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昔の新聞点検隊

首相暗殺? 揺れに揺れた続報 関東大震災(4)

拡大1923(大正12)年9月2日付 大阪朝日号外。画像をクリックすると大きくなります。主な直しだけ朱を書き入れています。現在の朝日新聞の表記基準で認めていない漢字の音訓や、当時は入れていなかった句点を入れる等については、原則として記入を省いています
【当時の記事】

山本伯暗殺の風説 未だ尚ほ信ぜられず

 内閣瓦解の後に大命を拝して新閣僚の選定に努めつつあった山本権兵衛伯は一日激震の最中何者にか暗殺されたといふ風説伝はる、流言頻々たる折柄本社は尚ほ極力精探中であるが未だ信ぜられず

(1923〈大正12〉年9月2日付 大阪朝日号外)

【解説】

 関東大震災の発生時から、当時の状況を追う記事の4回目です(①言語に絶する大混乱泥だらけの記者たちそのとき組閣の真っ最中だった、 もぜひご覧下さい)。

 未曽有の被害が出た関東大震災は、新聞社の取材・紙面製作にも大きな混乱をもたらしました。東京朝日新聞は社屋が焼け、約2週間後に復刊するまで、大阪で印刷された大阪朝日新聞が送られてきました。しかし、震災直後は通信事情が特に悪く、東京・大阪間は電話による原稿のやりとりができませんでした。

 そんななか、震災発生の翌日、冒頭の記事が大阪朝日の号外に掲載されました。前首相の急死を受けて組閣を進めていた山本権兵衛が、「暗殺されたといううわさがある」と伝えています。今回は、この記事を取りあげます。

 東京駅で首相の原敬が暗殺されてからわずか2年。震災による混乱のさなかに再び悲劇が起こったとしたら大ニュースですが、もちろん山本が暗殺されたという事実はありません。うわさがどこから流れてきたのか定かではありませんが、いくらビッグニュースでも裏付けが取れない以上、今では「暗殺」などという人の生死にかかわる表現で紙面に載せることはありません。

 ここで指摘をひとつ。記事中の「何者にか暗殺された」は、今なら「何者かに……」とする方が自然ですね。

 山本は震災翌日の2日には組閣を終えて親任式に臨み、第2次山本内閣を発足させました。しかし、混乱のなかで正しい情報がなかなか大阪に伝わらなかったようで、山本の安否に関する続報も揺れました。

拡大1923年9月3日付大阪朝日朝刊1面

 

◇  ◇  ◇

山本伯狙はる 数名の暴漢現はれて

確なる筋につき探聞するところに拠れば山本伯は一日午後二時内閣組織の親任式を終り水交社に引揚げたが三時頃数名の暴漢現はれ伯を殺害せんとしたるに伯は大に驚き巧に姿を消したといふ風説があるなお一説には地震の為めに惨死したとも言はれてゐる

(9月3日付 大阪朝日朝刊1面)

拡大1923年9月4日付大阪朝日夕刊1面
  

◇  ◇  ◇

 

  

内閣組織の最中 水交社の二階落ちて 山本権兵衛伯は負傷した

九月一日最初の大地震が東京に襲来した時築地の水交社では新首相山本権兵衛伯が後藤子其他を招致して協議に耽ってゐたが大地震と共に二階墜落流石沈勇の山本伯も顔色蒼白となり前庭に飛び降り其他の面々もこれに続いたが山本伯は壊れ落ちた壁土に肩を打たれ負傷し自動車を駆り帰邸した

(9月4日付 大阪朝日夕刊1面)

 

拡大1923年9月5日付大阪朝日朝刊2面
 

◇  ◇  ◇

山本伯は微傷も負はず

(前略)最初激震のあった時山本伯は築地水交社に平沼騏一郎、岡野敬次郎両氏を招いて入閣の承諾を求めつつある最中で財部彪、山之内一次、安楽兼道の諸氏並に浅井前首相秘書官も居合せたが、激震と同時に控室にあった百数十名の記者団は水交社前の広場に逃れ伯一同を気懸ってゐたところ伯は最後に裏の広場に微傷も負はず出て来た大穴をあけて落ちこんだ屋根は幸ひ会議室の隣であったらしい(後略)

(9月5日付 大阪朝日朝刊2面)

 

◇  ◇  ◇

 大まかにまとめると、2日から5日にかけて、記事の内容は以下のように変わりました。

 「何者かに暗殺されたといううわさがある」(2日付)▽「数人の暴漢に襲われたといううわさがある。地震で亡くなったとも言われている」(3日付)▽「崩れてきた壁土で肩を打って負傷した」(4日付)▽「かすり傷も負わなかった」(5日付)。

 東京と連絡がつかず、風説の真偽を確かめられなかったためですが、今では考えられない記事の変遷です。

 とはいえ、一国のリーダーの安否は大きな関心事。当時の大阪朝日の編集局では、記事を掲載するか否か、掲載するにしてもどんな表現にするのか、大いに議論があったのではないでしょうか。震災直後の混乱した様子がうかがえますね。その陰で、情報の真偽を確かめようと走り回る記者の姿は、今も昔も変わらないと思います。

【現代風の記事にすると…】

山本権兵衛氏 暗殺情報流れる

 新内閣成立に向け組閣を進めていた山本権兵衛氏が、関東大震災の混乱の中、何者かに暗殺されたという情報が流れている。取材を進めているが、真偽は確認できていない。

(高島靖賢)

当時の記事について

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

  • 漢字の旧字体は新字体に
  • 句点(。)を補った方がよいと思われる部分には1字分のスペース
  • 当時大文字の「ゃ」「ゅ」「っ」等の拗音(ようおん)、促音は小文字に

等の手を加えています。ご了承ください