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昔の新聞点検隊

80年前にも「100均」があった! 時代の流行児・10銭ストア

拡大1932(昭和7)年5月14日付 東京朝日朝刊10面。画像をクリックすると大きくなります。主な直しだけ朱を書き入れています。現在の朝日新聞の表記基準で認めていない漢字の音訓や、当時は入れていなかった句点を入れる等については、原則として記入を省いています

【当時の記事】

時代の流行児 十銭ストアー『からくり』ばなし
どうしてああ安く売れるか

 格安品や、デパートの地下室マーケットがいつも押すな押すなの盛況であり、残品整理、店仕舞、全部半額提供などの建看板には余り必要も感じて居なささうなお客さんまでが押しよせてゐます。世の中の景気が、今の様ならまだこの世相は相当に続くものでせう。この近代世相の波に乗って十銭ストアーといふものが市内外の各方面に現れてゐます。今日迄もっとも多く皆さんの目についてゐるのは高島屋の十銭ストアーでせうが、六月一日からは松屋も銀座尾張町交叉点新橋側に同じ様な均一店をだすといふ。そもそもこの十銭ストアー及びその他二十銭、五十銭などの均一格安売りは如何にしてあの様に安価に提供することが出来るのか。読者の新しい質問にお答へするつもりで一二関係方面を調べて見ました。

十銭で売れるものだけ 何でもそろふ訳にはゆかぬ 要は仕入れの苦心

 私共の十銭ストアーはアメリカのテンセント・ストアーの組織によって出来てゐるのです、即ちもっともすくない金額で生活の必要を満すといふ事がモットーです、それには何も好んで十銭といふ低額の金を看板にし売り物にしてゐる訳ではないので仕入の仕方によっては『大抵の』必要品が十銭で提供出来る所に目をつけたのです

 (略)
 安からう悪からうといふ予感はありますがそれは提供の方法により、製造の方法によってはまぬかれるものです、(略)ネクタイ一本でも相当なものが十銭、ソロバンでもスリッパーでも約二千種に近い商品が何から何まで十銭で提供出来る。そもそもの根本義は、大量生産によって従来趣味的であった家庭工業を極端に合理化し、材料を安価に買ひ、然も出来るだけそれを合理的に節約する、即ち金属製のサジ、ホークなど長さを出来るだけ詰め、金属の肉を出来るだけけづって材料をすくなくてすませる、それに労力と機械を最大限度にはたらかせるから工場その物の活動を十二分にし費用の割合が非常に安くなります。

 (略)(高島屋 小瀬支配人の談)

安からう悪からうも事実 だが「十銭」の値打は十分[某研究者の談]

 (略)一個のガラス器が驚く位安い!然しつくづく見るとどれも形が一様でなく、いびつになってゐるとかまちまちな所がある、質も中にあは粒のあるものがある、これは普通なら再度カマでとかして原料にするところだが実用には不足はない、こんなものを原料とほとんど同一の値で買ひ取って売るといふ事もあります。

 (略)『安からう悪からう』も事実には違ひないが買ふ人が「十銭」だけの値打ちを認めて買ふのだからどちらにも文句はないはずです。

(1932〈昭和7〉年5月14日付 東京朝日朝刊10面)

【解説】

拡大デンマークの雑貨大手・ゼブラ社が大阪に日本初の店舗を出すことを報じた記事=2012年2月28日付大阪本社版朝刊8面
 「100均(ヒャッキン)」――皆さんおなじみの100円均一ショップの略称です。私にとって、それはとってもときめく言葉。一カ所に落ち着く性格でないのか、会社に入ってからなぜか引っ越しばかりしていて、入社12年目で今の住居が6カ所目。新居に合わせて……という名目で、引っ越しの度に雑貨をよく買い替えるのですが、ちょうど良いものが見つかるまでヒャッキンで「とりあえず」購入し、そのまま気に入ってずっと使い続けている物もたくさんあります。

 そんな私にとって、デンマークの雑貨会社・ゼブラのプチプラ(低価格帯)ショップ「TIGER」が大阪・アメリカ村に初上陸した、というのは大きなニュースでした。

 大阪出身なので里帰りした時にはぜひ行ってみようとワクワクしているのですが、予想をはるかに超える人出のために「商品が足りない」「お客さんをさばききれない」といった問題が起き、臨時休業している日も多いようです。100円あれば北欧で大人気のかわいい雑貨が買える!という事実が、お得なもの好きの関西人の心に火をつけすぎたのでしょうか。

 しっかしヒャッキンて、どれぐらい前からあったんやろな~。ふと思い立ち調べてみると、なんと昭和の初めにはすでに存在していたことがわかりました。その名も「10銭ストア」(テンセンストア)。

 1931(昭和6)年に百貨店の高島屋が10銭均一のお店を大阪で開業したのが始まりで、高島屋の社史によると、当時の米国で成果をあげていた「10セントストア」の研究を重ねたもの。1926年に10銭均一の売り場を始めていましたが、その後丸ごと均一にした店舗を次々と開業し、最盛期には全国に106店舗を数えました。20銭均一の商品も加えて「10銭20銭ストア」もあったそうです。朝日新聞でも、当時のにぎわいを紹介した記事が見つかりました。

拡大1908年に松屋呉服店が出した広告。「一大英断をもって来る2月1日より商品の一部の価格を同一にし非常の廉価をもって御需に応じたし」などとある=1月28日付東京朝日朝刊1面
 さらにさかのぼると、価格は違いますが1910(明治43)年の紙面に「一円均一」という東京・日本橋の松屋呉服店の広告が、1908年にも同じ店の「均一法大売出し」という広告がありました。

 さっそく記事を見ていきましょう。

 前文の「デパートの地下室マーケット」。これは今で言うデパ地下の食品売り場のことでしょうか。80年前にもこのような文化があったんですね。

 見出しの後ろには「私共の十銭ストアーは」で始まる文章が。「私共の」と言うからには、記者ではなく業界関係者の言葉を記事にしたものなのでしょう。前文に出てくる高島屋の人? それとも6月に開業するという松屋? 主体が誰を表しているのかわかりにくい文章ですが、しばらく読み進めてみましょう。

 「仕入の仕方によっては『大抵の』必要品が十銭で提供出来る」「安からう悪からうといふ予感はありますがそれは提供の方法により、製造の方法によってはまぬかれるもの」として、人々が欲しい品を10銭で売るリアルなコツがずらりと並んでいます。「安かろう悪かろう」という表現は、こんな昔から使われていたんですね! 日本国語大辞典(小学館)を見ると、何と1770年の使用例が載っていました。

 昭和初期といえば、かけそばが7銭、大福餅が10銭で6個買えた時代でした。現代の100円よりはもう少し価値があるといった感じでしょうか。それに当時は、今ほどあらゆるモノが当たり前に買えた時代ではありません。一体どんなものが売られているのでしょう? 

 「当時の記事」の引用では略しましたが、後ろにはお風呂場を新設する例として、「石鹼(せっけん)、歯磨、楊子(ようじ)……」などと10銭ストアで買える物を並べています。充実した品ぞろえは、昔も今も変わらないようです。

 記事の最後に「高島屋 小瀬支配人の談」と入っています。これで冒頭の「私共」が支配人のことだったとわかりますが、これでは最後まで読まないと誰の意見かがわかりませんよね。現在の朝日新聞では記者の署名は末尾に入れていますが、社外の評論家・研究者のコメントや対談の場合は、記事の初めに名前を入れて誰の意見かをすぐにわかるようにしています。

 この記事の前文には「一二関係方面を調べて見ました」とありますが、「高島屋支配人に話を聞いた」など、具体的に誰に取材をしたのかをここに入れた方がいいのではないでしょうか。筆者に提案してみましょう。

 次は「安からう悪からうも事実 だが値打ちは十分」として、第三者の立場からの意見を載せています。「某研究者」として名前は出していませんが、これはあえて伏せているのでしょうか。ここまで長い記事で検証するなら、この研究者の名前も出した方がよいでしょう。

 前文には「世の中の景気が今のようなら……」と好景気であることを示す文があります。この10銭ストアが誕生した1931(昭和6)年は昭和不況に底を打った年で、景気に明るい兆しが見えていました。

 「実録昭和史」(ぎょうせい刊)によると、10銭ストアのような雑貨店だけでなく、10銭で洋酒が飲める「10銭スタンド」などもこの時期に流行したそうです。サラリーマンの1日のおこづかいが50銭そこそこだったという時代。5分の1をここで使うか? ためておくか? 悩ませるお店が次々と誕生したのも納得できます。

 高島屋の10銭ストアは、一時は「豆戦艦」と呼ばれるほど絶大な人気を誇りましたが、戦争による統制の影響で次々と閉店を余儀なくされました。

 しかしいつの時代も、安くて使えるものを追い求めるのが消費者というもの。再び「ヒャッキン」で買い物が楽しめるようになりました。10銭ストアの創業時の精神は、今のヒャッキンでもしっかり受け継がれています。

 私も「TIGER」に行くのが楽しみで仕方ありません!

【現代風の記事にすると…】

大人気の10銭ストア 安さの秘密をさぐる

 格安品売り場やデパ地下の食品売り場は、いつも押すな押すなの大盛況! 「店じまい」「全品半額」の立て看板があると、そんなに欲しくなさそうなお客まで押しよせている。好景気がしばらく続くなら、まだまだこの光景が続きそうだ。

 時代の波に乗って各地に現れているのが安売り店「10銭ストア」。目立つのは高島屋の10銭ストアだが、6月1日には松屋も同じような均一店を銀座にオープンする。

 そもそも10銭ストアや20銭、50銭などの均一価格の安売り店は、なぜあのような安い値段でモノを提供することができるのか。高島屋の支配人・小瀬○○さんと、価格事情に詳しい研究者・●●●●さんに話を聞いた。

「10銭で売れるモノ」を追求、大事なのは仕入れの工夫
高島屋支配人・小瀬○○さん

 私たちの10銭ストアはアメリカの10セントストアを参考にした。生活に必要なものをできるだけ安く提供することを目標にしている。仕入れの方法を工夫すれば生活に必要な「大抵の」品が10銭で提供できるところに着目した。

 (略)
 「安かろう悪かろう」と思うかもしれないが、それは流通や製造の方法を工夫すれば改善できる。(略)ネクタイでもそれなりのものが1本10銭、そろばんやスリッパなど約2千種の商品を10銭で提供できる。

 安く提供できるのは、生産を合理化しているから。家内工業ではなく、工場で大量生産する。材料も一括して大量に仕入れる代わりに安くしてもらう。それをできるだけ節約する。金属製のスプーン、フォークなどでも長さをできるだけ詰め、厚みもできるだけ削る。それに工場をフル稼働させるので、コストを非常に抑えられる。

 (略)

「安かろう悪かろう」の面もあるが「10銭」の値打ちはある
研究者の●●●●さんの話

 ガラス食器が驚くほど安い! しかしじっくり見ると形がそろわず、いびつだったり不ぞろいだったりする。中に泡粒のあるような、質の悪い物もある。普通ならもう一度窯で溶かして原料にするところだが、実際に使ってみると特に問題はない。(略)「安かろう悪かろう」の面もあるのは確かだが、買う方も「10銭」の値打ちの物だと承知の上で買うのだから、生産者、消費者のどちらにも文句はないはずだ。

(梶田育代)

当時の記事について

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

  • 漢字の旧字体は新字体に
  • 句点(。)を補った方がよいと思われる部分には1字分のスペース
  • 当時大文字の「ゃ」「ゅ」「っ」等の拗音(ようおん)、促音は小文字に

等の手を加えています。ご了承ください