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文字

観字紀行

題字のふるさとを訪ねて(1)

山室 英恵

元の文字は欧陽詢

拡大今回訪ねた場所
 筆者は、朝日新聞の校閲センターで、フォント部門の仕事をしています。フォント部門は、紙面で使う文字を作ったり、管理したりするところです。昔は鉛で活字を作っていましたが、今はパソコンを使って文字の輪郭を描き、全体の形やバランスを見ながら、一文字ずつ作っています。
 朝日新聞の紙面では見出し用の文字と本文用の文字でデザインが異なり、さらに明朝体とゴシック体を使い分けられるようにしています。必要な時にいつでも紙面で使えるようにするために、漢字一文字につき18種類をデザインします。その際には、新たに作った文字が他の文字と異なる雰囲気にならないかや、小さく印刷されても文字が潰れて見づらくならないか、といったことに気を付けています。

拡大日付と天気予報の右にあるのが題字です
 朝日新聞の文字で一番目立つものと言えばやはり「題字」です。題字は1面の右上に縦に大きく「朝日新聞」と書いてあります。本で言えば表紙のタイトル、お店で言えば看板に当たります。


 この「題字」に興味を持った筆者は先日、ことばマガジンの別コーナー「ことば談話室」で題字の変遷について書きました。題字を作るにあたって、基にした文字があります。「朝」「日」「新」「聞」の文字は、中国・初唐の三大家の一人といわれる欧陽詢(おうよう・じゅん、557~641)の「大唐宗聖観記」の碑文(626年)から集めて作ったと言われています。今回はその字を探し、実際に見に行こうと思います。


山梨へ見に行こう

 それではさっそく、碑文を見に中国へ出発!……と言いたいところですが、費用も時間もかかる中国までは行けません。そんな筆者に強い味方が。山梨県市川三郷町にある大門碑林公園に、大唐宗聖観記碑の複製があると聞きました。大門碑林公園は、書道のお手本になる字体を見られるように、複製した碑を集めた公園です。和紙の産地である市川大門町(現在は市川三郷町)が、産業の発展と和紙を使う書道の振興を目指し、1994年に開設しました。
 園内には、中国・陝西省の西安碑林と山東省の曲阜碑林にある石碑の中から復元した、後漢から唐代の15基が展示されています。書の至宝を見ることができる公園は、書道に取り組んでいる人には特に興味深い場所と言えるでしょう。

拡大市川大門駅の駅舎
 東京・新宿から電車を乗り継ぐこと約2時間で、大門碑林公園の最寄り駅の一つであるJR身延線の市川大門駅に到着しました。中国風の駅舎に降り立ち、碑林公園への期待が高まります。


 駅の周りを少し歩いてみると、製紙工場が何軒かありました。もう少し歩くと、機械を動かしているような音も聞こえてきました。

拡大楼門をくぐって、いざ大門碑林公園へ
 碑林公園へは駅からタクシーで5分ほど。タクシーで坂道を上っていくと、また中国風の建物が見えました。これが大門碑林公園です。
 タクシーを降りてからも少しきつめの坂を上り、正面入り口で入園料を払って中へ入ります。目指す大唐宗聖観記碑は小高い丘の上にあります。


楷書のお手本を鑑賞

 園内を進むと、道の左右に壁に埋め込まれたたくさんの石碑が現れました。碑を使って実際に拓本を体験出来るコーナーです。筆者は拓本を取った経験がないので興味をそそられますが、大唐宗聖観記碑を見てからゆっくり体験したいと思います。

拡大九成宮醴泉銘碑
 急な階段を上ると、欧陽詢の楷書の名品、九成宮醴泉銘(きゅうせいきゅうれいせんめい)碑(632年)がありました。唐の太宗皇帝が、現在の陝西省にある九成宮という離宮へ避暑に行った折、敷地内に湧き水を見つけたことを記念して建てられたものです。表面を保護するためアクリル板に覆われており少し見にくいですが、石碑に刻まれている文字はおよそ3センチ四方です。

 

 この碑は楷書のお手本として有名です。書道を習い始めた筆者も楷書を学ぶために一部を真似て練習したことがあります。練習の際に見た写真ではもっと大きな文字に感じましたが、2メートル以上ある石碑に彫られているのを実際に見ると、思ったよりも文字が小さく見えて不思議な感じがしました。

 目指す大唐宗聖観記碑は、さらにいくつか階段を上った先です。次回こそは碑にたどり着きたいと思います。

(山室英恵)