メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

昔の新聞点検隊

【当時の記事】

みなさんの学校へ一個づつ上げます アメリカから来たお人形 着替への着物や香水も持ってゐる

拡大クリックすると大きくなります

◇秩父宮さまと一緒に来ましたアメリカ生れのお人形四百個は、十九日の夜始めて文部省普通学務局長室にみんな箱から取だされました、まア何んとこの花嫁さん花婿さんの奇麗なお粧ひですこと……

◇胸のところにピンで止めたのはスペシャル・パスポートで、領事の査証もあり、日米親善のくさびを象徴する小さな両国国旗がパスポートの中にはさまれてゐます、首に懸けられてゐる青い封筒の中には贈ってくれた友達からのメッセージがタイプライターの手紙で入ってゐます、手紙の末にはクラスの受持先生のサイン等もあります

◇お人形さんはみんな着替への着物をスートケースにいれて持ってをり、ケースの中には夏着一切、春、秋の着物の外、香水、クシ化粧ブラシも入ってゐます、来月は文部省主催でお人形のお目見得展覧会を行ひ、その後全国の孤児院、幼稚園、小学校へ一個づつ位分配する事になってゐます

(1927〈昭和2〉年1月20日付 東京朝日 朝刊7面)

【解説】

 昭和に入って間もない1927年、米国から日本へ「青い目の人形」と呼ばれる1万2739体の人形が贈られました。

 人形には、両国の関係を良くしたいという米国人宣教師の思いが込められていました。当時、日本からの移民が米国人の雇用を圧迫し、不和を招いていたからです。今回取り上げるのは、米国から贈られた人形が、当時の文部省で初めて箱から取りだされた、という記事です。昭和天皇の弟にあたり、現在ではラグビー場などに宮号が残る秩父宮雍仁(やすひと)親王が米国から帰国する際、人形は一緒にやってきたとあります。

 まずは見出しの「一個づつ上げます」。人形の数え方は「個」より「体」が良いでしょう。「数え方の辞典」(飯田朝子著、小学館)によると、「人間の形状をしているものは原則として『体』で数えます」。人形ならすべて「体」というわけではなく、「指人形などの小形のもの」は「個」で数えるそうです。この人形は、写真からも人の形をしていることがわかりますから、「体」を使いましょう。また「着替への着物や香水も持ってゐる」とありますが、「着物」は「洋服」が良いかもしれません。現在では「着物」というと、特に和服をさすことが多いからです。これも写真が根拠です。

 「はじめて」と副詞として使う場合は「始」ではなく「初」にしています。しかしこの時代の紙面を見ると「始」を使うこともよくあるようです。「ピンでとめる」は「止」ではなく「留」を使いましょう。動作や続いている物事をやめるときは「止」、ものを固定するときは「留」という使い分けをします。

 「スペシャル・パスポート」に「・」(中黒)はいりません。朝日新聞では、外来語の表記は「2語から成る複合語には原則として語間に『・』を付けない」と決めているからです。「リーマン・ショック」「バンクーバー・パラリンピック」のように固有名詞を含む場合は例外となります。また3語以上になると切れ目がわかりにくくなることもあり、「ケース・バイ・ケース」「ワーク・ライフ・バランス」のように中黒を入れることにしています。

 「日米親善のくさびを象徴する……」というところで「ん?」と思った方は、いませんか。「くさび」というと、「日米関係にくさびを打ち込む」のように「仲を裂く」という意味で使う印象があります。しかし「くさび」には、「物と物とをつなぎ合わせる」という意味もあります。これは道具としてのくさびが、物を割るだけでなく、物と物とにまたがらせて打ち込み、離れないようにする役割を持つことからきています。この記事の「くさび」は、むしろ両国の結束を表しているのです。ただ逆の意味にとらえられてしまう可能性を考えると、「きずな」などのことばで言い換えた方が良いのかもしれません。

 実は、この記事に「青い目」という表現は一度も出てきません。朝日新聞の見出しでは、1927年1月27日付東京夕刊2面に「大阪のおば様の許へ 唯一人で青い眼のお人形」と出てくるのが初めてのようです。ちなみに当時は「眼」を使っていますが、現在の紙面では「め」とルビを振るか、「目」と書くことになります。朝日新聞では紙面で使う漢字とその読みは、「朝日新聞漢字表」(常用漢字表を基に、朝日新聞が独自に漢字や音訓を追加・削除したもの)で決めていますが、この表には「眼」の読みとして「め」を入れていないためです。

 みなさんはこの「青い目」ということば、どのように感じますか。ただ目が青いというだけの表現とも受け取れますが、白人の欧米人をあらわす比喩(ひゆ)表現でもあります。校閲記者としては、身体的特徴によって特定の人種をさすことばを見逃すわけにはいきません。違いを必要以上に強調したり、固定観念に基づいて表現したりすることは、差別につながることがあるからです。もちろんこの人形が「青い目の人形」と呼ばれたことは史実ですから、それを取り上げた記事で「青い目」ということばを使わないのは無理があります。できれば固有名詞として使っていることを表すため、かぎかっこ付きにしてほしいのが正直なところです。

 日米の懸け橋となった「青い目の人形」ですが、第2次世界大戦に向かう中、両国の関係が再び悪化するにつれて、その処遇が一変します。人形が贈られた学校では、先生と児童が一緒になって、やりで突いたり火で焼いたりしました。このため、1万3千体近く日本に贈られた人形は、現在では300体ほどしか残っていないそうです。

 戦後、こうした人形を集めて何度か展示会が開かれたり、小学校の歴史教材に使われたりしました。1978年8月16日付の朝日新聞は、東京・新宿三越で終戦記念日(15日)から33体の展示が始まったと伝えています。戦中には軍から「焼き捨てよ」と命じられた「青い目の人形」。その中で、危険を冒してでも守ろうとした人たちがいたという事実もまた、忘れたくありません。

(画像には主な直しだけ朱を書き入れています。現在の朝日新聞の表記基準で認めていない漢字の音訓や、当時は入れていなかった句点を入れる等については、原則として記入を省いています)

【現代風の記事にすると…】

みなさんの学校に1体ずつ贈ります アメリカから来たお人形 着替えの洋服や香水も持ってます

 ◇秩父宮さまとともに、日本にやってきた米国生まれの人形400体が19日夜、文部省普通学務局長室で初めて箱から取りだされた。女の子の人形も男の子の人形も、とてもきれいに着飾っていて、まるで結婚式の新郎新婦のよう。

 ◇胸にはスペシャルパスポートをピンで留めている。このパスポートには、ビザや、日米親善のきずなを象徴する小さな両国の国旗がはさまれている。首にかけた青い封筒には、タイプライターで書かれた米国の子どもたちからの手紙が入っていて、その最後には担任の先生のサインなども添えられている。

 ◇人形はいずれも、着替えの洋服を入れたスーツケースを持っている。ケースには夏物一式や春・秋用の洋服のほかにも、香水やくし、化粧ブラシも入っている。来月、文部省主催の展覧会でお披露目され、その後全国の孤児院や幼稚園、小学校へ1体ずつプレゼントされる予定だ。

(森本類)

当時の記事について

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

  • 漢字の旧字体は新字体に
  • 句点(。)を補った方がよいと思われる部分には1字分のスペース
  • 当時大文字の「ゃ」「ゅ」「っ」等の拗音(ようおん)、促音は小文字に

等の手を加えています。ご了承ください