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昔の新聞点検隊

マネキン=招金……えっ、ダジャレ!?

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【当時の記事】

初夏の生活
汗にはげる白粉 若さの価一日九円

 

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 ◇…マネキン・ガールの銀座進出。某店の装飾窓(ショウウインドウ)の前は一杯の人だかりだ。衣しやうの広告のため許りと思はれてゐたマネキン・ガールは利用範囲を一歩ひろげて新しい商品の広告に使はれだした。最新流行の洋装を均整のよくとれた彼女のし体にまとって、ガラス箱――街頭からは箱としか見えない――の中にすっくと立つ。両手に新商品の広告を記した紙板(ボード)を持つ。

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 ◇…まづ紙板を胸のあたりに持ってくる。それから眼を右上に三秒、ななめに三秒更にグッと胸を張って街頭人に向って正面を切る。表情のあるやうな無いやうな――生ける人形、文字通り機械的に動く近代美人。傍についてゐる女店員が次の広告紙板を渡す。又同じプロセスの動作。

 (中略)

 ◇…全くえらい仕事だ。三十分休息して、三十分この機械的作業をくり返す。若さと美容とを帝都の真ん中の往来へ投げだして、一日八九円の収入。銀座が生んだ生活相。

(1929〈昭和4〉年6月4日付 東京朝日朝刊11面)

 (漢字に外来語のルビをつけているものについて、漢字の後に丸がっこで読みをいれました)

 

【解説】

 ショーウインドーの内側にすっくと立つ女性の後ろ姿。そりゃマネキン人形なんだから、わざわざここで取り上げることないでしょ……と思わないで下さい。この女性、なんと本物の人間なんです。

 そう、この新聞が出た1929(昭和4)年当時は人形ではなく「マネキンガール」という職業の女性がいたのです。今回、取り上げたマネキンはウインドーの中にいますが、どちらかというと今でいうファッションモデルのようなもので、流行の洋服を着こなしたり、化粧品の実践販売のモデルになったりしていたそうです。

 

 マネキンガールのデビューは1928年。昭和天皇の即位を祝うため、東京・上野で開かれた御大礼記念国産振興東京博覧会で、高島屋が宣伝のために、マネキンではなく本当に女性に服を着せてみせたことで人気を集めたと言われています。

 昭和の詩人・丸山薫の妻、三四子(1907~95)の著書「マネキン・ガール」を読むと、昭和初期のマネキンガールの様子を知ることができます。三四子も1931(昭和6)年ごろマネキンとして活動していました。前述の1928年の東京博覧会でのマネキンについても、「『あれれ、あのマネキンは動くじゃないか』『まさか人形が動くわけないでしょ』『ほら、よく見てごらんよ。笑ったじゃないか』――といったように見物客は大騒ぎだったそうです」と見物客が驚く様子を紹介しています。マネキンのトップともなると今のタレント並みの忙しさで、1年先のスケジュールまで埋まっていたそうです。 

拡大1949年10月8日付東京本社版朝刊2面
 ちなみに男性のマネキンもいた模様です。これは1949年の記事。大阪の百貨店の化粧品売り場で、髪の分け方やひげのそり方のモデル役を務めています。「どんなスマートな男かと思ったらごく地味な三十歳の男」……余計なお世話!と怒られてしまいそうですね。

 

 それでは校閲していきましょう。真っ先に気になったのはマネキンの仕事を後ろ向きにとらえていること。職業の哀愁を表す記事だから当然かもしれませんが、そればかりでは誇りを持ってマネキンをしている女性に失礼です。ここでは明るく前向きにマネキンガールの働きを伝える記事を目指したいと思います。

 

 まず直したいのは「利用範囲をひろげ、広告に使はれだした」という表現。「利用」も「使はれだす」も、マネキンガールをモノ扱いしているようだと思いませんか? れっきとした人間なのだから、「活躍の場を広げ始めた」などにしませんか、と提案してみます。

 「均整のよくとれた彼女のし体にまとって」――きっとスタイルのよい女性なのでしょう。しかし女性の私からみると、男性目線のいやらしい見方のような気がします(私だけでしょうか)。ここは「持ち前のスタイルを生かして」などにしては、と言い換えをお願いします。「街頭からは箱としか見えない」も、嫌な言い方。マネキンからすれば職場なのです。「ガラス箱」と説明しているのだから、さらに説明を付ける必要はないでしょう。これは抜いてもらうこととします。

拡大巨大なマネキン? 名古屋の名物・ナナちゃん=2010年8月
 一番気になるのは、「若さと美容とを帝都の真ん中の往来へ投げだして」。若くてきれいな女性であるのは間違いないのでしょうが、「投げだして」という表現はこの職業を低く見ているから出てくるものでしょう。「東京の真ん中の往来で商品をアピール」とします。

 

 マネキン=ファッションモデル……と聞いて、ある言葉を思い出す方も多いのでは。そうです、「マネキン」はもともとフランス語の「マヌカン(mannequin)」から来た言葉。日本でも、ショップでファッションについてアドバイスしてくれる店員さんのことを「ハウスマヌカン」と呼ぶことがありますよね。

 ではなぜフランス風発音でなく「マネキン」になったのか? 有力な説は、マヌカンだとお客を「招かん」に通じるため、逆にお金を招く→招金→マネキン、になったんだとか。ダジャレやったんかい!とつい突っ込んでしまいました。

(画像には主な直しだけ朱を書き入れています。現在の朝日新聞の表記基準で認めていない漢字の音訓や、当時は入れていなかった句点を入れる等については、原則として記入を省いています)

【現代風の記事にすると…】

初夏の生活
活動を広げるマネキンガール、銀座に進出

 

 マネキンガールがついに銀座に進出! ○○店のショーウインドーの前は人でいっぱいだ。衣装の広告のために働くことが多かったマネキンガールだが、活躍の範囲を新商品のPRにも広げ始めている。

 最新の流行の洋服を、持ち前のスタイルを生かして身にまとい、ウインドーの中にすっくと立つ。両手には新商品の広告を記したボード。

 まずボードを胸のあたりに持ってくる。それから右上を3秒見つめ、斜め方向をさらに3秒。ぐっと胸を張り街頭の人を見つめる。そばに付いている女性店員が次に持つべきボードを渡すと、同じ動作を繰り返して通行人と向かい合う。

 (中略)

 30分間ボードを持ち続け、休憩をしたらまた続ける。東京の真ん中の往来で商品をアピールするマネキンガール。まったく大変なこの仕事。収入は1日につき8~9円だという。

(梶田育代)

当時の記事について

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

  • 漢字の旧字体は新字体に
  • 句点(。)を補った方がよいと思われる部分には1字分のスペース
  • 当時大文字の「ゃ」「ゅ」「っ」等の拗音(ようおん)、促音は小文字に

等の手を加えています。ご了承ください