「原発事故で避難した人たちが飼っていたペットを助けたい」と福島にやってきました。警戒区域に入ってエサや水を置いたり、取り残された猫を保護したりする活動をしてきました。
 人間が避難したあとの町に初めて入った時は、やせほそった牛が道路を歩いていたり、つながれたままの犬が息絶えていたりと、悲惨な光景が広がっていたそうです。


拡大過酷な状況を乗り越えて、穏やかな表情を見せるトトちゃん
 シェルターで過ごしている一匹「トト」は、原発から20キロ圏内の、富岡町の女性宅で飼われていました。女性は避難する際に猫を連れていくことができず、心を痛めていました。
 震災から2カ月半後の11年5月下旬以降は、月に一度、一時帰宅が許されるようになりました。女性は本多さんらボランティアとともに自宅近くを探し、震災から2年9カ月たった昨年12月にやっとトトと再会することができました。
 家の近くに定期的にエサを置き、あきらめなかった女性は、次は猫と一緒に住める家に移れることを心待ちにしています。本多さんらはいまも定期的に旧警戒区域に通い、猫の保護活動をしています。


拡大こたつに猫は付き物です
 元は客室だった6畳ほどの部屋に入りました。こたつの上に猫がたくさん。見慣れない筆者を見て、ちょっと目をあけるものの、眠気に勝てずまたうとうとしてしまう猫ばかり。しかし、警戒心の強い猫は、壁一面にはりめぐらされたキャットウオークの上から、「だれだ?」と言いたそうな様子で見ています。


拡大あっ!お客さんだ!遊んで遊んで~
 別の部屋には生後3カ月ほどの子猫がいます。子猫は好奇心の塊で、物おじせずに、人間の近くに集まってきます。妊娠中に保護した猫が産んだ子猫です。飼い主が見つかるまでここで暮らします。ここは天国か……と思うほど、存分になでさせてもらいました。


 本多さんによると、飼われていた動物が警戒区域などで繁殖することで、人がいなくなった住宅を汚したりするという問題もあるそうです。ただ「もとは人間が飼っていた命だから、人間が責任をもたないといけない」という思いで、活動を続けています。

拡大室内でくつろぐ猫たち
 猫が好きだという軽い気持ちで始めた取材ですが、「かわいい」だけでは済まされない現実に、目がさめる気持ちがしました。原発事故で、安全な暮らしを奪われたのは、人間だけではありません。暖かい場所でのんびり寝ている猫たちの日常こそが大切なんだと、改めて感じました。


 猫を求めて巡った福島県。スキー場や温泉地には、地元の人が「事故前と変わらない」という生活がありました。それでも「来てくださるお客さんが不安に思ってはいけない」と放射線量の値を気にすることが日課になったという人もいました。そんな人の姿や新しい家族を待っている保護猫を通して、震災から3年が経って被災地のことを忘れがちだった自分に気付きました。これからも被災地の姿を、自分ができる形で伝え続けていきたいと思います。

(加藤順子)

=おわり