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昔の新聞点検隊

春はクルクルにへ~んしんっ!!

山室 英恵

【当時の記事】

洋髪の流行はカールへ移る 刈上げは殆んど姿を消す

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 陽春四月の結髪は明るい爽やかな調子が要求されますが、今までマンニッシュ・スタイルの洋服にこそ似合わしかった

 刈上げはもう殆ど影をひそめ、却て柔かな曲線の中にスッキリした女らしさを現すために最近はカールに流行が移って来ました。しかも単に襟元にカールして、毛をまとめるだけでなしに頭の上部又は額に思ひ切ったカールの放列を並べ

丁度一昔前の日本のハイカラ束髪を思はせる様な型が欧米でも尖端的な様式とされてゐます。

 写真の髪はかうした意図を盛込んでまとめたものです。髪は肩迄の断髪でパーマネントがかかって居りますので、後の毛はグルグルとコテで巻き、右耳の上はカーラーを使って三つ程あっさりとカールを作り、横顔に強い調子をつけて見ました。

前も真中より少し右寄りにカールを作りピンをぬいてから指で柔かく形をとっただけです。

 上品なおっとりした味の中に春らしいスッキリした感じが生きて、ドレスにも和服にも、似合ふ新傾向の結髪と申す事が出来ると思ひます。(岡崎アンナ女史談)

(1937〈昭和12〉年4月13日付 東京朝日 夕刊4面)

【解説】

 「春だから、パーマをかけて明るい印象にしたい!」と思うのは、今も昔も変わらないようです。

 記事を見ていきましょう。

 「マンニッシュ」という言葉にいきなりひっかかってしまいました。「男っぽい」という意味の「マニッシュ」と考えて、英和辞典をみてみると、つづりは「mannish」。一つ目の「n」も読むことで、「ン」という音が入ってしまったようです。ここは、「マニッシュ」に直しましょう。

 さて、女らしさという表現。今は、男性もパーマをかけている時代。カールは女性らしさを表す、と書いてしまうと、抵抗を感じる男性もいるかもしれません。ここは思い切って、「柔かな曲線の中にスッキリした女らしさを現すために最近はカールに流行が移って来ました」というくだりを、「柔らかな曲線の中にすっきりした雰囲気を表すために、最近は女性の間ではカールに流行が移ってきました」のように女性という言葉を入れる位置を変え、「らしさ」を抜いてはどうかと、私なら提案します。「現す」も、ここでは「表現する」という意味で使っているようなので、今の紙面では「表す」にしています。

 次に「ハイカラ束髪」。束髪は、明治以降にはやった西洋風の髪形です。日本国語大辞典(小学館)によると、「ハイカラ」には、「西洋風で目新しいこと」という意味があるので、意味が少し重複しているようにも読めます。西洋風の髪形、などでよさそうです。

 さて、パーマの流行を話してくださった岡崎アンナさんの敬称が「女史」となっています。女史は女性にしか使わない呼称であり、男性にはこれに対応する言葉がありません。敬称とはいえ男性中心の社会を前提にした呼称なので、なるべく使わないようにしています。新明解国語辞典(三省堂)では「気性の勝った女性をからかいぎみに言う時にも用いられる」としています。敬称は、今なら「さん」が自然でしょう。

 また、現在では、話してくださった方の名前は文末ではなく、見出しに入れるか、記事の冒頭に置くような形式にしています。このほうが、だれの視点で話しているかがすぐに分かり、通常の記事とは違うことがはっきりして、読みやすいと思います。そのため、名前は最初に出すように指摘します。

 ところで、この記事についている写真の女性は誰なのでしょう? 今の記事ならば、写真を使う場合は「写真説明」を入れて、「いつ」「どこで」「誰が」「誰(何)を」撮影したかなどが分かるようにしています。写真説明はいらないかも尋ねてみましょう。

 記事によると、当時のパーマの流行の長さは肩までで、現在ならよく見かける肩下のパーマよりも短かったようです。日本大百科全書(小学館)によると、1923(大正12)年に日本に紹介されたというパーマ。しかし、このおしゃれ記事が書かれたわずか2年後の1939(昭和14)年6月17日付の朝日新聞に、華美で浮ついているとしてパーマを禁止する案が出ている、という記事が載りました。戦争が日常生活へも影を落としていたようです。パーマ禁止案がでた後の6月22日付の記事では、日本劇場でレビューなどを上演していた集団である日劇ダンシングチームが、耳たぶぐらいの長さまで髪の毛をバッサリ切ったという話題を報じています(「レビュー」は4月13日公開「流行は気になる」にも出てきました)。長髪はパーマを助長するからダメだ、という理屈だったようです。ただし、日劇の上層部はこの時点では、パーマも髪形の一つで、浮ついているわけではないと考えていたようです。けれども、髪を切るのが嫌ならば退社するように、とお達しを出したとのこと。それを「強硬命令」と紙面で表現をしているのをみると、当時の人も厳しい対応だと受け止めていたことがうかがえます。

 同じ年の6月23日付以降には、3回にわたってパーマをかけたままでも華やかにならない髪形にするにはどうしたらいいか、ということを写真付きで特集しています。ストレートパーマで髪を真っすぐに戻す、ということもそう簡単にはできなかったでしょうから、パーマをかけていた人にとっては髪形をアレンジするのに参考になったのではないでしょうか。

 こうしたパーマに関する記事が紙面に度々掲載されましたが、しばらくしてパーマは正式に禁止されました。

 では、いつものように、現代風に書き換えてみましょう。

(画像には主な直しだけ朱を書き入れています。現在の朝日新聞の表記基準で認めていない漢字の音訓や、当時は入れていなかった句点を入れる等については、原則として記入を省いています)

【現代風の記事にすると…】

西洋風の髪形の流行はカールへ 刈り上げは不人気  岡崎アンナさんに聞く

 心が弾む4月。やはり、髪形は明るいさわやかな雰囲気のものが好まれる。マニッシュスタイルの洋服に似合っていた刈り上げは、今では人気薄だ。一方で、柔らかな曲線の中にすっきりした雰囲気を表すために、最近は女性の間ではカールが流行している。しかも、ただ髪先をクルクルに巻いて髪の毛をまとめるだけではなく、頭部や額あたりにも強めのカールをかけている。ちょうど一昔前に日本ではやった西洋風の髪形のようなスタイルで、これは欧米でも最新の流行だ。

 写真は、こうした流行を取り入れてアレンジしたもの。髪は肩まで短く切られてパーマがかかっているので、後ろの髪の毛はクルクルとコテで巻いて、右耳の上はカーラーを使って三つぐらいカールを作り、横顔にインパクトをつけている。前も、真ん中より少し右寄りにカールを作り、ピンを抜いてから、指で形を整えただけ。

 上品なおっとりした中に、春らしいすっきりした感じが生きて、ドレスにも和服にも似合う新しいはやりの髪形になる。

(山室英恵)

当時の記事について

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

  • 漢字の旧字体は新字体に
  • 句点(。)を補った方がよいと思われる部分には1字分のスペース
  • 当時大文字の「ゃ」「ゅ」「っ」等の拗音(ようおん)、促音は小文字に

等の手を加えています。ご了承ください