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観字紀行

まぎらわしい地名を歩く~番外編

◇「四つ橋線の四ツ橋駅」

 注意深い人なら一度はあれっと思ったことのありそうなこの駅から、今回は歩き始めます。
 

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 大阪市営地下鉄、四つ橋線の四ツ橋駅。

 同じ「よつばし」なのになぜ書き分けられているのだろうか、という疑問を誰しも持ちますよね。
 大阪市交通局に尋ねてみたところ、「路線名は真上を走る四つ橋筋の名称から『四つ橋線』、駅名は1908(明治41)年に同地域での市電が開通した際の駅の名称であり、現在の駅所在地の交差点名である四ツ橋に由来して『四ツ橋停留場』としています」という回答をいただきました。
 

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 違いがあるのは、地下鉄だけではなかった!

 というわけで、駅から交差点に向かってみます。あたりはオフィスビルが立ち並び、時々飲食店やおしゃれなインテリアショップがあったりします。
 ほどなく目的地に到着。ほんとうに、筋は「四つ橋」、交差点は「四ツ橋」。四つ橋筋は北行き一方通行4車線の大通り、それに交わる長堀通もこれまた大通りで、四ツ橋はかなり交通量の多い交差点です。

 そもそもこの「よつばし」という地名、大阪市のホームページによると、埋め立てられた長堀川と西横堀川の交差する場所に四つの橋が架けられていたことに由来するといいます。「四つ」の「つ」は古くはひらがなでもカタカナでもよかった、というのは想像に難くありません。
 ちなみにこの四つ橋筋を北上すると朝日新聞の大阪本社があります。

◇吹田市の「岸部」にある、JR岸辺駅

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 次に、JR大阪駅から普通電車で10分ほどの岸辺駅に来てみました。

拡大駅の南口を出たところにある表示板
 この駅の所在地は「大阪府吹田市岸部南1丁目」。駅名とは「べ」の字が違うのです。

 例によってJR西日本に「なぜ表記が違うのですか」と尋ねてみたところ、なんと「よくわからない」という回答をいただいてしまったので、不安を抱えながらの散策開始です。
 とりあえず駅の写真を撮ろうと、南北に長い自由通路を通って北側へ出たところ、小さな案内看板を発見。「吹田市立博物館」の案内でした。案内図に、「吉志部神社」の文字が見えます。なんと「岸辺」「岸部」に次ぐ三つめの「きしべ」登場です。これは行ってみるしかありません。博物館まで「徒歩20分」とあるのが、やや不安ですが……。
 徒歩20分におびえながら歩き始めましたが、大通りをひたすら歩いていくと、曲がり角には案内の看板もあり、住宅街へ。かなり手前から灯籠(とうろう)や鳥居があり、迷わずに到着できました。

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 吉志部神社はもとは大神宮といい、創建時期ははっきりしないものの、平安時代にはすでにあったとみられます。神仏分離令に伴い明治3(1870)年に吉志部神社という名になったそうです。さて、なぜこの表記なのでしょう。社務所でお話をうかがったところ、詳しくはお隣の吹田市立博物館で聞いてみるとよいのではとアドバイスされ、博物館へ向かいました。
 この一帯は紫金山公園となっています。中には吉志部瓦窯(がよう)跡や吉志部古墳などもあり、歴史を感じさせます。 博物館の展示にも瓦生産に関するコーナーがあり、近年に至るまで地域の特産であったことがうかがわれました。

拡大右のほうに「岸部東村」の文字が見えます
 さて、「岸部」と「吉志部」の表記について、博物館で教えてもらいました。
 地名の由来については、4~5世紀に難波吉士(なにわのきし)という一族の部民(べのたみ)が住んでいたため、「きしべ」と呼ばれるようになったという説が有力だそうです。このようないきさつから考えれば、表記としては「吉志部」が古そうではありますが、吉志部神社の参道にある、天保2(1831)年に建てられた灯籠には「岸部東村」とあり、江戸時代にはすでに今と同じ表記もされていたことがわかります。

 なるほど、素人目にも「吉志部」のほうが古そうだとは思いましたが、ここまで歴史のある地名だったとは。結局なぜJRの駅は「岸辺」なのかはわからないものの、7千年ほど前に縄文海進という海面上昇があったころにはこのあたりまで海だったのですよ、とも教えてもらいました。市内には当時波で浸食された崖が残っているところもあるそうで、まさかと思うけれども海の「岸辺」と関係があったりして、などと想像するのも面白いものです。

 日頃疑問に思っていた、表記のまぎらわしい地名をこの機会にと歩いてみて、それぞれの土地に歴史があり、いずれの表記にもそれ相応の理由がある、ということを知ることができました。これでもう、今回歩いた地名については表記で悩まされることはないでしょう。表記のまぎらわしい場所をすべて歩くわけにもいきませんが、校閲記者としていい修業になりました。今後とも、精進していきたいと思います。

(竹下円)

※「観字紀行」は今回で終了いたします。ご愛読ありがとうございました。