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昔の新聞点検隊

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【当時の記事】

▽…ライオンのメスとヒョウのあいの子“レオポン”つくりに、西宮市の阪神パークが成功した。ライオンとトラの間にできるタイゴンやライガーの例は外国にもあるそうだが、レオポンはおそらくはじめてのこと。

▽…パパはオスのヒョウのカネオで、ママはライオンのメスの園子さん。ヒョウはライオン以上にはげしい性質なので、一つのオリに入れておくだけでもたいへん。同パークの場合は、この同居がうまくいったわけ。

▽…さる七月末に妊娠して去月中旬に二頭生まれた。このレオポンはヒョウのようなハンテンがあるくせライオンに似ているそうな。ママのライオンの気が立っているため、飼育係しか近よれず写真は残念ながらまたの機会に…。=写真はレオポンを生んだお母さんライオン(右)とオスヒョウ

(1959〈昭和34〉年12月11日付 大阪本社版 朝刊11面)

【解説】

 今回はコーナー初の戦後の紙面です。いまから51年前、ヒョウとライオンをかけあわせた「レオポン」2頭が兵庫県西宮市の阪神パーク(現在は閉園)で生まれました。「レオポン」の名称は「ヒョウ leopard の leop とライオン lion の on を合成して名づけられた」(日本大百科全書〈小学館〉)そうです。当時、盛んだった異種交配によって誕生した、この2頭。兄がレオ吉、妹がポン子と命名されました。パパ・ヒョウの名前はカネオ(甲子雄)、ママ・ライオンの名は園子。1972(昭和47)年6月27日付の大阪本社版の記事によると甲子雄が1歳で園子と結婚したとき、園子は甲子雄の3倍以上の体重だったそうです。

 さて昔の紙面を校閲していきましょう。冒頭に「ライオンのメス」とありますが、ヒョウはオスかメスかに触れていません。ヒョウはオスであることを明記したほうがわかりやすくなりそうです。「オス」を入れるように提案してみましょう。

 直後に、「あいの子」という表現が出てきます。大辞林によると、「異種の生物の間に生まれた子」。辞書通りの意味ではあります。ただ、あいの子という表現は、かつて、異なる人種の間に生まれた子どもを異質なものとしてとらえ、蔑称として使われていたことがあるので、擬人化して使われていると気になります。現在の紙面でも、あいの子という表現はほとんど見かけません。ライオンのメスとヒョウのオスを「かけ合わせた」などとしてはどうかと代案を示してみましょう。

 阪神パークの所在地が「西宮市」といきなり市の名前だけで出てきます。現在では、原則として県庁所在地や政令指定都市以外は都道府県名を入れているので、西宮市の前に「兵庫県」と書き加えてもらいましょう。

 余談ですが、この1959年12月11日付の青鉛筆は大阪本社版に載ったものだったので、県名が省略されていたのかもしれません。同じ日の東京本社版では「ガス中毒が起こりやすい季節になるので、パトロール中のお巡りさんはガスのにおいに気をつけるようにという指令を警視庁が出した」という内容の青鉛筆が掲載されました。新聞が届く地域によって関心が異なることもあるので、その地域に合わせた内容を載せる、というスタイルを昔から取っていたことがわかります。

 この記事が載った「青鉛筆」のコーナーは東京では1916(大正5)年3月29日から続いていて、いまも社会面の左下にあります。「▽」(実際は▽が2重になったものですが)で始まり、7行の段落が三つ。計21行の短い記事に、ニュースの要素をすべて盛り込み、さらに、クスッと笑ったり、ほろりとしたりする「落ち」がなければなりません。執筆する記者にとっては、かなり高いハードルです。そのため、人気のコーナーなのです。

 記事の点検に戻ります。パパ・ヒョウの名前が呼び捨てなのに対し、ママ・ライオンは敬称がついています。敬称をつけるかつけないか、どちらかに統一してもらいましょう。

 この記事ではレオポンが生まれた日が11月「中旬」となっています。しかし、レオ吉やポン子が死んだときの記事をみると、レオ吉の生まれた日は2日、ポン子は3日となっています。本来ならば「上旬」ではないか、念のため筆者に確認をお願いしたいところです。ただ、インターネット上の公式ホームページで発表資料を確認なんてことは当然できない時代ですから、当時校閲から間違いを指摘するのは難しかった可能性が高いです。

 写真説明は短いにもかかわらず、3カ所も直して欲しいところがあります。まずは「生んだ」。朝日新聞では「誕生する、作り出す」という意味の「生む」と、「出産する」という意味の「産む」を使い分けています。ここは「産んだ」に直してもらいましょう。

拡大1960年5月20日付投書欄に載ったレオポンについての質問と回答
 次に「お母さん」という表現。他は「ママ」としているので、ここもママにそろえてもらいたいです。最後に「オスヒョウ」。「お母さんライオン」としているのに対して「オス」とするのは、違和感があります。「お母さん」は「ママ」にしてもらうので、ここも「パパ」にしてもらいましょう。

 レオポンはレオ吉、ポン子以外にも、1961(昭和36)年6月29日にも3頭(オスのジョニー、メスのチェリーとデイジー)が生まれており、5頭が存在していました。

 レオポンの誕生は海外でも注目されていたようで、レオ吉とポン子が生まれたときに、米国の国立動物園の園長が「レオポンは世界で初めての動物だ」と阪神パークの土井弘之園長あてに公用文を送ったり、イギリスの動物園協会からレオポンの生態フィルムを送って欲しいという要望があったりしたようです。

 また、最初はポン子もレオ吉も木に登っていたのに、レオ吉だけ登れなくなったと1960(昭和35)年5月13日付の記事で報じると、同20日付の投書欄に「なぜ木にのぼれなくなったのか」と読者から問い合わせが載る=右の画像=など、国内でも注目されていたようです。

 「なぜのぼれなくなったのか」という読者の問いに、土井園長は(1)レオ吉が「ライオン的性格をより多く受けついでいる」(2)レオ吉もポン子もまだ木にのぼっていたころ「よく母親ライオンが口でくわえて下へおろしていた」のをレオ吉は「のぼってはいけないと考えるようになった」、という2点から「木へのぼらなくなったものと思われます」と答えています。

 この記事の5カ月後の10月の記事によると、レオ吉はまた木登りを始めたようです。その理由として、園子が以前ほど子どもに関心を示さなくなったので、木登りを思い出したのではないか、という土井園長の推測を紹介しています。

 他にも、ライオンが水浴びをするのに対し、ヒョウは水浴びをしないと言われているが、レオポンは水浴びをした、という記事や、レオポンの鳴き声を分析したという記事など、習性や見た目について紹介する記事が書かれ、ずっと世間の関心事だったことがわかります。

 当時の記事にある通り、異種間での交配はレオポンにとどまらず、タイゴン(オスがトラ、メスがライオン)やライガー(オスがライオン、メスがトラ)なども行われていたようです。さらに、レオポンは、オスの繁殖能力が低いとみられていたため、メスのレオポンとオスのトラをかけ合わせた「タイポン」を誕生させることも試みられていました。

拡大ライオンとヒョウの間に生まれたレオポンの剥製(はくせい)。2004年撮影
 1971年7月6日付の大阪本社版を見ると、こうした異種間での交配は賛否両論があったようです。「動物の雑種を通じて子どもに遺伝を教えることができ、雑種づくりも結構だ」という声がある一方、「興味本位の遊び」といった批判もあったようです。「まったく無意味だとはいえないが、純粋な種類を見せるのが動物園本来の姿」として上野動物園では雑種づくりはやらないことにしている、という話も載せています。

 5頭が生まれて以降、つくられていなかったレオポン。1970(昭和45)年に5頭のうちの1頭が初めて死んだとき、漢方薬業者から特効薬づくりに「内臓の一部をわけて」といった注文が来たという記事もあり、死んでからも高い関心が持たれたようです。

 ポン子は74(昭和49)年1月16日に14歳で、レオ吉は77(昭和52)年4月10日に17歳で死にました。その後85(昭和60)年7月19日にジョニーが24歳で死んで、世界からレオポンがいなくなりました。

拡大レオ吉の死を報じる1977年4月11日付大阪本社版夕刊の記事

(画像には主な直しだけ朱を書き入れています。現在の朝日新聞の表記基準で認めていない漢字の音訓や、当時は入れていなかった句点を入れる等については、原則として記入を省いています)

【現代風の記事にすると…】

 ▽…ライオンのメスとヒョウのオスをかけ合わせた「レオポン」の誕生に、兵庫県西宮市の阪神パークが成功した。ライオンとトラの間にできるタイゴンやライガーが生まれた例は海外にもあるそうだが、レオポンはおそらく初めてのこと。

 ▽…パパはヒョウのカネオで、ママはライオンの園子。ヒョウはライオン以上にはげしい性質なので、一つのおりに入れておくだけでも大変。同パークの場合は、この同居がうまくいった。

 ▽…7月末に妊娠して先月上旬に2頭生まれた。このレオポンはヒョウのような斑点があるのに、ライオンに似ているそうだ。ママのライオンの気が立っているため、飼育係しか近寄れず写真は残念ながらまたの機会に……。=写真はレオポンを産んだママのライオン(右)とパパのヒョウ

(山室英恵)

当時の記事について

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

  • 漢字の旧字体は新字体に
  • 句点(。)を補った方がよいと思われる部分には1字分のスペース
  • 当時大文字の「ゃ」「ゅ」「っ」等の拗音(ようおん)、促音は小文字に

等の手を加えています。ご了承ください