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昔の新聞点検隊

拡大1927(昭和2)年7月20日付東京朝日夕刊2面。クリックすると大きくなります
【当時の記事】

日本語がわかる『へう』
坊ちゃんのお相手に日比谷へ

十九日、日比谷公園にねこより少し大きい位の可愛らしいへうがついた、年齢一年二ヶ月、ハドソン河岸で、同地方の土人の手で捕へられたもので、当時はまだほんの赤ン坊で眼さへ明いてゐませんでした

名をジングルと称し、土人の手から米人の手に移り更に正金銀行横浜支店長の梶原さんが南米にゐる頃もらひ受け、愛撫して育てあげたものだ

環境が性格を造るといふいい例証をこのへうは示して、少しも猛獣らしい所がなく、それに生意気に日本語をよく解し、おとなしくをりの中で遊んでゐます、到着した十九日はまだおどおどしてゐるが、やがてみなさんと仲良くなるでせう

日比谷公園の市川さんは

「このへうは、自分の親は人間だと思ってゐる程、人間によく親しんでゐます、可愛がって育ててゆきませう」とニコニコとひょうの前に立って喜んでゐる 

(1927〈昭和2〉年7月20日付 東京朝日 夕刊2面)

【解説】

 「へう」って……。写真と最後の表記ゆれがなければ、理解するのに少し時間がかかったかもしれません。どうも動物のヒョウのことのようです。当時の仮名遣いなら「へう」でも問題なしですが、表記がそろっていないのは少し見苦しいのでこれは今でも昔でも、直したいところです。

 河畔で「土人」によって捕獲された、とあります。「土人」は辞書では「1.原住民などを軽侮していった語 2.もとからその土地に住んでいる人。土着の人」(大辞林)とあり、ここでは2の意味で使っているのだとは思いますが、差別的ニュアンスが染みついている言葉でもあるので、現在はあまり使いません。

 また、見出しにある「坊ちゃん」も、一見問題ないようで実はやっかい。坊ちゃんというとやはり男の子ですよね。でも当然女の子だって可愛いヒョウを見に来たいはず。ですので、今なら「子ども」としたいところ。こんな何げないところにも当時の男性優位がうかがえます。

 このヒョウ、名前はジングル。ジングルは「生意気に」日本語を理解するそうです。少し迷いますが、「生意気に」だと動物を軽んじている感があるので、私なら省くか、「お利口に」等に書き換える提案をしてみます。

 ちなみに、右の画像のように直してもらいたい部分に、赤鉛筆で指摘を書き込むのですが、2段目の後半にある、ブタのしっぽみたいにくるんと一回転させる線を引くだけで、「この部分を取ってください」という指示です。昔は「ヌク(抜く)」と書いていたそうですが、新聞の校閲は秒単位勝負の仕事、時代を追うごとに崩れていき、今ではこのような無残?な形になりはてています。新聞業界全体で通じるのか、朝日新聞社内だけなのかは分かりませんが……。

 それにしても、80年以上前の写真ですが、本当に可愛いですよね。人によくなついているそうで、しかも日本語を理解する。私も見てみたかった! このジングルがこの後どうなったか、続報は見あたりませんでした……。

 下に、校閲結果をふまえて、現代風に書き直したものを載せておきます(現在の朝日新聞の表記基準で認めていない漢字の音訓や、当時は入れていなかった句点を入れる等、細かいので朱の記入を省いたものも含めます)。

【現代風の記事にすると…】

日本語がわかる「ヒョウ」  子どものお相手に日比谷へ

 19日、日比谷公園にネコより少し大きいくらいの可愛らしいヒョウが到着。年齢1歳2カ月、ハドソン河岸で地元の人によって捕らえられたもので、当時はほんの赤ん坊で目さえ開いていなかったという。

 名前はジングル。地元の人から米国人の手に移り、さらに正金銀行横浜支店長の梶原さんが南米にいるころにもらい受け、愛されて育てられてきた。

 環境が性格を作るという好例をこのヒョウは示している。少しも猛獣らしいところがなく、それに日本語をよく理解し、おとなしくおりの中で遊ぶ。到着した19日はまだおどおどしているが、みんなと仲よくなるまで時間はかからないだろう。

 日比谷公園の市川さんは「このヒョウは、自分の親は人間だと思っているほど、人間によく親しんでいます。可愛がって育てていきましょう」と、ヒョウの前に立ってニコニコ顔で話し、到着を喜んでいた。

(広瀬集)

当時の記事について

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

  • 漢字の旧字体は新字体に
  • 句点(。)を補った方がよいと思われる部分には1字分のスペース
  • 当時大文字の「ゃ」「ゅ」「っ」等の拗音(ようおん)、促音は小文字に

等の手を加えています。ご了承ください