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昔の新聞点検隊

拡大1949年6月6日付東京朝日朝刊2面。クリックすると大きくなります。画像には主な直しだけ朱を書き入れています。現在の朝日新聞の表記基準で認めていない漢字の音訓や、当時は入れていなかった句点を入れる等については、原則として記入を省いています

【当時の記事】

タチカゼが優勝 日本ダービー 五万円の大穴

 第十六回日本ダービーは東京競馬第六日の五日午後四時十五分府中コースで五万の大観衆を集め明け四歳サラブレッドの精鋭二十三頭出場、距離二千四百メートルで挙行、関西からの遠征馬六頭中でも期待されなかったタチカゼ号(馬主京都熊谷八郎氏)がゴール前の直線路に入って外わくから追い上げ、人気馬トサミドリ、ホウシュウ、キングライトらをけ落し、シラオキに半馬身の差で優勝、賞金計九十一万五千四百円を獲得した

 タチカゼの優勝は番狂わせで、単勝売上げ馬券六万六千四百九十五票中適中票はわずか七十二票で、五万五千四百三十円という単勝払いもどしの新記録をつくった

日本ダービー 二四〇〇メートル23頭①タチカゼ(近藤)2分33秒4②シラオキ半馬身③ホウシュウ半馬身④ミナミホープ鼻⑤トサノボル、単五五四三〇、複九二三〇、七五〇、二六〇、連三二九〇

 (写真)日本ダービー 府中競馬場で

 (1949〈昭和24〉年6月6日付 東京朝日 朝刊2面)

【解説】

 2012年の第79回東京優駿(日本ダービー)はディープブリランテが優勝し、09年に生まれたサラブレッド7572頭の頂点に立ちました。3歳馬による日本ダービーは、馬にとっては一生に一度しか出ることのできない大舞台。競馬に携わる人にとっても、「ダービーで一年が終わり、一年が始まる」と言われる最大の目標です。

 

 競馬のダービーは1780年にイギリスのダービー卿によって創設されました。英国のレースにならって1932年に日本でつくられたのが「東京優駿大競走」、現在の日本ダービーです。皐月賞、菊花賞とあわせて「3歳クラシック」「3冠レース」と呼ばれ、世代のナンバーワンを争います。プロ野球の最多勝争いを「ハーラーダービー」と言うのは、ダービーが最高峰のレースであることから派生した言い方です。

 一方、サッカーで同じ地区同士の対戦を「さいたまダービー」「大阪ダービー」などと呼びますが、こちらは競馬と直接関係ないようです。諸説ありますが、一説にはイギリスのダービー市にあった二つのチームの試合をダービーマッチと言ったことから広まったといいます。

 

 今回は、約80年の歴史を持つ日本ダービーの中で、最も単勝の配当が高かったレースをご紹介しましょう。優勝したのは関西からの遠征馬、タチカゼ号です。

 気になる金額は……なんと100円が5万5430円に! 63年前の記録であるにもかかわらず、いまだにこれを超える配当はありません。19番人気での優勝も、空前絶後の記録です。1992年以降はフルゲートが18頭になったので、枠が増えない限りこの先も破られることはありません。

 それでは昨年のダービーの記事と見比べながら、点検していきましょう。まず気づくのは、今回の記事が「明け四歳」としているのに対し、2011年は「3歳馬」となっていることです。どちらかが間違っているのでしょうか?

 実はどちらも問題ありません。日本競馬では、2001年度に年齢の表記が改められました。それまでは生まれたときの年齢(当歳)を1歳とし、年が明けるごとに1歳増える仕組みでした。つまり数え年だったのです。それが01年度から、当歳を0歳とするようになりました。日本の馬が海外のレースで活躍する機会も増え、諸外国の基準にあわせることになったのです。

 これによって、レース名も大きな変更を迫られました。「○歳ステークス」などは新しい表記にそろえなければなりません。「朝日杯3歳ステークス」は「朝日杯フューチュリティステークス」と名前を変えることになりました。今回の記事も現在の表記にあわせて、「3歳」と書くことにしましょう。

 

拡大昨年の日本ダービーはオルフェーヴルが優勝=2011年5月30日付東京本社版朝刊26面
 点検を続けます。「期待されなかったタチカゼ号」という表現はいかがでしょうか。23頭中19番人気ですから、ほかの馬よりファンの期待を集めなかったのは事実ですが、露骨すぎて今の紙面では使われないでしょう。タチカゼの馬券を持っている人も少なからずいたわけですし、何より馬主や生産者ら関係者に対して礼を失している印象です。「人気薄」などの方が単にオッズ(倍率)の話をしているニュアンスが出るのではないでしょうか。

 「外わくから追い上げ」も違和感があります。競馬で「枠」といえばスタートゲートの枠順のことを指します。競馬はセパレートコースではありませんから、最後の直線でインコースに入るかアウトコースに入るかは、枠順とは関係がありません。「外から追い上げ」で良いでしょう。

 そういえば今回の記事には、馬番がありませんね。宝くじの当選番号のように、馬券を買っている人にとってはたいへん重要な情報です。馬名も5着までしかありませんが、現在ならGⅠレースは全頭の着順と馬番を載せています。

 

 末尾の払戻金をご覧ください。「連」というのは、1着と2着に入る馬を当てる馬券のことです。1着を当てる単勝が5万円オーバーなのに、「連」が3290円というのはおかしい……と思いませんでしたか? 実は当時、複数の馬を選ぶ馬券は1着と2着の「枠」を当てる「枠連」しかなかったのです(現在と違い、組み合わせだけでなく順番も当てる必要がありました)。同じ枠には2頭以上入ることが多いので、タチカゼのように人気薄の馬でも同枠の馬が人気を集めていれば、オッズは下がります。この年の場合、タチカゼと同じ4枠には単勝3番人気のミナミホープらがいました。今では2着までに入る馬番を当てる「馬連(うまれん)」、3連単やワイドなどもありますね。こうした馬番を選ぶいろいろな種類の馬券がない当時の状況を考えると、記事には枠番も入れてもらうのが良いかもしれません。

 

 同じ枠の場合、騎手の帽子も同じ色になります。競馬場で観戦していると、向こう正面などでひいきの馬を見失ってしまうことがよくありますが、帽子の色だけ見ていれば枠連が当たったかどうかはわかります。競馬をまだあまり知らない方には、おすすめの馬券と言えます。

 もう一つ入れてほしいのが、優勝馬タチカゼの調教師と騎手の名前です。「日本ダービー50年史」(日本中央競馬会)から、彼らのエピソードをご紹介します。

 タチカゼは1936~42年に横綱だった男女ノ川(みなのがわ)にたとえられるほど立派な馬体をもっていましたが、関西から東上してすぐ肩を痛めてしまい、ダービーまでほとんど出走できませんでした。伊藤勝吉調教師はすっかり気落ちし、近藤武夫騎手に「無事に回ってくればいいから、済んだら早く帰ってこい」と言い残して大阪に帰ってしまったそうです。

 タチカゼがダービーを勝ったという知らせを伊藤調教師が聞いたのは、京都競馬場の事務所でした。うそだ、間違いだと言うばかりでしたが、はっきり勝ったことがわかると「勝ったか」と言って腰をおろし、しばしぼうぜんとしていたといいます。

 調教師ですら予想しなかったタチカゼの勝利。出走するすべての馬にチャンスがあるからこそ、競馬はおもしろいのです。

【現代風の記事にすると…】

   日本ダービー成績
   着   枠  馬番  
  1  4 14  タチカゼ
        (近藤)2分33秒4
  2  2 7  シラオキ
  3  6 20  ホウシュウ
  4  4 13  ミナミホープ
  5  1 3  トサノボル
  6  5 18  キヤプテンオー
  7  3 8  トサミドリ
  8  5 16  キングライト
  9  5 17  チヨカゼ
  10  4 15  カネフブキ
  11  1 2  ベストランナー
  12  5 19  アカギヤマ
  13  2 6  シゲフジ
  14  3 9  センゴクヒメ
  15  3 11  テツオー
  16  4 12  ゴタンダヒメ
  17  6 21  ワカウメ
  18  1 1  フジモア
  19  6 22  アシガラヤマ
  20  6 23  コロンブス
  中止 2 4  コマオー
  中止 2 5  ヤシマドオター
  中止 3 10  ミネノマツ
         
  ▽単   55430円
  ▽複 9230円
      750円
      260円
  ▽枠連 ④② 3290円

伏兵タチカゼが優勝 日本ダービー

 競馬の第16回日本ダービーは5日、東京競馬場の芝2400メートルに3歳馬23頭が出走して行われ、関西馬6頭で最も人気薄だった単勝19番人気のタチカゼが優勝した。伊藤勝吉調教師、近藤武夫騎手はともにダービー初優勝だった。馬主は京都の熊谷八郎氏。府中には5万人の大観衆がつめかけた。

 タチカゼは最後の直線で外から鋭い末脚を見せた。人気を集めていたトサミドリ、ホウシュウ、キングライトらをまとめて差し、シラオキに半馬身の差をつけて優勝。賞金91万5400円を獲得した。

 単勝の的中は6万6495票中わずか72票。5万5430円はダービーの新記録だった。

(写真)日本ダービー=東京競馬場

(森本類)

当時の記事について

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

  • 漢字の旧字体は新字体に
  • 句点(。)を補った方がよいと思われる部分には1字分のスペース
  • 当時大文字の「ゃ」「ゅ」「っ」等の拗音(ようおん)、促音は小文字に

等の手を加えています。ご了承ください