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漢字んな話

【機】 ものの働きと心の働きと

ご隠居 熊、どうしたんだい不機嫌な顔して。お天道さんが逃げ出しちまうよ。
熊 咲が、お父ちゃん「ごきげん」ってどう書くか知ってるって聞くもんで、そりゃ「ご気嫌」だろって……。
ご隠居 ありゃりゃ、やっちゃったねえ。
熊 そしたら咲のやつ腹抱えて笑いやがって。知ってて聞いてくるんだから。まったく憎たらしいったらねえよ。
ご隠居 そんなことで腹たててるのかい、大人げない。
熊 大体いい心持ちのことを「ごきげん」っていうんだろ。だったら「ご気嫌」でいいじゃねえか。「ご機嫌」じゃ理屈が通らねえや。
ご隠居 「気を嫌う」ってのも筋が通らないと思うがね。機 説文
機 説文
熊 「機」は機織りとか機械なんて時に使うもんだろ。
ご隠居 そうだね。もともと矢を飛ばすバネ仕掛けを指した字だからね。
熊 ほら、やっぱりな。
ご隠居 だから機能、機動は働きとか仕掛けが動く、機会、契機はものが動くきっかけ、ってな具合だな。
熊 そういう字と機嫌はなじまねえんじゃねえかな。
ご隠居 これはもともと仏教用語で、譏嫌(きげん)って書いてたようだよ。譏は「そしる、とがめる」って意味で、譏嫌は文字通り「世の中の人がそしりきらうこと」なんだな。
熊 今とはだいぶ使い方が違うんだな。でもなんで機を使うようになったんだい。
ご隠居 そこんとこはよく分からないんだ。「きげん」が心持ちなんて意味になったころに、機も「心の働き」を表すようになったのかねえ。
熊 何ともすっきりしねえ話だな。これじゃいま一つご機嫌になれねえや。
ご隠居 漢字の話にはすっきりしない部分もあるよ。団子でも食べて一息いれなよ。
熊 ご隠居、これ賞味機嫌(期限)切れだよ。

(文=前田安正、イラスト=わけ みずえ)

 

 2008年3月8日の記事を基に再構成しました。この記事は2015年9月11日まで掲載します。

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熊(くま)
(くま)
咲(さき)
(さき)。熊の娘
ご隠居
ご隠居。咲の名付け親

「漢字んな話」は朝日新聞夕刊(一部地域)で2007年4月~2011年3月に連載していたコーナーです。2年分の連載をまとめた「漢字んな話」(四六判224ページ、税込み1575円)が三省堂から発売中!