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昔の新聞点検隊

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【当時の記事】

非常時を反映する 昭和の新撰組 特別警察隊とは?

先頃の全国警察部長会議で問題となった特別警察隊の組織につき内務省警保局ではこれが実現を期し早速三島警務部長、宮野警務課長が中心となって具体的立案に着手するに至ったこれが

 実現されるとすれば東京を真っ先に大阪、京都の順で実施のはずでその内容は、警視総監又は警察部長に直属する本部隊長の指揮によって動き、一隊三十名より成り総数十隊三百名を目標とする、特別隊の勤務制度は三部制とし動員に際してはいつでも

 総員の三分の二を出動させ得る様に合宿所に住まはせて三班中の一班は必ず待機姿勢をとり一班は応召準備の姿勢をとる様にし常に軍隊式の団体調練を行って集団行動を訓練し各警察署とは全然独立して活動させるといふのだ

警官の休養が主眼 内務省宮野警務課長談

特別警察隊の新設は各警察部長も非常に熱望してゐる、目的は警官の休養を主眼とするものだが、特別警察隊は召集に手間どらないから敏活に集団的出動が出来るわけで、の意味から我こ国の警察組織として最初の試みである、一朝有事の際はもちろん活動させもするが、五・一五事件に刺激されて計画したなどといふ意味合のものではない、実現しても最初は警視庁管下だけで人員組織などなほ警視庁と協議中でまだ確定は出来てゐない、この特別隊は大火の場合などももちろん機敏に活動するわけだが、問題は現在の人員中から特別隊をつくりだすか特別隊の分だけ警官を増員するかで経費関係から一番議論のある所である

(1932〈昭和7〉年8月2日付 東京朝日 朝刊7面)

【解説】

 今回取りあげるのは、当時警察組織を管轄していた内務省で、新組織を立ち上げる動きがあることを伝える記事です。見出しでは「昭和の新撰組」とされているこの新組織、実は6月29日更新のこのコーナーの「クロヒョウが逃げたっ!」という記事でも、脱走したクロヒョウを追跡する役で登場しました。

 「警視庁史 昭和前編」によると、警視庁でこの組織が実際に発足したのは翌1933年の10月。発足時には、名称が「特別警察隊」から「特別警備隊」に変わっていました。当時は血盟団事件や五・一五事件など、社会に大きな不安を与える事件が続いていたため、迅速に対応できる警察集団が必要ということで、特別隊が組織されたそうです。

 内務省官僚のコメントでは設置の主眼は警察官の休養ということですが、警視庁史によると、想定されていた主な任務は、(1)非常突発の事故鎮圧を目的とする現場の警戒・取り締まり(2)特別なる警衛警戒現場の取り締まり(3)庁内警備に関すること――でした。

 発足時の特別警備隊は隊長を含めて全307人で、四つの中隊で編成されました。ちなみに初代隊長に任命された宮脇倫氏は、その後埼玉県知事などを務めた人物。宮脇氏が1963年に亡くなった際の死亡記事では、氏が警視庁の「新撰組」の初代隊長だったことにも触れられています。

 その後、1944(昭和19)年に東京、大阪、北海道など13都道府県警察に「警備隊」が新設されることとなり、それにともなって警視庁特別隊は廃止されました。設置された警視庁警備隊は、太平洋戦争の戦局が日本に不利になった状況を反映し、空襲の対応に力点が置かれた組織として発足。この警視庁の警備隊は戦後、46年に廃止されています。

 さて、まずこの記事で気になったのが、本文にはない「新撰組」という愛称が、いきなり見出しで使われていることです。このコーナーで何度か取りあげられていますが、本文にない要素を見出しに取るのは基本的にはルール違反です。

 しかし、なぜ「昭和の新撰組」なのでしょう。新撰組といえば、江戸時代の末期に、浪士を集めて組織されたもの。彼らの主な仕事は、京都の治安維持や反幕府勢力の鎮圧でした。訓練された警察集団になるという特別隊のイメージと重なったのでしょうか。

 特別隊がなぜ「新撰組」と呼ばれるようになったのかを調べましたが、はっきりした根拠はわかりませんでした。ただ興味深いのは、この特別隊の前にも、一部の警察組織が「新撰組」と呼ばれていたこと。

 これより前の紙面でも、議会警備に関する記事で「イザといへば田辺警務課長自ら『新選組』と称する腕自慢の警官五十名より成る警備隊を直に随所に活動せしめると云ふ」(1925〈大正14〉年2月21日付 東京朝日朝刊7面)といった記述が見られたり、メーデーに関する記事で「各署よりの応援警官三千名および例の新選組二百五十名を指揮して取締を行ふ」(1927〈昭和2〉年4月29日付 東京朝日夕刊1面)とされたりしていました。

 ただ、特別隊ができる前の紙面では、警備にあたる精鋭たちといった意味合いで使われていて、特定の組織を指していたわけではなかったようです。逆に、特別隊発足後は、「新撰組」といえばこの組織を指すことが多かったようです。

 ここでは記事になぜ「新撰組」と呼ばれるのかの説明がありませんし、過去の例との違いがわからず紛らわしく感じることもあるので、見出しでは「新撰組」という語を避けた方がよいのではないかと思います。今なら「特別警察隊発足へ 内務省で具体案に着手」などとするところでしょうか。

 次に1本目の記事にある、悩ましい例を考えてみます。「各警察署とは全然独立して活動させるといふのだ」という文章の、「全然」の使い方に違和感はないでしょうか。
 「既存の警察組織からすっかり独立させて」といった意味で使われているのでしょうが、私はやや口語的で、書き言葉としてはこなれないように感じました。「全然○○」と○○の部分を強調するのは、現代の若者ことばの代表例のように思っていたからです。ところが辞書を引いてみたところ、このような使い方は必ずしも間違いとはいえないようです。

 日本国語大辞典(小学館)によると、全然は「すべてにわたって」「残るところなく」というような意味で、もともとは肯定表現にも否定表現にも使うことができる言葉でした。否定表現との結びつきが強まったのは大正末から昭和にかけてのこと。一方で、1945年以降には「非常に」のように、程度を強調する言葉としても使われるようになったそうです。
 一方、岩波国語辞典(第7版)のように、「非常に」など程度を強調する意味で使うのは誤用と明示している辞書もあります。

 私が違和感を持ったのは、「全然独立して」が程度を強調している表現だと思ったからでしたが、「完全に独立して」という意味なら、全然という言葉を使うことは間違っていないわけです。

 ただ、現在の新聞記事としてなら、「まったく」などと言いかえた方が自然な気もします。判断に迷うところで、誤用とまではいえませんが、違和感を持つ人がいるかもしれないので、より誤解の恐れが少ないように言いかえを検討してもらうことにします。

 日々の仕事の中でも、ことばについての自分の感覚と、ことばの実際の使われ方や辞書の記述が食い違うことはよくあります。自分の思いこみにはっとすることもありますし、ことばを扱う仕事の難しさ、面白さを感じるところです。

 次に、2本目の記事を見てみましょう。この記事には、「の意味から我こ国の警察組織として……」という、そのままでは意味がよくわからない部分があります。
 おそらく、これは活字を拾って紙面を作る際に、入れる位置を間違ってしまったものでしょう。今の紙面製作の現場では起こりにくい、時代を感じる間違いです。「こ」を「の」の前に入れ替えて、「この意味から我国の……」とするのが正しいでしょう。

 また、現在の紙面とは違う作り方だと感じたのが、記事の配置の仕方です。この紙面では、新撰組の記事をさえぎるように、全く関係のないオリンピックのラジオ放送の予定の記事が入っています。いまなら、読みにくいので基本的にはこのような編集の仕方はしないはず。当時はこうしたことがあまり意識されていなかったのでしょうか。オリンピックの記事を左に寄せて、読みやすくしましょう。

 昭和から平成になり、紙面の作り方は大きく変わりましたが、数年前には大河ドラマの題材になったように、新撰組の人気は変わりません。最近ではその名をグループ名のもとにした男性アイドルグループまで登場しました。えり抜きの男たちを新撰組と呼びたくなるのは、昔も今も変わらないものなのでしょうか。

(画像には主な直しだけ朱を書き入れています。現在の朝日新聞の表記基準で認めていない漢字の音訓や、当時は入れていなかった句点を入れる等については、原則として記入を省いています)

【現代風の記事にすると…】

特別警察隊発足へ 内務省で具体案に着手

 先日の全国警察部長会議で議題に上った特別警察隊の設立について、内務省警保局は発足を目指して早速三島誠也警務部長、宮野省三警務課長らが中心となり、具体的な立案に着手した。

 実現すれば、最初に東京、続いて大阪、京都の順で組織される見通しだ。

 特別警察隊は、警視総監または警察部長に直属する本部隊長の指揮によって動き、1隊30人で構成され、全10隊300人を目標とする。勤務態勢は3部制とし、動員に際しては総員の3分の2を出動させられるよう、合宿所に住ませて3班中の1班は必ず待機態勢を、もう1班は応召準備の態勢をとる。また、常に軍隊式の団体調練を行って集団行動を身につけさせ、各警察署とはまったく独立して活動させるという。

「警察官の負担軽減が主眼」 内務省・宮野警務課長

 特別警察隊の新設は、各警察部長も非常に熱望している。警察官の負担の軽減が主眼だが、特別警察隊は召集に時間がかからないから迅速に集団で出動することが可能になる。この意味で、我が国の警察組織としては最初の試みとなる。急な有事の際ももちろん派遣するが、五・一五事件に刺激されて計画したなどというわけではない。実現しても最初は警視庁管下だけとなる予定で、人員・組織などは現在警視庁と協議中でまだ確定は出来ていない。この特別隊は大火事の場合などももちろん機敏に活動するわけだが、問題は現在の人員から特別隊を編成するか、特別隊の分だけ警察官を増員するかで、経費関係から一番議論のあるところだろう。

(市原俊介)

当時の記事について

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

  • 漢字の旧字体は新字体に
  • 句点(。)を補った方がよいと思われる部分には1字分のスペース
  • 当時大文字の「ゃ」「ゅ」「っ」等の拗音(ようおん)、促音は小文字に

等の手を加えています。ご了承ください