メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

昔の新聞点検隊

サンマー・タイムの通信簿

市原 俊介

【当時の記事】

拡大記事全体。クリックすると大きくなります

拡大記事部分拡大。クリックすると大きくなります
サンマー・タイム成績表 まず「結果良好」大きな電力の節約 総理庁審議室調査

はじめての試みだったサンマー・タイムは十一日で終るので、総理庁審議室、中央連絡調整事務局でその影響を詳細に研究していたが、総合的に見て「結果良好」の判定で来年も現行通りの方法で実施することに決定した

その調査では電力の節約が第一の利点となっており、これはサンマー・タイム実施後の五月十日からの一週間と実施前の四月のその期間との比較では石炭換算にして二万トンもの節約になり、この方法で全期間の節約料を算定すると膨大なものになるとしている

(中略)

「主婦」“一日追われ通し”

婦人連盟会長伊藤ふさをさんの話――朝早くから夜遅くまで長時間仕事に追いまくられ、ヤッと仕事を片づけて方々に散在している配給所へとんでゆくと、まだあかるいのに戸をしめて配給お断りが続出、空腹と労働過重で夜は睡眠不足、学校側では涼しいうちに勉強ができていいといっているが、朝早くから起される子供たちは朝からキゲンが悪い

ガスは午前五時からでるかわりに午後は七時に終りとなるので、台所をあずかる主婦としては、朝も夜も家族全員が一せいに食事をすませてもらいたいが、実行されない、仕事を早く片づけたいと思って八時ちょっと過ぎに役所へ行くと、出勤しているはずのお役人が「まだこない」と断わられ、あかるいうちにもう一度行くと、こんどは「帰りました」と退庁時間の厳守をタテにすげない返事! こんな風でサンマー・タイムは総体的に主婦を女中化しています

(中略)

拡大記事部分拡大。クリックすると大きくなります
「官庁」“明るい中帰れて”お役人、銀行員は大体好評

国鉄側からお役人一般の出勤状況を見ると、今までだと朝は八時と九時と二回ラッシュが見られたが、今年は八時半ごろを中心に一度のラッシュに集中され、それだけ混み方もはげしかった、出勤八時のはずのお役所が大体八時には窓口が開かず九時組の銀行、会社員と出勤時が同調したためらしい

都電、都バスの現場では、夕方のラッシュがのびて一度にドッとこないだけでもサンマー・タイムに限ると大好評

お役人一般の感想としては朝の早起きはつらかったが、陽の高いうちに帰れたのはうれしかったというのが大体の結論だが、農林省の食糧管理局や警視庁捜査一、二、三課などややこしい食糧需給の計算や事前割当の作業などで夜間残業が続いたり、早朝から深夜まで刑事連が八方に飛んで活動せねばならぬような事務多忙のお役所はどこでも「こんなに疲れた夏はない」とこぼしている、捜査三課では過労だったが検挙率はぐんとよくなったといっている

労働省が労資二つの立場についての調査をまとめているが大体賛成が三十五%反対が十五%残りの五十%はどっちでもよいという答えが出ている

(中略)

「夜学生」“できたら冬も”

「サンマータイム大歓迎」の投書が夜学生から中央連絡調整事務局にまいこんでいる、東京では約三万、全国では十数万にのぼる夜学生たちが昼間の学生同様にやれたのはうれしい、できれば冬でも実施されたいとの希望

(1948〈昭和23〉年9月2日付 東京本社版 朝刊2面)

【解説】

 6月22日が今年の夏至。ずいぶん日がのびてきました。

 日照時間が長くなるのに合わせて、最近よく耳にするのが「サマータイム」という言葉。日中の明るい時間を有効に使うため、普段より時計の針を進める制度です。今年は東日本大震災で節電の重要性が高まり、電力消費のピーク時間をずらすための方策として取りざたされています。その他のメリットには、混雑の緩和や余暇の充実があります。逆に、時刻が変わることによる混乱や、切り替え期に体調不良を訴える人が多く出るなどのデメリットも指摘されています。

 このサマータイム、アメリカ独立宣言で有名なベンジャミン・フランクリンが1784年に発案したのが最初とされています。はじめて制度が導入されたのは、第1次世界大戦中の1916年のドイツ。その後欧州から世界に広がり、現在ではアメリカやオーストラリアなど、多くの国でとりいれられています。日本でも、1920年代から導入の是非について議論があり、当時の紙面でも賛成反対さまざまな意見が報じられました。

拡大サマータイム初日の様子を伝える記事=1948年5月3日付東京本社版朝刊3面
 実際に日本でサマータイムが実施されたのは、第2次世界大戦後の1948年からの4年間。連合国軍総司令部(GHQ)の指導の下に導入されましたが、寝不足や労働時間増などが不評で51年を最後に廃止されます。その後、一部で行われたこともありますが、制度として全国的に実施されたことはありません。

 今回取りあげたのは、サマータイム導入初年の制度終了間際の記事です。制度が節電に大きな効果をあげたことが報じられ、それぞれの立場からサマータイムへの反応が描かれています。「時計の針を進める」という初めての経験に、戦後の物資不足も合わせて、色々な問題が起きたようです。

 「朝の早起きはつらかったが、陽の高いうちに帰れたのはうれしかった」といった、今実施されても出てきそうな意見があって興味深い一方、サマータイム制度に「大体賛成が三十五%反対が十五%残りの五十%はどっちでもよいという答えが出ている」という労働省のまとめを見ると、それほど大きな混乱はなかったのかもという気もしてきます。

 この年のサマータイム期間は、5月2日から9月11日まで。制度を定めた「夏時刻法」(1948年4月28日公布)によると、「夏時刻」は4月の第1土曜日の午後12時から9月の第2土曜日の翌日の午前0時までの間に実施される、中央標準時から1時間進めた時刻。サマータイムの午前8時は、標準時の午前7時にあたります。この年は夏時刻法の成立がすでに4月後半だったため、実際にサマータイムが行われたのは5月からとなりました。

 この仕組みでは、サマータイムの切り替え日に、1時間ずつ過不足が生じることになります。そこで、切り替えの時間を調整するために、「4月の第1土曜日の翌日(日曜日)は23時間をもって1日とし、9月の第2土曜日は25時間をもって1日とする」(夏時刻法の条文から)ことになっていました。

 記事を点検していきましょう。今回は戦後の記事で、一読しただけでは今の紙面を見慣れた目でもそれほど違和感がありません。ただ、よく読んでいくといくつか気になるところもあります。

 まず気になるのが「サンマー・タイム」。

 今なら「サマー」と、「ン」(撥音〈はつおん〉)なしにするのが一般的でしょう。ただ、外来語の表記は現代でもとても悩ましく、現地の音を基準にするか、慣用を重視するかなどで、どうしても表記に揺れが出てしまいます。「サマー」の場合、「サンマア」「サマア」という表記もありました(「サンマア・タイム」という用例は見つかりませんでしたが……)。

拡大1949年はサマータイム中に北海道で雪が降った=1949年4月4日付東京本社版朝刊2面
 当時は「サンマー」と表記することが多かったようで、複合語としては避暑用の別荘をさす「サンマーハウス」、夏山で行われるスキー「サンマースキー」といった言葉も使われていました。

 ちなみに1991年内閣告示の「外来語の表記」では、慣用に従い撥音なしの表記にすることが記されており、この時期には、もう「サンマー」の表記はほとんど使われなくなっていたのでしょう。朝日新聞のデータベースを調べても、1952年を最後に見出しでは使われていません。

 また、記事中ほとんどの箇所では「サンマー・タイム」と中黒「・」を入れていますが、最後の「夜学生」の原稿だけは「サンマータイム」と表記がばらついています。そろえてもらいましょう。

 現在の基準だと2語からなる外来語の複合語には中黒を入れないのが原則。ただ、広く知られていない言葉で、どこで区切るかわかりにくい場合は、「インフォームド・コンセント」のように区切りを示す中黒があった方がいいこともあります。

 今回の場合、当時なら区切りがあった方がわかりやすかったかもしれません。現在はすでに「サマータイム」という言葉が一般化しているので、中黒なしで問題ないでしょう。

 次に考えたいのが、1段目の記事でサマータイムの効果について触れた部分。「全期間の節約料を算定すると膨大なものになる」と書いてありますが、具体的な数字が書かれていないので、果たしてどのくらいの金額が節約できたのかがわからないですね。

 計算が複雑で算出することが難しく、発表までにデータがそろわなかったのかもしれません。金額がなくても間違いではないのですが、読者としてはぜひ知りたい要素です。およその数値でも、わかる範囲でデータを入れられないか指摘してみましょう。

 「官庁」の記事で使われている、「お役人」や「お役所」といった表現は、現在の紙面ではコメント以外ではまずお目にかからないでしょう。今なら「公務員」や「官僚」、「官庁」などと書くところ。当時の印象はわかりませんが、現代日本では「お役人のお役所仕事」は形式的で融通の利かない仕事を意味するネガティブな言葉です。読者に余計な先入観を与えないよう、価値判断が含まれない、できるだけニュートラルな言葉を使いましょう。

 ただ、「主婦」の記事で使われている「出勤しているはずのお役人」は、伊藤さんのコメントの中なので少し事情が違います。発言のニュアンスを示すために、あえて使うこともありえます。

 一方、この伊藤さんの発言中にある「主婦を女中化しています」という表現は気になります。「女中」という職業を、ひどい状況の比喩として出しているように読めてしまうからです。特定の職業をおとしめているように受け取られるおそれがある発言をそのまま載せるのは、新聞としては避けたいところです。

 もっとも、当時は今とは語感が違った可能性もあります。

拡大1952年3月の国会で夏時間の廃止が全会一致で決まったが、この法案をめぐって与野党議員が毒づき合ったという=3月29日付東京本社版朝刊1面
 日本国語大辞典によると、「主婦」は明治時代には中流家庭や商家で、「女中」などの使用人を使って家政の采配を振るう立場の女性のことで、自身が直接家事に携わることは多くありませんでした。その後サラリーマン家庭が増えるにつれて妻の多くが家事を担うことになり、「家事に専従する既婚女性」を主婦と呼ぶようになっていきます。記事が書かれた当時は、この過渡期です。

 伊藤さんとしては「職業としての女中」ではなく、「家庭における、主婦と女中という二つの立場の関係性」を念頭に置いて、「サマータイムで忙しくなり、主婦の立場が悪くなってしまった」というつもりで「女中化」と言ったのかもしれません。当時の読者がこのあたりの感覚を共有しているのなら、このままの表現でよいような気がします。

 とはいえ、現在では「主婦」という言葉の意味は変わり、そういった事情はわかりにくくなってしまいました。伊藤さんの発言の趣旨を踏まえて、「サマータイムで主婦は周りに振り回され、余計忙しくなっている」などと別の表現にしてはどうかと提案してみましょう。

 現代の校閲記者が、このサマータイムに悩まされることもあります。制度を導入している外国で起きた出来事を書いた原稿に、現地時間と日本時間が併記されている場合です。日本との時差を確認しようとして計算するときに間違えやすいのです。特に切り替え前後の時期には、夏時間か冬時間か、指を折って数えている記者の姿も……。実際に導入されたら、混乱するのもわかります。

(画像には主な直しだけ朱を書き入れています。現在の朝日新聞の表記基準で認めていない漢字の音訓や、当時は入れていなかった句点を入れる等については、原則として記入を省いています)

【現代風の記事にすると…】

サマータイム成績表 「結果良好」節電に大きな効果 総理庁審議室調査

 総理庁審議室と中央連絡調整事務局は、初の試みだった今年のサマータイムの評価を総合的に見て「結果良好」と発表し、来年も現行の方法で実施することを決めた。11日にサマータイムが終了するのに合わせ、その影響を詳細に調査していた。

 調査によると最大の利点は電力の節約で、サマータイム実施後の5月10日からの1週間と、実施前の4月の同期間とを比較すると、石炭換算にして2万トンの節約になるという。全期間の節約量を算定すると膨大なものになる計算だ。

(中略)

主婦「一日追われ通し」

 婦人連盟会長の伊藤ふさをさん 朝早くから夜遅くまで長時間仕事に追いたてられて、やっと仕事を片づけて、方々にある配給所へ飛んで行くと、まだ明るいのに戸を閉めて配給が終わっている。空腹と過労で夜は睡眠不足。学校は涼しいうちに勉強ができていいといっているが、早くに起こされる子供たちは朝から機嫌が悪い。

 ガスは午前5時から出るかわりに、午後は7時に終わりとなるので、台所をあずかる主婦としては困る。朝も夜も、家族全員で一斉に食事を済ませてもらいたいが、難しい。仕事を早く片づけたいと思って午前8時ちょっと過ぎに役所へ行くと、出勤しているはずの職員は「まだ来ていない」と断られ、明るいうちにもう一度行くと、今度は「帰りました」と退庁時間の厳守を盾にすげない返事! こんな風でサマータイムは総体的に主婦を振り回し、時間を奪って疲れさせています。

(中略)

官庁「明るいうちに帰れた」 公務員、銀行員には好評

 国鉄によると、官庁職員の出勤状況は、今まで朝は午前8時と同9時の2回ラッシュがあったが、今年は同8時半ごろを中心に1度に集中し、混み方もはげしかった。本来なら午前8時が開庁時間のはずの官庁が、大体8時には窓口が開かず、9時組の銀行員、会社員と出勤時間が重なったためのようだ。

 都電、都バスの現場では、夕方のラッシュがのびて一度にドッとこなくなったためサマータイムは大好評だった。

 公務員では「朝の早起きはつらかったが、日の高いうちに帰れたのはうれしかった」という感想が多かった。ただ、農林省の食糧管理局や警視庁捜査1、2、3課など、複雑な食糧需給の計算や事前割り当ての作業などで夜間残業が続いたり、早朝から深夜まで捜査員が八方に飛んで活動したりするような多忙な職場では「こんなに疲れた夏はない」とこぼしている。捜査3課は、多忙だったが検挙率は高い伸びを示したとしている。

 労働省が労使二つの立場についての調査をまとめているが、賛成が35%、反対が15%で、残りの50%はどちらでもよいという回答が出ているという。

(中略)

夜学生「できたら冬も」

 「サマータイム大歓迎」の投書が、夜間学校に通う生徒たちから中央連絡調整事務局にまいこんでいるという。東京では約3万人、全国では十数万人にのぼる学生たちが、昼間の学生同様にやれたのはうれしい、できれば冬でも実施して欲しいと希望している。

(市原俊介)

当時の記事について

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

  • 漢字の旧字体は新字体に
  • 句点(。)を補った方がよいと思われる部分には1字分のスペース
  • 当時大文字の「ゃ」「ゅ」「っ」等の拗音(ようおん)、促音は小文字に

等の手を加えています。ご了承ください