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昔の新聞点検隊

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【当時の記事】

●クリスマス

本日は耶蘇降誕なり 教会堂にては祈祷を行ひ福引其他の余興を催して楽しう此日を送るべく外人の邸宅又は耶蘇信仰の家々にては種々の贈物をなし室内又は庭園にクリスマス樹を設けて之に種々の玩具菓子等を懸け児童等と共に相嬉戯してサンタクロースの齎らし来る幸福を亨けて遊ぶなるべし 我国の耶蘇ならぬ家々にても近年家庭趣味の増し来ると共に新年飾として此クリスマス装飾を新年に用ふるもの多くクリスマスプレセントの趣向を採って新年のプレセントとし楽く面白く新しき春を迎ふる事大なる流行となり来れり 東京の商店にて古くより此クリスマス飾を行へるは銀座の明治屋にて本年も盛んに店内に装飾を施し銀毛飾、玻璃玩具など燦爛眼を奪ふばかりなるが本年は竹川町の亀屋にても亦盛んに装飾を施せり 他の各店にても本日より来春へかけて装飾せるもの多く皆新意匠を競ひつつあり クリスマスプレセントとしては例のカードを始め玩具菓子入ストッキング、クラッカー、玻璃玩具、動物玩具、舟車、菓子入バスケット、花生其他数百種にてチンセル及び玻璃玩具は独逸製のもの最も美麗にして且つ廉価なるを以て需用頗る多く中にも白鳥、胡蝶、天使抔の羽根を拡げて護謨の糸に釣されたる風に揺られて動く様の宛然自ら飛ぶが如くなりとて賞用せられつつあり 動物舟車等の精巧なる玩具は英国より輸入せるもの最も佳く象のぜんまい仕掛にて我から卓子の上をヨタヨタと歩む様は頗る面白く昨年は自動車玩具の輸入多かりしも本年は荷物運搬自転車多く輸入せり 総じて是等クリスマス玩具は時代の流行によれる最も新なる意匠物を尚とび斯くして年年新奇なる快楽と智識とを児童の脳裡に注入するなり

(1906〈明治39〉年12月25日付 東京朝日 朝刊6面)

【解説】

 明日から師走。今回はクリスマス特集の第1弾です。街がイルミネーションで輝く、この季節を昔はどのように過ごしていたのでしょう。それを紙面から見てみたいと思います。

拡大今年も街を彩り始めたイルミネーション(いずれも東京・新宿)

 100年ほど前の1906年の記事を読むと、当時もツリーや部屋を飾り付けたり、プレゼントを渡したりと今と同じようにクリスマスを楽しむ習慣があったようです。日本基督教団・総幹事の内藤留幸さんによると、「(1549年に)フランシスコ・ザビエルが来日してキリスト教を伝えた頃から、日本の信者の間ではクリスマスが祝われていた」そうです。

拡大今もクリスマスの飾り付けによく使われるチンセル
 さて、冒頭の「耶蘇降誕(クリスマス)」。ルビが振ってあります。確かにこのようにルビを振れば、クリスマスがイエス・キリスト(=耶蘇基督)の生まれた日であることが漢字から推測できます。「銀毛飾(チンセル)」=写真=も漢字の通り銀色の飾りでしょうし、「贈物(プレセント)」「樹(ツリー)」「卓子(テーブル)」も意味はよく分かるのですが、現在ではこのように意訳したり英訳したりした言葉をルビで振ることは原則としてしません。また、クリスマスやチンセルという表記は2度目以降、片仮名で書かれているので、すべて片仮名でそろえたいところです。ただ、当時の読者には、最初から片仮名書きのみで書かれた文章よりも、漢字にこうしたルビを振った方がイメージしやすかったのでしょう。そこで、今回はあえて直さずに、当時のままにしておきましょう。

 次に「耶蘇(やそ)」という表記。最近の紙面では見かけなくなりました。日本国語大辞典(小学館)では「日本では昭和初期の頃まで用いられた」としています。内藤さんによると、「中国語でイエスという発音の漢字を当てると『耶蘇』だったため、昔は日本の聖書でも耶蘇と書いてイエスとルビを振っていた。しかし、神の国運動があった頃に全国にキリスト教を伝道しようとした際、耶蘇という表記では一般の人がイエスとは読めないので、聖書もイエスと片仮名で表記するように改めた」。神の国運動とは、「昭和4(1929)~9年にわたって全国的に展開されたキリスト教の伝道活動社会運動(国史大辞典〈吉川弘文館〉)」です。

 「幸福を亨(う)けて」の「亨」も要注意です。「亨」と「享」は古くは同じ字だったのですが、のちに別字に分かれました。「うける」なら「享」が適切です。現在も間違って入力されていることが多い文字の一つです。他にも、「管-菅」「池-地」「祢-弥」「宣-宜」など間違いやすい文字はたくさんあります。こうした要注意!の字が出てきたときは念入りに点検しています。

 プレゼントが全部「プレセント」になっていたり、エンゼルが「アンゼル」になっていたりしているのは、今とは違う読み方で気になります。「present」「angel」の「s」や「a」をそのまま読んでいたのかもしれませんが、それぞれ「プレゼント」「エンゼル」に直してもらいます。

 「又」と「亦」も表記がそろっていません。現在の紙面では平仮名で書くことにしているので、どちらも平仮名にしましょう。

 「羽根」も現在では、翼を意味するときは「羽」を使うことにしています。「宛然(さながら)」も今なら平仮名で「さながら」「まるで」などとしてもらいます。

 昔の記事の中で、特に気になったプレゼントは「玩具菓子入ストッキング」。今のお菓子入りブーツのようなものが昔からあったのでしょうか。クラッカーがプレゼントの一つだったことは意外です。そこで、プレゼントに注目して、他の時期の記事も少し見てみたいと思います。

 1914(大正3)年11月29日付に「Xマスの贈物 衰微の傾向あり」という見出しがありました。記事を読むと、だれもかれもが贈っていたクリスマスカードの贈答がこの頃、減ったようです。不景気という理由だけでなく、日本ではクリスマスカードを贈ったからといって、年賀状を送るのを省くことができないので、習慣に合わなかったと記事は分析しています。今は、文房具売り場でたくさん売っているので、クリスマスカードを贈るという習慣が必ずしも日本に定着しなかったわけでもないようですが、この頃は、そのように考えられていたようですね。

拡大1925年12月3日付東京朝日夕刊1面
 1927(昭和2)年12月12日付では「クリスマスの贈答品調べ」という記事があり、贈り物をクリスチャン向けと一般向けで分けて取り上げていました。クリスチャン向けの贈り物として、「クリスマスカード」「カレンダー」「文房具やおもちゃの入った靴下」「クリスマスケーキ」が挙げられています。一般向けの贈り物は、食べ物では「美しい箱に入ったチョコレート」が多く、それ以外では「文房具や人形類」だったようです。

 ずっと現代に近づいてみると、1980(昭和55)年12月22日付に記事がありました。「ゲーム人気また上昇 Xマス・サンデー デパートほくほく」とあります。この年は電子ゲームに人気が集まっていたようです。デパート側の「クリスマスから正月にかけて家族が一緒に楽しもうという傾向が一段と高まっている」とのコメントが載っています。また「おもちゃはいまや子どもばかりのものではない」として、100個のルービックキューブが1時間もしないで売り切れた、と書かれています。

 そして2008(平成20)年12月24日付。子どもへのクリスマスプレゼントとして、のり巻きやサンドイッチ、クレープを作るおもちゃが売れて、「巣ごもり」を後押ししている、と報じました。

拡大1953年12月20日付東京本社版朝刊7面
 最後に昔のクリスマスの写真を2枚ほど。1925(大正14)年12月3日付夕刊1面では、12月1日から街でクリスマスの飾り付けがされている、という写真を載せています=上の画像。1953(昭和28)年12月20日付=左の画像=ではクリスマスプレゼントを買うお客でごった返す百貨店の様子が紹介されています。なんと、1日で10万人も訪れた百貨店があったようです。

 昔からあるプレゼントが今も贈られていたり、早い時期から街がクリスマスの飾り付けで華やかになったり、プレゼントを買うお客でクリスマス直前の店が大にぎわいになったりと、時を越えても「変わらないもの」を紙面から感じます。

 次回、12月7日更新のクリスマス特集第2弾はクリスマスプレゼントを届けてくれるサンタクロースをクローズアップ!!! 読者質問のコーナーの記事を取り上げます。

(画像には主な直しだけ朱を書き入れています。現在の朝日新聞の表記基準で認めていない漢字の音訓や、当時は入れていなかった句点を入れる等については、原則として記入を省いています)

【現代風の記事にすると…】

●クリスマス

 今日はクリスマス。教会では祈りをささげ、福引などのイベントで、楽しくこの日を過ごす。外国人の家やキリスト教徒の家ではさまざまなプレゼントを用意する。室内か庭にクリスマスツリーを置いて、おもちゃやお菓子などを掛けて、子どもたちと一緒に遊びながら、サンタクロースが運んでくれる幸せを感じている。

 キリスト教徒ではない家でも、最近はますます楽しまれるようになった。そして、このクリスマスの装飾をそのまま新年の飾りとして使う家も多い。クリスマスプレゼントを新年のプレゼントにして、楽しく面白くお正月を迎えることが大流行している。

 東京で古くからクリスマスの装飾をしている銀座の明治屋は、今年もたくさんのチンセルやガラス細工などで華やかに美しく店内を飾っていて、みとれるほどだ。今年は東京市京橋区竹川町の亀屋も、盛大に装飾している。他の店でも今日から来春にかけて飾り付けをしているところが多く、新しいデザインを目指して競っているようだ。

 プレゼントとしてはクリスマスカードを始め、玩具菓子が入ったストッキング、クラッカー、ガラス細工、動物や船・車などのおもちゃ、菓子が入ったバスケット、花瓶など数百種類にのぼる。

 チンセルやガラス細工はドイツ製のものが最も美しく、さらに安いので需要が多い。中でも、白鳥、チョウ、天使などが羽を広げてゴムの糸でつるされて風で揺らめく様子は、まるで本当に飛んでいるかのようだと、評判だ。動物や船、自動車などの精巧なおもちゃはイギリスから輸入しているものが一番いい。ぜんまい仕掛けの象がテーブルの上をヨタヨタと歩く様子はとても面白い。昨年は自動車のおもちゃの輸入が多かったが、今年は荷物を運ぶ自転車が多く輸入されている。

 これらのクリスマスのおもちゃは流行に沿った最新のデザインのものに人気が集まる。毎年目新しくて楽しくなり、ためになるものが、子どもの思い出になっている。

(山室英恵)

当時の記事について

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

  • 漢字の旧字体は新字体に
  • 句点(。)を補った方がよいと思われる部分には1字分のスペース
  • 当時大文字の「ゃ」「ゅ」「っ」等の拗音(ようおん)、促音は小文字に

等の手を加えています。ご了承ください