メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

漢字んな話

【然】 しっぽだって役目はある

ご隠居 お咲ちゃん、そんな大きなカバン担いでて、よく平気だね。重くないかい。然 金文
然 金文
咲 ゼッゼ平気だよ。ご隠居さまと鍛え方が違うから。
ご隠居 ゼッゼ?
咲 やだな、全然の強調形だよ。力を入れて言うとゼッゼになるでしょ。
ご隠居 そりゃ、ゼッゼ知らなかった。
咲 あ、そういえば「全然平気」っていう使い方は間違ってるって、ほんと?
ご隠居 全然の後は、否定的表現にっていうんだろ。
咲 でもよく使うよねえ。
ご隠居 そうだね。辞書を見ると、全然は「余すところがないさま」なんて意味で、もともと肯定的にも否定的にも使ってたようだよ。
咲 へえ、そうなんだ。然 説文
然 説文
ご隠居 「全然駄目だ」なんて否定的な表現と強く結びつくようになったのは、大正時代の終わりかららしいよ。
咲 じゃ、あまり気にしなくてもいいのか。それにしても、全然の「然」ってなくても意味は分かるよね。
ご隠居 お、鋭い。必然、同然、雑然、決然なんてのも同じだよね。
咲 然って、なくても平気なトカゲのしっぽみたい。
ご隠居 そりゃ面白い。然は元々「(火が)もえる」って意味でね。それが他の字について「……するさま」っていう、様子や状態を表す役目を持つようになったんだな。
咲 えーと、必然は「必ずそうなるさま」、同然は「同じであるさま」みたいに?
ご隠居 そうそう。こういうのを接尾語っていうんだ。だから、しっぽっていうのはなかなかうまい表現だよ。
咲 然はおしりについて目立たないけど、言葉の世界を広げる魔法の文字だね。
ご隠居 お咲ちゃん、きれいにまとめたねえ。魔法(ま、ほー)んと、うまいことおっしゃる。

(文=前田安正、イラスト=わけ みずえ)

 

漢字んな話3刷 2008年3月29日の記事を基に再構成しました。この記事は2015年9月25日まで掲載します。

 「漢字んな話」が第3刷になりました。「漢字んな話2」も好評発売中です。

熊(くま)
(くま)
咲(さき)
(さき)。熊の娘
ご隠居
ご隠居。咲の名付け親

「漢字んな話」は朝日新聞夕刊(一部地域)で2007年4月~2011年3月に連載していたコーナーです。2年分の連載をまとめた「漢字んな話」(四六判224ページ、税込み1575円)が三省堂から発売中!