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昔の新聞点検隊

迷惑メールで「志成らず」!?

市原 俊介

【当時の記事】

幸運の手紙で不運を釣る

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大学は出たけれど、職の無い青年が例の幸運の手紙で一儲けを目論んだが、志成らず今は西神田署に捕はれの身となってゐる、二年前某大学商科を卒業、芝田村町○○○方に下宿してゐる○○○○(二七)といふ男、竹葉倶楽部の名の下に七人の名を連ね

この七人の連鎖は貴下に幸運を齎すものである、三日以内にこの写し五通を作り一番始めの姓名を取り除き最後に貴下の住所姓名を書き入れ出されたし、但し一番最初の姓名を除く時その人に金一円を送ること、その代り貴下の名が消される時、一円が鼠算式に莫大な額となって貴下の手に入るべし

との謄写版刷りを数日前電話帳により三百五十人に発送した所を受取った人の密告によって取り押へられたもので、一円はおろか謄写代が丸損となって検挙され、寝て待った果報が大失敗に終ったという訳である

(1935〈昭和10〉年9月3日付 東京朝日 朝刊11面)

【解説】

 記事の「幸運の手紙」とは、受け取った人が同じ文面の手紙を他の人に出すと幸せが訪れる、と書かれた手紙です。同種の手紙に、同じ文面の手紙を出さないと不幸になる、と受け取った人の不安をあおる文が書かれた「不幸の手紙」と呼ばれるものがあります。こちらの方が有名かもしれません。なかには、出せば幸せになれるが出さないと不幸になる、という両者が複合したものもあったようです。どこの誰がはじめたのか、といった情報を探してみましたが、残念ながら見つけられませんでした。

 今回取りあげた記事は1935(昭和10)年のものですが、「幸運の手紙」「不幸の手紙」は朝日新聞紙上で何度か取りあげていて、「昭和六年秋流行して以来久しく現れなかった」(1939年7月27日付東京夕刊)との記述もありました。戦後も複数回、紙面を飾っています。時代がくだって1990年代末には、「棒の手紙」という変わり種が流行したことも。これは不幸の手紙の「不」と「幸」をくっつけて書いていくうち、いつの間にかそれが「棒」に変わったものではないか、と当時の紙面は解説しています。

 さてこの記事は、この手紙を使って詐欺をしようとした男が失敗し、捕まったことを伝えています。

 書き出しは、1929年に公開された小津安二郎監督の映画「大学は出たけれど」のタイトルにかけたものでしょう。大学を卒業したものの、不況で就職口が見つからない青年の奮闘を描いた映画で、タイトルは当時の流行語となっていました。

 現在の校閲記者の目から見て、まず気になるのは、犯罪を企図して失敗したことを「志成らず」としている部分。志が成るという言葉は、前向きな目標が達成された、といったニュアンスが感じられ、今回の記事にはそぐわないように感じます。「たくらみが発覚し」などと言い換えることを提案します。

 また、手紙を受け取った人が「密告」した、という個所にも違和感があります。せっかく犯罪を防ぐことに協力してくれた市民に対して、ネガティブな意味のある言葉は失礼です。ここは「通報」「届け出」などとしたいところです。

 この幸運の手紙、最近はあまり聞くことがなくなったように思います。私(1980年生まれ)が子どものころにはまだ残っていて、実物を見たこともあったのですが……。

 現代の「迷惑な手紙」の代表といえるのが、不特定多数に同じ内容の電子メールを送りつける迷惑メール。こちらは実際に手紙を書く手間が減った分、大量に同時に送りつけることができるようになりました。ただ、手書きではないぶん、受け取ったときの薄気味悪さはそれほどでもありません。

 さて、現代風に書き換えてみましょう。

(画像には主な直しだけ書き入れています。現在の朝日新聞の表記基準で認めていない漢字の音訓や、当時は入れていなかった句点を入れる等については、原則として記入を省いています)

【現代風の記事にすると…】

「幸運の手紙」で逮捕 「寝て待つ果報」とならず

 「大学は出たけれど」――。大学を卒業後、就職できない青年が、「幸運の手紙」でひともうけをもくろんだが、金を手に入れる前に事件が発覚し、詐欺未遂容疑で西神田署に逮捕された。逮捕されたのは2年前に大学商科を卒業した、芝田村町の○○○○容疑者(27)。○○容疑者は「竹葉倶楽部」と名前をかたり、7人の名前を連ねた手紙を郵送して、手紙を受け取った人から現金をだまし取ろうとした疑いがある。

 送りつけた手紙には「この7人の連鎖はあなたに幸運をもたらすものです。3日以内にこの写し5通を作り、一番初めの姓名を取り除いて最後にあなたの住所姓名を書き入れて投函(とうかん)してください。ただし一番初めの姓名を除く時には、その人に金1円を送ること。その代わりあなたの名が消される時には、1円がねずみ算式に莫大(ばくだい)な額となって、あなたの手に入るでしょう」と書かれていた。

 ○○容疑者は、この手紙をコピーして、電話帳をもとに350人に発送した。だが受け取った人が警察に届け出て、○○容疑者の犯行と分かった。○○容疑者は、1円はおろか、コピー代が丸損となったまま逮捕され、「果報は寝て待て」とはいかなかった。

(市原俊介)

当時の記事について

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

  • 漢字の旧字体は新字体に
  • 句点(。)を補った方がよいと思われる部分には1字分のスペース
  • 当時大文字の「ゃ」「ゅ」「っ」等の拗音(ようおん)、促音は小文字に

等の手を加えています。ご了承ください